111 / 159
お仕事の時間ですよ 3
王宮騎士物語 27 黒の国 2
しおりを挟む
シャノア王国のルーチェラインダ王の子で継承権第一位の王子、ヨークラウデンの乳母はサアラの母カリネで、二人は乳兄弟である。カリネは前王の娘でソウジュ家に嫁いだ。即ち、ヨークラウデンとサアラは従兄弟の間柄でもあるわけだ。
二人の姿は双子かと見紛うほどによく似ていた。物心ついたときから共に過ごし、時々入れ替わっては、周囲の者をからかい、楽しんでいたようだが、母と執事にはすぐに見破られ、二人で罰掃除をすることも度々であった。
カリネは近隣の王子との縁談や貴族の求婚をすべて断り、ソウジュ家に嫁いだ。サアラが二人に、なれそめを聞いても、大恋愛で結婚したのよ、としか教えてもらえない。こっそり叔父に聞くと、一悶着あった、とだけ教えてくれた。サアラは、その内詳しく話してもらおうと思っている。
「ヨーク!」
広間で待っていたヨークラウデンは不安げな顔で、サアラを待ち構えていた。
「どおしたんだ?この髪。」
サアラと同じ、腰まである長いストレートの黒髪を後ろで束ねた姿はそこにはなかった。不揃いに切られたそれは、自ら切ったとヨークラウデンが言った。
「塗料をかけられたので、切った。」
「落とせなかったのか?」
頷く彼の悔しげな行き場のない感情が感じられる。
「奴か……くそっ!…その髪は……もう少し短く整えよう。」
「すまん。迷惑かけるが……」
「いいさ、母のところへ行こう。」
国王には、第一王子ヨークラウデンの他にも年の近い王子がいる。側室の子、第二王子は産まれ月が僅かに遅いだけだ。その側室の嫉妬混じりの呪いの言葉を子守唄に聞いて育った第二王子の捻れた感情の矛先が、この第一王子に向かうのは容易に想像できよう。
シャノア王国、王位継承順位は世襲制ではなく、この国独自の方法、魔力量を元に決められる。
少ないながら一般人も魔力を持つシャノア王国である。特に王族は強い魔力を持って産まれることが知られている。産まれてすぐに魔術塔にて魔力量を調べ、その結果、王位継承順位が書き換えられる。現在の一位ヨークラウデンは百年に一人と言われる程の魔力持ちだ。それゆえ、実力差は明らかなのだが、年の違わぬ第二王子側は面白くない。ヨークラウデンが不慮の事故で亡くなりでもしたら、次点の第二王子が繰り上がるので、陰で画策する者もいる。表立って仕掛ければ処罰対象となる恐れがあるので、こそこそ、ちくちく、小競り合いは日常的である。今回も、偶然を装って王宮の壁面修理に使う塗装剤や塗料をこぼし、引っ掛けられたのだ。背中一面が汚され、髪は塗装剤で固まり、洗っても落ちなかった。修理工に非はないが、管理責任を問われ、職人は全て入れ替えられ、工事は続けられている。
二人の姿は双子かと見紛うほどによく似ていた。物心ついたときから共に過ごし、時々入れ替わっては、周囲の者をからかい、楽しんでいたようだが、母と執事にはすぐに見破られ、二人で罰掃除をすることも度々であった。
カリネは近隣の王子との縁談や貴族の求婚をすべて断り、ソウジュ家に嫁いだ。サアラが二人に、なれそめを聞いても、大恋愛で結婚したのよ、としか教えてもらえない。こっそり叔父に聞くと、一悶着あった、とだけ教えてくれた。サアラは、その内詳しく話してもらおうと思っている。
「ヨーク!」
広間で待っていたヨークラウデンは不安げな顔で、サアラを待ち構えていた。
「どおしたんだ?この髪。」
サアラと同じ、腰まである長いストレートの黒髪を後ろで束ねた姿はそこにはなかった。不揃いに切られたそれは、自ら切ったとヨークラウデンが言った。
「塗料をかけられたので、切った。」
「落とせなかったのか?」
頷く彼の悔しげな行き場のない感情が感じられる。
「奴か……くそっ!…その髪は……もう少し短く整えよう。」
「すまん。迷惑かけるが……」
「いいさ、母のところへ行こう。」
国王には、第一王子ヨークラウデンの他にも年の近い王子がいる。側室の子、第二王子は産まれ月が僅かに遅いだけだ。その側室の嫉妬混じりの呪いの言葉を子守唄に聞いて育った第二王子の捻れた感情の矛先が、この第一王子に向かうのは容易に想像できよう。
シャノア王国、王位継承順位は世襲制ではなく、この国独自の方法、魔力量を元に決められる。
少ないながら一般人も魔力を持つシャノア王国である。特に王族は強い魔力を持って産まれることが知られている。産まれてすぐに魔術塔にて魔力量を調べ、その結果、王位継承順位が書き換えられる。現在の一位ヨークラウデンは百年に一人と言われる程の魔力持ちだ。それゆえ、実力差は明らかなのだが、年の違わぬ第二王子側は面白くない。ヨークラウデンが不慮の事故で亡くなりでもしたら、次点の第二王子が繰り上がるので、陰で画策する者もいる。表立って仕掛ければ処罰対象となる恐れがあるので、こそこそ、ちくちく、小競り合いは日常的である。今回も、偶然を装って王宮の壁面修理に使う塗装剤や塗料をこぼし、引っ掛けられたのだ。背中一面が汚され、髪は塗装剤で固まり、洗っても落ちなかった。修理工に非はないが、管理責任を問われ、職人は全て入れ替えられ、工事は続けられている。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる