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おまけの話

イグナートとセントス1

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マックが見つかった。

彼から祖父の元に連絡が入った。

「セントス!いくぞ。」
珍しくテンションが高いイグナート。
「ご自身で!?ですか!?」
「お前ももちろん、行くよな?」
「いえ、俺は……」
「命令だ。」
「わかりました。」
命令と言われれば、従うしかない。

「対象を確認、人員配置完了。」
「久しぶりの護衛任務ですね。」
「護衛と言っても、普通に生活するだけ。対象に気付かれないように注意してくれよ。」
「わかってますよ。俺はこの間までシーラのフル氏の担当だったんですから。念願の本丸ですよ。」
「そうだな、やっと見つかったマックの護衛だからな。」
「今回、向かいのパン屋勤めですよ。ながめ放題、嬉しいな。」
「気を抜くなよ。」
「はいはい。セントスの担当は?」
「いや、俺は顔ばれしてるから、気付かれないうちに帰る。」
「そうか、留学の時だったよな。ケガしたって聞いたぞ?大変だったな。」
「当時はしばらく、暇してたけどそれもずいぶん昔の話よ。」
「おう、久しぶり。」
「よお。」
「ここにいたのか。」
どんどん来るな、寄合所か………ここは………
「ああ、何年ぶりかな?」
「しばらくタクーンに戻っていた。」
「ハルバートは人使い荒いな。マックの事になると人が変わるからなぁ。」
「ああそうか、セカンドはハルバートのところにいたから…王子のお付きも経験あるのか。」
「ああ。あるよ、セントスは?」
「いや、俺は元々『外』担当だったから。」
「国内ならともかく、俺達の見た目は外では目立つから、セントス達がいてくれて、助かったよ。」
「そうだよな、まさかシーラからトールトまで行くとは思わなかったよ。」
「マック……見つかって良かったな。」
「そうだな。」
誰もが吉報に浮かれていた。
  長い間マックはどこにいるのか、無事でいるのか、わからず、先の見えない不安の中で、いつまで続くのか終わりのない実りのない、任務をこなすのみ。関係者を見張り、報告する。それだけ。
「俺、いくわ。」
セントスは賑やかなその場から逃げ出した。

  どうしてイグナートは俺を連れてきたのか。顔が知られている俺はマックの前にはもう出られない。陰からマックを見るくらいは許されるのか?
「セントス。」
イグナートがそこにいた。
「マックに会いたいか?」
「無理だし……会わないよ。」
「会ってこいよ。」
何を言っている?ここに俺がいるのは不自然だろうが。俺はただのユーリの一時の護衛。マックにもそう言ったから。
「帰る。」
  遠くから一目でも見たら帰るつもりだった。元気な姿をみたら、気がすむはず。
「そのまま、待て。」
「?」
イグナートがフードを被る。セントスをその場に残し離れた。
  話声が近付いてくる。
「ああ……」
聞き間違えるわけない。懐かしい声が聞こえる。
「マック……」
一人、陰から目的の人物を見つめる。

  熱い固まりを飲み込んだようだ。苦しい。息がつまる。立っていられなくなって、その場に座り込んだ。

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