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お仕事の時間ですよ

王宮騎士物語 第10話 避暑

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  毎年、花祭りの期間中、何人もの男女が行方不明となっていた。男女の別や未成年に限らず、いなくなることから、駆け落ちや家出が疑われ、捜索はされるものの発見されることはなかった。
  このところ街で若い娘が攫われていたこともあって、警戒していたが、お忍びの王女が事件に巻き込まれたなど、公にはできない。被害者の身分は隠したまま、数人の男女の誘拐犯を捕らえたと発表された。捕らえる際に数名の負傷者がいたことも付け加えられた。誘拐犯は大勢の人出のある花祭りに紛れて、毎年若い男女を攫って奴隷商人に売り渡していたことを白状した。しかし、最近の街で攫われた女性に関わっていないと言った。罪逃れの嘘かどうかは、これから調べられるだろう。

  連れ去られた王女を助けるため、誘拐犯と一早く接触したハンスは時間稼ぎな足止めに成功するも、怪我を負ってしまった。クロードの知らせにより、居場所を特定した近衛騎士達が援軍に駆けつけ、王女は無事助けられた。
  怪我の治療のため、療護院に入院中のハンスの元へ王女が訪れた。

「ハンス……怪我の具合はどう?大丈夫?」
「申し訳ありません。私の力不足で、ソフィーナ様を危険な……」
「そんなことないわ!」
ハンスの言葉を遮り、王女がハンスの手を握った。
「ハンスは私を守ってくれたわ。早く怪我を治して、任務に戻って…」
「いえ、ソフィーナ様。私は未熟者ゆえ、今回、護衛の任を全う出来ませんでした。近衛騎士を辞して、一から鍛え直したいと思っております。」
「だめよ!」
「しかし、任務失敗の責任を……」
「あなたに責はないし、仮にあなたが辞めることになったら、近衛騎士団長がだまってないわよ。団長が辞すると言ったら、部下も続くでしょうね。そうなったら、総辞職よ。」
「そんな、団長は別の任務についていて今回は何の責も……それに隊長も不手際があったわけでは…」
「そもそも、今回一番責められるべきは、私。」
「王女は何も……」
「私のワガママで、皆を振り回したの。だから、私が悪いの。」
立ち上がり、王女がまわりを見回し、口を開く。
「今回の件で近衛騎士の誰も処罰してはなりません。 いいですね。」
「しかし…」
「…どうしてもと、言い張るなら……怪我が完治するまでは休暇を与えるつもりだったけど、身体はきついでしょうがハンスには早速、次の任務についてもらうわ。」
「はい。なんなりと。」
「王女様……いくらなんでも……ハンスの怪我は軽くはありません……次の任務だなんて。」
王女の決定に口を出すのは許されないが、エリーは思わず発言してしまった。
「エリー、あなたも行くのよ?」
「ソフィーナ様?」

  王族は暑い夏期をすごす避暑地を何ヵ所も保有している。 その年、何処へ何時行くのかは直前まで知らされない。同行するものもその都度変わり、選ばれたものは翌日には出発だという。今回も通達を受け取った者達は休みの予定を泣く泣く変更し、共に過ごす予定の相手に連絡し、家族と過ごす予定だった者は妻に戻り次第家族サービスをすることを約束させられ、慌ただしく準備し、出立した。
  馬車の中に取り付けたベッドに横になっていたハンスは、起き上がろうとすると、命令よ、と王女に言われ、大人しく横になると、彼女に満足そうに微笑まれる。ハンスは身体を動かすことのできないストレスと、二人っきりの空間、王女のまっすぐな視線で背中がむずむずする。王女の華奢な腕が持ち上がり、ハンスの額に乗せられた。
「無理をさせてるのは分かっているの。でも、一緒にいたかったの……」
小さな声がハンスの顔を赤く染めた。
  いつもなら、馬車に同乗しているエリーは今回は馬での移動で同じく馬上のクロードと並走している。
「今年は少し早い避暑になりました。」
「毎回……前もってお知らせいただけたら…… と、仲間内でも、言っております。」
「ふふ、そうよね、彼にも、デートの予定をキャンセルさせて、悪かったわ。」
「彼も、最近浮かれてたから、いい薬ですよ。」
すぐ後ろを肩を落として進む同行同僚にいい薬、と言いつつ、気の毒に思うクロード。同僚の彼は意中の金物屋の娘にアタックして、ようやく約束を取り付けたところだった。
「はあ~」
何回目になるだろうか、大きなため息が、聞こえてきた。
「ちゃんと前見ろよ、怪我するぞ。」
街から出ると道も悪くなるし、道中なにがあるかわからない。先日の雨で地面に水溜まりが出来ていた。時折それを避けるように馬を操る。だが、馬車の車輪が水を跳ね、それをいやがるようにエリーの馬が遅れた。
「エリー、大丈夫か?」
「はい。少しぬかるみを避ければ、このこと、機嫌良く進めます。私はペースを落としてまいりますので、どうぞお先に……」
「いや、急ぐ訳でもなし、私も付き合おう。」
「クロード…でも…」
「気にすることはない。」
エリーを見つめる熱い視線に答えるようにエリーは微笑んだ。
「はい。」
二人は隊列から少し遅れて進む。
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