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第九話 緋亜とアオ
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そこに自由はなかった。
そもそも、自由というものがどういうものなのかも知らなかった。
一生はここから始まり、ここで終わる。
そう信じて疑わなかった。
そこは座敷牢と呼ばれる場所だった。
自由に出入りができないように鍵が掛けられてはいたものの、窮屈さを感じない低度の広さがあった。
牢番以外の世話係によって牢内は毎日掃除がされ、清潔さも保たれている。食事も一日二食、満足するほどのものが出された。
また、絵本や木製の玩具なども成長に合ったものが度々差し入れられている。牢番は番をするだけでなく、彼女の遊び相手になったり、文字の読み書きを教えるなどした。
牢の外に広がる世界を教えたのは、牢番だけではない。いつからか現れるようになった、彼女と同じ位の年齢の少女もそれを教えた。
少女の身分が高いことに気がついたのは、割とすぐのことだった。
少女に対する牢番の恭しい態度や、身につけている衣服の上等さ。そしてなにより、彼女からはそれまで感じたことのなかった気品が漂っていた。
「あなたは、いったい誰なの?」
「……ごめんなさい……それは教えられないの」
初めて会った時に聞いてみたが、少女は悲しそうな表情で首を左右に振った。
「……また会いたい」
少女は、彼女のその願いには笑顔で頷いた。
「はい、必ず来ます」
その言葉通り少女はこの後数年に渡って、三日に一度位の頻度で牢に姿を見せた。
そしてその都度、色々な事を彼女に教えた。
今いる場所が、座敷牢と呼ばれる場所であること。外の世界が存在し、それらがいかに美しいものであるかということ。そして、この島を統べる巫女の家系のことも彼女に教えたのだ。
「本当は、あなたこそが……」
笑顔でいることが多かった少女が、珍しく重々しい口調で呟いたその言葉の意味を、その当時の彼女は理解することができなかった。
ただ、そう言った時の少女の哀しげな瞳は、瞼の裏にしっかりと焼きついて離れなかった。
その後、少女と彼女に一つだけ共通するものがあることに気がつく。二人は、揃いの玉飾りを手首に巻いていたのだ。
「これはあなたの出自を証明するものだから、これから先もずっと大切にしてね」
少女は微笑み、そう言った。
それは、牢に囚われている彼女が巫女の一族と血縁関係があるということだった。
それならば、なぜ自分はこんなところに閉じ込められているのだろうか。
背が伸び、その成長が止まってもなお、その謎が解けることはなかった。なにか触れてはいけないタブーのような気がして、その問を口にすらしなかったからだ。
しかし、時の経過と共にそれを知りたいと思う気持ちは強くなる一方だった。
自分は、なぜ生まれたのだろう?
自分のルーツ。そして、見知らぬ広い世界。
いつかそれを知りたいと、彼女は長い間ずっと願っていた。
そしてある日突然、その願いの叶う日がやってくる。
すっかり大人になった少女が、牢の鍵をがちゃりとあけた。
そして、涙を流しながら笑って言ったのだ。
「あなたはもう、自由です」
と。
自分の外見がこの島国では非常に人目をひくとわかってから、彼女は外套のフードを目深に被ることにしている。
それでなくても、隠しようのない長身はこの島国では非常に目立つのだ。
それに、と彼女は思った。
なにより、皮膚の色が違い過ぎた。
訪れたこの島国で、唯一の肌の色なのではないか。
魚卸市場で、自分の肌の色と似たような色の魚を見つけ、彼女は外套を強く握りしめた。
胸の内に押し寄せる窮屈感を抱えたまま、彼女は数日を過ごした。
やがてなんとなく人目を避け始め、そうしている内にいつの間にか山道に辿り着く。
このまま行って……三日以内に、私はなにかを見つけられるのだろうか?
彼女の為に用意されていたチケットは観光用のもので、この島国の滞在許可日数は十日間だ。
それを過ぎてしまうと、不法滞在者として追われる身になってしまう。
はぁと重いため息をつきつつ山道を歩いていると、ふと真横の茂みがガサガサと揺れた。
なんだろう?
思わず足を止めて揺れ動く茂みを凝視していると、そこから真っ白な毛並みの獣が姿を現した。
「生きもの……」
「おーい、緋亜! 見つけたぞ!」
この島の生き物は、ヒトの言葉を喋るのか……
予想外の出来事に唖然としていると、また茂みがガサガサと揺れた。
「あ、いたいた!」
次に現れたのは、黒い髪と瞳をした背の小さな少女だった。
この島国の民の特徴を持つ少女は、ニコニコしながら彼女に近づく。
「はじめまして、私の名前は緋亜! よろしくね!」
「あっ……え……はい……」
彼女はたじろいだ。
初対面の相手から突然自己紹介を始められたのは、この島に着いて以来初めてのことだったからだ。
「きれいな瞳だねぇ……金色だあ」
目深に被ったフードを覗き込んで言われ、彼女はハッとした。そして、恐る恐るフードを後ろに下げる。
「あなたは、父とに似なかったんだね」
にこにこと笑いながら少女は言った。
「とと?」
それは初めて聞く知らない単語だった。しかし、似ていないという部分には引っかかるものがある。
「父と、って、お父さんって意味だよ。あ、でも父とは、私のほんとのお父さんじゃないんだけど」
「お父さん……似る……」
「あなたは、父との一人娘だよ」
バシーンと彼女の頭からつま先まで、まるで電撃が走るかのような衝撃が駆け抜けた。
「え……いや、でもなぜあなたはそう言い切れるのですか?」
確かに、彼女は父を探しにこの島に来ていた。
だが、そんな事情をこの少女が知るはずはない。
しばらくの間、緋亜と名乗った少女は真顔で黙り込んだ。
その微かに陰った表情に、嫌な予感が彼女の胸をよぎる。
「父とは……半年前、いきなり死んだ」
意を決したように、ポツリと緋亜は言った。
そして彼女の背後をサッと指差す。
「今、あなたの後ろにいる」
「後ろ?」
その言葉に慌てて振り返ってみるも、そこには木々や茂みがあるばかりで、誰もいない。
緋亜の言葉をどう受け取ったら良いのか分からずに、彼女は困惑した表情で視線を緋亜に戻した。
「私はね、人の魂が見えるし彼らとコンタクトもとれるの。おまけに火の躁術力まで持ってるから、私の事を気持ち悪いって、言う人は言うんだけど……あなたは、どっちかな」
緋亜は自身に関する色んな情報を一気にさらけ出した。そして、にっこりと微笑む。
「人の魂が……見えるんですか?」
にわかには信じられずに彼女は問い、緋亜はそれに頷いた。
「見えない人には、それを信じるのは難しい。だから、証拠を見せるね」
緋亜はそう言うと、癖のある黒い髪に挿していた簪を引き抜いた。
そこには、直径十二センチほどの透明な石がある。
「この石に彫られた紋章、見て」
言われて手渡された簪の石をよく見てみると、確かにそれは手首に巻いた玉飾りと同じものだった。
「……確かに、これは私が持っているものと同じものです」
「これ、父とが私に作ってくれたものなんだ。もともとはブレスレットだったものを、中の糸を引き抜いてバラバラにして……残りの石は、父とと一緒にしてある」
「……そうなんですか……これ、見せてくれてありがとうございます」
簪を緋亜に戻しながら、じわじわと彼女の胸に暗いものが広がっていく。
……できることなら、生きて会いたかった……
「あなた、名前は?」
しんと沈む空気を振り払うかのように、唐突に緋亜は彼女に問うた。
「名前……」
彼女はハッとして口をつぐんだ。
問われてから気づいたが、彼女は他人に名乗る名を持っていなかった。
この島国に来訪するために用意されていたチケットには、持ち主を証明する為のサインが記されていたが、それは偽名だ。
「もしかして、名前ないの? もしそうなら、あなたの名前、私がつけてもいい?」
なぜか嬉しそうに、緋亜は笑って言った。
「いいんですか? 今さっき、初めて会ったばかりなのに、そんなことをお願いしても……」
おずおずと彼女は言った。
「うん。私も小さい頃は名前なくて、サヤ姉に今の“ひあ”って名前をつけてもらったんだよ。だからいつか、名前のない誰かに名前をつけてみたかったんだ……もちろん、あなたが嫌じゃなければだけど」
「あなたが私にどんな名をつけるのか、とても興味があります」
それは彼女の本音だった。明らかに異国の民である彼女の何を感じて、緋亜は名を考えるのか。
緋亜はしげしげと彼女の頭からつま先まで見つめた後、あまり考え込まずににこりと笑った。
「アオ! あなたの素肌が、とても綺麗な深くて鮮やかな碧い色だから」
緋亜が嬉しそうに叫んだその名の由来は、たった今アオと名付けられた彼女が目立たないようにと隠していた皮膚の色だった。
「この肌の色、綺麗……ですか?」
アオは恐る恐る問う。それにしても、自分が綺麗だと言われたのは初めてのことで、暗かったはずの胸がドキドキしていた。
「うん、とても綺麗だよ! 父ともあなたの後ろで『どうだキレイだろ?』って自慢げに言ってる」
ニコニコと笑って、緋亜は言った。
姿は見えず、その存在感さえわからない父の思いを感じ、アオの胸にじわりとあたたかいものが広がった。
それはまるで、灰色に塗り拡げられたキャンバスに、淡くて爽やかな水色を上塗りされたかのようだった。
「ありがとう……アオという名前……私、大切にします」
胸のあたりの外套をぎゅっと握りしめ、アオは微笑を浮かべた。
「うん。ねぇアオ、私の家はもう少し登ったところにあるの。父とにも会わせたいし、一緒に来てもらえないかな?」
緋亜の黒い瞳が、ぐいっと金色のアオの瞳を覗き込んでくる。
緋亜の丸くて大きなそれは、明るくて優しく、なにより力強かった。
アオが頷いてみせると、緋亜はにこりと微笑んでその手を取って歩き出した。その後ろを、のそのそとリンがついていく。
アオと名づけられた異形の島の娘は、名付け親である緋亜にぐいぐいと引っ張られるままに歩いていく。
しばらく行くと、海を見下ろすロケーションに、小さな家と小さな墓石が見えた。
「ここだよ。ここに、父との体が埋まってる……火葬しちゃってるから、正確には父との骨だけどね」
緋亜はアオの手を離し、小さな墓石の前でしゃがみ込んだ。
そこには、アオと揃いのブレスレットが置いてある。
「父とがバラバラにした石、元のようにしたくて、私が糸を通したんだ」
そう言う緋亜の隣に、アオはしゃがみ込んだ。
「本当に……私の父親がここにいたんだ……」
そっと墓前のブレスレットに触れて、アオは呟く。
複雑な思いが、アオの胸をよぎった。
「どんな人だったんでしょうか……私の父は」
しばらく間を置いて、アオは隣の緋亜に訊ねた。
「んーと、父とはね……」
緋亜はしばし考え込んでから、アオの問に答え始める。
「お酒が大好きで、お金払わないで沢山お酒飲んで、よく文句言われてて、博打好きで、よく負けてた」
(緋亜、それは言わんでもいいぞ……)
アオの後ろに立つ、ケイの魂が苦笑いする。
「あ、それもそうか」
ケイの訴えに気がつき、緋亜は思わず笑った。
「うんとね、すんごく優しい人。昔、私が死にそうだったところを助けてくれて、親のいない私の父とになってくれた人」
緋亜はその当時を思い出しアオに説明した。
「……すみません」
アオが神妙な面持ちで緋亜に謝った。
緋亜の大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれてきたからだ。
「あ、ごめん……久しぶりに父とのこと思い出したから、涙が出ちゃった」
緋亜はごまかすかのように照れ笑いを浮かべ、慌てて涙の跡を拭う。
「よし、ひとまずお茶にしよう!」
にこりと笑顔を浮かべ、緋亜はアオを家に招いた。
初めて見る室内の様に、アオはキョロキョロと辺りを見回した。
「狭いけど、ゆっくりしていって。あ、履物をここで脱ぐんだよ」
緋亜は不慣れなアオに説明すると、台所に向かう。
竈の燃料に手を翳すと、みるみるうちに火が着いた。
「すごい……」
それを見たアオが呟いた。
「これ、父ともできたんだよ」
驚いたような表情をしているアオに、緋亜は笑顔を向けた。
「火の操術力があるって、こういうことなんだ」
ゆらゆらと湯気が立つ湯呑茶碗をアオの前にことりと置いて、緋亜はアオの正面に座る。
「あまりに感情的になると、火の精霊が勝手に働いちゃうから、結構困ると言えば困るんだ」
えへへと緋亜は笑い、自分の湯呑み茶碗を口に運んだ。
「ところで、アオは自分の事をどの位知ってるの?」
緋亜と同じように湯呑み茶碗を口にするアオに、緋亜は問う。
「実は、私は自分自身の事をほとんど知らないんです。その……理由はわからないのですが、ずっと外に出られなくて」
なんとなく牢に閉じ込められていたとは言えず、アオは違う言い方をした。
「そうなんだ……」
「でも、私にはたった一人ですが、友がいました。ある程度の外の様子は、彼女が教えてくれて……私が、ここに来ることができたのも、彼女のお陰なんです」
アオの説明に、緋亜は頷いた。
「知りたい?」
そして、真顔でアオに問う。
「なにを……ですか?」
真顔になった緋亜の問に、アオは神妙な面持ちで問い返した。
「父とに、頼まれてたんだ。アオが来たら、この話をして欲しいって」
「それは、どんな話なんですか?」
知らず知らずの内に、アオの体が緊張している。
「昔、おじさんだった父とが、お兄さんだった頃の話だよ。アオのお母さんと、出会った時のこと」
緋亜は微笑を浮かべて、アオに言った。アオは、思わず息を飲んだ。
それは、アオがこの島国に来た目的の一つで、まさに知りたかった自分自身のルーツだった。
「聞きたいです」
緋亜の黒い瞳をじっと見つめながら、ハッキリと言ったアオに、緋亜は頷いて話し始める。
「父とがまだお兄さんだった頃、乗ってた船が嵐に巻き込まれて沈んだの。そして、打ち上げられたのがアオの生まれ故郷の島だった」
異形の島と他国から呼ばれているアオの生まれ故郷の島では、潮の流れから異国の人間が浜に打ち上げられる事が稀にあった。
彼らは既に息絶えている事が多かったが、たまに生存者がいた。
ケイも、その内の一人だった。
異国の民に対し、島の住民は寛容だった。
異国の民が自身の国に帰ることができるように、海が静まるまで客人として迎え、小型船まで提供していた。
そして、遭難したケイが出会ったのが島の最高権力者の娘、姫巫女だった。
島では、神の声を聞き加護を受ける巫女王が最高位の存在である。姫巫女とは、その娘であり時期最高位に就く者だった。
通常なら、異国の民とは謁見することすらないのだが。
二人は、恋に落ちた。
なにが二人を引き寄せたのか、それは当事者であるケイと姫巫女にしかわからない。
ただ、二人の関係に気がついた姫巫女の兄は、その間柄を許さなかった。
妹である姫巫女には生まれながらにして約束されていた婚約者がいたし、なにより異国の血を受け入れるわけにはいかない。
命を狙われ、ケイは姫巫女の元を去らざるを得なかった。
その時に、姫巫女に宿った命がアオだ。
「私の母が……巫女王様……」
島の友は、出自の証明になるから大切にしろと玉飾りのことを教えてはくれたが、そこまでは言っていなかった。
「アオは、島で一番えらい人の子どもだけど、外国人の父との子どもでもあるから、堂々と育てられなかったんだと思う」
でも、と緋亜は続ける。
「おれの生涯、ただ一度の恋ってやつだ、ってニコニコして言ってたんだよ、父とは。私が思うに、父とはアオのお母さんのことだけを、ずっと好きだったと思う。父とは遊び好きな人だったけれど、女遊びだけは絶対にしなかったしね」
……いつか……おれの子どもがおれを探しに来たら……後のこと頼むな、緋亜……
息を引き取る寸前の、ケイの遺言だ。
「任しとけ、父と」
力強く言い、緋亜が頷くのを見ると、ケイは安心したように笑って逝った。
それを思い出し、緋亜は胸を熱くした。
アオに話をしたことで、ケイから託された事の一つを成し遂げたような気がしたからだ。
「アオ、本当なら父とは私とじゃなくて、アオと日々を過ごすべきだったんだ。アオは、父との実の娘なんだから……でも、その時間やその出来事を私が奪ってしまったから」
キュッと真面目な表情で、緋亜はアオの金色の瞳を見つめた。
「今度は、私がアオに楽しい時間をあげる」
アオは、緋亜の黒い瞳の中に燃え盛る炎のようなものを見た気がした。
「緋亜さん、ありがとう」
ここに、とどまりたい。緋亜と、もう少し一緒にいたい。
アオの胸に強い感情が湧き上がる。
「でも、私の滞在許可日数は、あと三日しかないんです」
残念そうに言うアオに、緋亜はにっこりと微笑んでみせた。
「大丈夫! 私がアオの働く場所、紹介するから!」
働き手としてこの島国に滞在する場合、滞在許可日数は一年となり、雇い主のサイン入りの書類が一枚あれば、その後の更新も可能となる。
緋亜の脳裏に、サヤの明るい笑顔が浮かんだ。
「私も働かせてもらってるから、一緒にサヤ姉の店でお仕事しよう!」
「いいのでしょうか……その、私の外見は目立ちますし……」
少し戸惑いながら、アオは言った。
金色の瞳と髪、鮮やかな碧色の肌という目立つ特徴を持つアオは、怖がられたり好奇の眼差しを向けられやすい。
そんな自分が働いては、相手に迷惑がかかるのではないだろうか。
「サヤ姉は、そんな小さな人じゃないよ。まあ、頼んでみないとどうなるかはわからないけど、とにかく行ってみよう!」
「はい……」
緋亜がそこまで信頼を置いている人物なら、もしかしてとアオは微かな期待を抱いた。それに、もし働く許可を得られたなら、この先も緋亜の側にいられるのだ。
玄関先で、リンが退屈そうに大きな欠伸をした。
「そういえば、この国では生き物が喋るんですね」
アオはリンを見やり、先程の光景を思い出した。
「リンのことか? あれはイキモノじゃなくて、バケモノだよ。うちの飼いバケモノ」
「飼い……バケモノ?」
緋亜の説明に、アオは首を傾げた。
緋亜の持つ特種な能力のことも含め、アオにはもう少し説明が必要そうだった。
二人と一匹はこの後、日々を過ごす中で次第にお互いを理解し合っていく。
それはアオにとって、生まれて初めて味わう感情だらけで、とても刺激的なものなであった。
そもそも、自由というものがどういうものなのかも知らなかった。
一生はここから始まり、ここで終わる。
そう信じて疑わなかった。
そこは座敷牢と呼ばれる場所だった。
自由に出入りができないように鍵が掛けられてはいたものの、窮屈さを感じない低度の広さがあった。
牢番以外の世話係によって牢内は毎日掃除がされ、清潔さも保たれている。食事も一日二食、満足するほどのものが出された。
また、絵本や木製の玩具なども成長に合ったものが度々差し入れられている。牢番は番をするだけでなく、彼女の遊び相手になったり、文字の読み書きを教えるなどした。
牢の外に広がる世界を教えたのは、牢番だけではない。いつからか現れるようになった、彼女と同じ位の年齢の少女もそれを教えた。
少女の身分が高いことに気がついたのは、割とすぐのことだった。
少女に対する牢番の恭しい態度や、身につけている衣服の上等さ。そしてなにより、彼女からはそれまで感じたことのなかった気品が漂っていた。
「あなたは、いったい誰なの?」
「……ごめんなさい……それは教えられないの」
初めて会った時に聞いてみたが、少女は悲しそうな表情で首を左右に振った。
「……また会いたい」
少女は、彼女のその願いには笑顔で頷いた。
「はい、必ず来ます」
その言葉通り少女はこの後数年に渡って、三日に一度位の頻度で牢に姿を見せた。
そしてその都度、色々な事を彼女に教えた。
今いる場所が、座敷牢と呼ばれる場所であること。外の世界が存在し、それらがいかに美しいものであるかということ。そして、この島を統べる巫女の家系のことも彼女に教えたのだ。
「本当は、あなたこそが……」
笑顔でいることが多かった少女が、珍しく重々しい口調で呟いたその言葉の意味を、その当時の彼女は理解することができなかった。
ただ、そう言った時の少女の哀しげな瞳は、瞼の裏にしっかりと焼きついて離れなかった。
その後、少女と彼女に一つだけ共通するものがあることに気がつく。二人は、揃いの玉飾りを手首に巻いていたのだ。
「これはあなたの出自を証明するものだから、これから先もずっと大切にしてね」
少女は微笑み、そう言った。
それは、牢に囚われている彼女が巫女の一族と血縁関係があるということだった。
それならば、なぜ自分はこんなところに閉じ込められているのだろうか。
背が伸び、その成長が止まってもなお、その謎が解けることはなかった。なにか触れてはいけないタブーのような気がして、その問を口にすらしなかったからだ。
しかし、時の経過と共にそれを知りたいと思う気持ちは強くなる一方だった。
自分は、なぜ生まれたのだろう?
自分のルーツ。そして、見知らぬ広い世界。
いつかそれを知りたいと、彼女は長い間ずっと願っていた。
そしてある日突然、その願いの叶う日がやってくる。
すっかり大人になった少女が、牢の鍵をがちゃりとあけた。
そして、涙を流しながら笑って言ったのだ。
「あなたはもう、自由です」
と。
自分の外見がこの島国では非常に人目をひくとわかってから、彼女は外套のフードを目深に被ることにしている。
それでなくても、隠しようのない長身はこの島国では非常に目立つのだ。
それに、と彼女は思った。
なにより、皮膚の色が違い過ぎた。
訪れたこの島国で、唯一の肌の色なのではないか。
魚卸市場で、自分の肌の色と似たような色の魚を見つけ、彼女は外套を強く握りしめた。
胸の内に押し寄せる窮屈感を抱えたまま、彼女は数日を過ごした。
やがてなんとなく人目を避け始め、そうしている内にいつの間にか山道に辿り着く。
このまま行って……三日以内に、私はなにかを見つけられるのだろうか?
彼女の為に用意されていたチケットは観光用のもので、この島国の滞在許可日数は十日間だ。
それを過ぎてしまうと、不法滞在者として追われる身になってしまう。
はぁと重いため息をつきつつ山道を歩いていると、ふと真横の茂みがガサガサと揺れた。
なんだろう?
思わず足を止めて揺れ動く茂みを凝視していると、そこから真っ白な毛並みの獣が姿を現した。
「生きもの……」
「おーい、緋亜! 見つけたぞ!」
この島の生き物は、ヒトの言葉を喋るのか……
予想外の出来事に唖然としていると、また茂みがガサガサと揺れた。
「あ、いたいた!」
次に現れたのは、黒い髪と瞳をした背の小さな少女だった。
この島国の民の特徴を持つ少女は、ニコニコしながら彼女に近づく。
「はじめまして、私の名前は緋亜! よろしくね!」
「あっ……え……はい……」
彼女はたじろいだ。
初対面の相手から突然自己紹介を始められたのは、この島に着いて以来初めてのことだったからだ。
「きれいな瞳だねぇ……金色だあ」
目深に被ったフードを覗き込んで言われ、彼女はハッとした。そして、恐る恐るフードを後ろに下げる。
「あなたは、父とに似なかったんだね」
にこにこと笑いながら少女は言った。
「とと?」
それは初めて聞く知らない単語だった。しかし、似ていないという部分には引っかかるものがある。
「父と、って、お父さんって意味だよ。あ、でも父とは、私のほんとのお父さんじゃないんだけど」
「お父さん……似る……」
「あなたは、父との一人娘だよ」
バシーンと彼女の頭からつま先まで、まるで電撃が走るかのような衝撃が駆け抜けた。
「え……いや、でもなぜあなたはそう言い切れるのですか?」
確かに、彼女は父を探しにこの島に来ていた。
だが、そんな事情をこの少女が知るはずはない。
しばらくの間、緋亜と名乗った少女は真顔で黙り込んだ。
その微かに陰った表情に、嫌な予感が彼女の胸をよぎる。
「父とは……半年前、いきなり死んだ」
意を決したように、ポツリと緋亜は言った。
そして彼女の背後をサッと指差す。
「今、あなたの後ろにいる」
「後ろ?」
その言葉に慌てて振り返ってみるも、そこには木々や茂みがあるばかりで、誰もいない。
緋亜の言葉をどう受け取ったら良いのか分からずに、彼女は困惑した表情で視線を緋亜に戻した。
「私はね、人の魂が見えるし彼らとコンタクトもとれるの。おまけに火の躁術力まで持ってるから、私の事を気持ち悪いって、言う人は言うんだけど……あなたは、どっちかな」
緋亜は自身に関する色んな情報を一気にさらけ出した。そして、にっこりと微笑む。
「人の魂が……見えるんですか?」
にわかには信じられずに彼女は問い、緋亜はそれに頷いた。
「見えない人には、それを信じるのは難しい。だから、証拠を見せるね」
緋亜はそう言うと、癖のある黒い髪に挿していた簪を引き抜いた。
そこには、直径十二センチほどの透明な石がある。
「この石に彫られた紋章、見て」
言われて手渡された簪の石をよく見てみると、確かにそれは手首に巻いた玉飾りと同じものだった。
「……確かに、これは私が持っているものと同じものです」
「これ、父とが私に作ってくれたものなんだ。もともとはブレスレットだったものを、中の糸を引き抜いてバラバラにして……残りの石は、父とと一緒にしてある」
「……そうなんですか……これ、見せてくれてありがとうございます」
簪を緋亜に戻しながら、じわじわと彼女の胸に暗いものが広がっていく。
……できることなら、生きて会いたかった……
「あなた、名前は?」
しんと沈む空気を振り払うかのように、唐突に緋亜は彼女に問うた。
「名前……」
彼女はハッとして口をつぐんだ。
問われてから気づいたが、彼女は他人に名乗る名を持っていなかった。
この島国に来訪するために用意されていたチケットには、持ち主を証明する為のサインが記されていたが、それは偽名だ。
「もしかして、名前ないの? もしそうなら、あなたの名前、私がつけてもいい?」
なぜか嬉しそうに、緋亜は笑って言った。
「いいんですか? 今さっき、初めて会ったばかりなのに、そんなことをお願いしても……」
おずおずと彼女は言った。
「うん。私も小さい頃は名前なくて、サヤ姉に今の“ひあ”って名前をつけてもらったんだよ。だからいつか、名前のない誰かに名前をつけてみたかったんだ……もちろん、あなたが嫌じゃなければだけど」
「あなたが私にどんな名をつけるのか、とても興味があります」
それは彼女の本音だった。明らかに異国の民である彼女の何を感じて、緋亜は名を考えるのか。
緋亜はしげしげと彼女の頭からつま先まで見つめた後、あまり考え込まずににこりと笑った。
「アオ! あなたの素肌が、とても綺麗な深くて鮮やかな碧い色だから」
緋亜が嬉しそうに叫んだその名の由来は、たった今アオと名付けられた彼女が目立たないようにと隠していた皮膚の色だった。
「この肌の色、綺麗……ですか?」
アオは恐る恐る問う。それにしても、自分が綺麗だと言われたのは初めてのことで、暗かったはずの胸がドキドキしていた。
「うん、とても綺麗だよ! 父ともあなたの後ろで『どうだキレイだろ?』って自慢げに言ってる」
ニコニコと笑って、緋亜は言った。
姿は見えず、その存在感さえわからない父の思いを感じ、アオの胸にじわりとあたたかいものが広がった。
それはまるで、灰色に塗り拡げられたキャンバスに、淡くて爽やかな水色を上塗りされたかのようだった。
「ありがとう……アオという名前……私、大切にします」
胸のあたりの外套をぎゅっと握りしめ、アオは微笑を浮かべた。
「うん。ねぇアオ、私の家はもう少し登ったところにあるの。父とにも会わせたいし、一緒に来てもらえないかな?」
緋亜の黒い瞳が、ぐいっと金色のアオの瞳を覗き込んでくる。
緋亜の丸くて大きなそれは、明るくて優しく、なにより力強かった。
アオが頷いてみせると、緋亜はにこりと微笑んでその手を取って歩き出した。その後ろを、のそのそとリンがついていく。
アオと名づけられた異形の島の娘は、名付け親である緋亜にぐいぐいと引っ張られるままに歩いていく。
しばらく行くと、海を見下ろすロケーションに、小さな家と小さな墓石が見えた。
「ここだよ。ここに、父との体が埋まってる……火葬しちゃってるから、正確には父との骨だけどね」
緋亜はアオの手を離し、小さな墓石の前でしゃがみ込んだ。
そこには、アオと揃いのブレスレットが置いてある。
「父とがバラバラにした石、元のようにしたくて、私が糸を通したんだ」
そう言う緋亜の隣に、アオはしゃがみ込んだ。
「本当に……私の父親がここにいたんだ……」
そっと墓前のブレスレットに触れて、アオは呟く。
複雑な思いが、アオの胸をよぎった。
「どんな人だったんでしょうか……私の父は」
しばらく間を置いて、アオは隣の緋亜に訊ねた。
「んーと、父とはね……」
緋亜はしばし考え込んでから、アオの問に答え始める。
「お酒が大好きで、お金払わないで沢山お酒飲んで、よく文句言われてて、博打好きで、よく負けてた」
(緋亜、それは言わんでもいいぞ……)
アオの後ろに立つ、ケイの魂が苦笑いする。
「あ、それもそうか」
ケイの訴えに気がつき、緋亜は思わず笑った。
「うんとね、すんごく優しい人。昔、私が死にそうだったところを助けてくれて、親のいない私の父とになってくれた人」
緋亜はその当時を思い出しアオに説明した。
「……すみません」
アオが神妙な面持ちで緋亜に謝った。
緋亜の大きな瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれてきたからだ。
「あ、ごめん……久しぶりに父とのこと思い出したから、涙が出ちゃった」
緋亜はごまかすかのように照れ笑いを浮かべ、慌てて涙の跡を拭う。
「よし、ひとまずお茶にしよう!」
にこりと笑顔を浮かべ、緋亜はアオを家に招いた。
初めて見る室内の様に、アオはキョロキョロと辺りを見回した。
「狭いけど、ゆっくりしていって。あ、履物をここで脱ぐんだよ」
緋亜は不慣れなアオに説明すると、台所に向かう。
竈の燃料に手を翳すと、みるみるうちに火が着いた。
「すごい……」
それを見たアオが呟いた。
「これ、父ともできたんだよ」
驚いたような表情をしているアオに、緋亜は笑顔を向けた。
「火の操術力があるって、こういうことなんだ」
ゆらゆらと湯気が立つ湯呑茶碗をアオの前にことりと置いて、緋亜はアオの正面に座る。
「あまりに感情的になると、火の精霊が勝手に働いちゃうから、結構困ると言えば困るんだ」
えへへと緋亜は笑い、自分の湯呑み茶碗を口に運んだ。
「ところで、アオは自分の事をどの位知ってるの?」
緋亜と同じように湯呑み茶碗を口にするアオに、緋亜は問う。
「実は、私は自分自身の事をほとんど知らないんです。その……理由はわからないのですが、ずっと外に出られなくて」
なんとなく牢に閉じ込められていたとは言えず、アオは違う言い方をした。
「そうなんだ……」
「でも、私にはたった一人ですが、友がいました。ある程度の外の様子は、彼女が教えてくれて……私が、ここに来ることができたのも、彼女のお陰なんです」
アオの説明に、緋亜は頷いた。
「知りたい?」
そして、真顔でアオに問う。
「なにを……ですか?」
真顔になった緋亜の問に、アオは神妙な面持ちで問い返した。
「父とに、頼まれてたんだ。アオが来たら、この話をして欲しいって」
「それは、どんな話なんですか?」
知らず知らずの内に、アオの体が緊張している。
「昔、おじさんだった父とが、お兄さんだった頃の話だよ。アオのお母さんと、出会った時のこと」
緋亜は微笑を浮かべて、アオに言った。アオは、思わず息を飲んだ。
それは、アオがこの島国に来た目的の一つで、まさに知りたかった自分自身のルーツだった。
「聞きたいです」
緋亜の黒い瞳をじっと見つめながら、ハッキリと言ったアオに、緋亜は頷いて話し始める。
「父とがまだお兄さんだった頃、乗ってた船が嵐に巻き込まれて沈んだの。そして、打ち上げられたのがアオの生まれ故郷の島だった」
異形の島と他国から呼ばれているアオの生まれ故郷の島では、潮の流れから異国の人間が浜に打ち上げられる事が稀にあった。
彼らは既に息絶えている事が多かったが、たまに生存者がいた。
ケイも、その内の一人だった。
異国の民に対し、島の住民は寛容だった。
異国の民が自身の国に帰ることができるように、海が静まるまで客人として迎え、小型船まで提供していた。
そして、遭難したケイが出会ったのが島の最高権力者の娘、姫巫女だった。
島では、神の声を聞き加護を受ける巫女王が最高位の存在である。姫巫女とは、その娘であり時期最高位に就く者だった。
通常なら、異国の民とは謁見することすらないのだが。
二人は、恋に落ちた。
なにが二人を引き寄せたのか、それは当事者であるケイと姫巫女にしかわからない。
ただ、二人の関係に気がついた姫巫女の兄は、その間柄を許さなかった。
妹である姫巫女には生まれながらにして約束されていた婚約者がいたし、なにより異国の血を受け入れるわけにはいかない。
命を狙われ、ケイは姫巫女の元を去らざるを得なかった。
その時に、姫巫女に宿った命がアオだ。
「私の母が……巫女王様……」
島の友は、出自の証明になるから大切にしろと玉飾りのことを教えてはくれたが、そこまでは言っていなかった。
「アオは、島で一番えらい人の子どもだけど、外国人の父との子どもでもあるから、堂々と育てられなかったんだと思う」
でも、と緋亜は続ける。
「おれの生涯、ただ一度の恋ってやつだ、ってニコニコして言ってたんだよ、父とは。私が思うに、父とはアオのお母さんのことだけを、ずっと好きだったと思う。父とは遊び好きな人だったけれど、女遊びだけは絶対にしなかったしね」
……いつか……おれの子どもがおれを探しに来たら……後のこと頼むな、緋亜……
息を引き取る寸前の、ケイの遺言だ。
「任しとけ、父と」
力強く言い、緋亜が頷くのを見ると、ケイは安心したように笑って逝った。
それを思い出し、緋亜は胸を熱くした。
アオに話をしたことで、ケイから託された事の一つを成し遂げたような気がしたからだ。
「アオ、本当なら父とは私とじゃなくて、アオと日々を過ごすべきだったんだ。アオは、父との実の娘なんだから……でも、その時間やその出来事を私が奪ってしまったから」
キュッと真面目な表情で、緋亜はアオの金色の瞳を見つめた。
「今度は、私がアオに楽しい時間をあげる」
アオは、緋亜の黒い瞳の中に燃え盛る炎のようなものを見た気がした。
「緋亜さん、ありがとう」
ここに、とどまりたい。緋亜と、もう少し一緒にいたい。
アオの胸に強い感情が湧き上がる。
「でも、私の滞在許可日数は、あと三日しかないんです」
残念そうに言うアオに、緋亜はにっこりと微笑んでみせた。
「大丈夫! 私がアオの働く場所、紹介するから!」
働き手としてこの島国に滞在する場合、滞在許可日数は一年となり、雇い主のサイン入りの書類が一枚あれば、その後の更新も可能となる。
緋亜の脳裏に、サヤの明るい笑顔が浮かんだ。
「私も働かせてもらってるから、一緒にサヤ姉の店でお仕事しよう!」
「いいのでしょうか……その、私の外見は目立ちますし……」
少し戸惑いながら、アオは言った。
金色の瞳と髪、鮮やかな碧色の肌という目立つ特徴を持つアオは、怖がられたり好奇の眼差しを向けられやすい。
そんな自分が働いては、相手に迷惑がかかるのではないだろうか。
「サヤ姉は、そんな小さな人じゃないよ。まあ、頼んでみないとどうなるかはわからないけど、とにかく行ってみよう!」
「はい……」
緋亜がそこまで信頼を置いている人物なら、もしかしてとアオは微かな期待を抱いた。それに、もし働く許可を得られたなら、この先も緋亜の側にいられるのだ。
玄関先で、リンが退屈そうに大きな欠伸をした。
「そういえば、この国では生き物が喋るんですね」
アオはリンを見やり、先程の光景を思い出した。
「リンのことか? あれはイキモノじゃなくて、バケモノだよ。うちの飼いバケモノ」
「飼い……バケモノ?」
緋亜の説明に、アオは首を傾げた。
緋亜の持つ特種な能力のことも含め、アオにはもう少し説明が必要そうだった。
二人と一匹はこの後、日々を過ごす中で次第にお互いを理解し合っていく。
それはアオにとって、生まれて初めて味わう感情だらけで、とても刺激的なものなであった。
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