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第11話 ミツキと神様(後編)
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神様の歩いている道が、ミツキの知らない道になった。
そっか、パパはミツキの知らないところに住んでるんだ。
「ほら、あの人だよ。こんにちは」
神様があの人、と指さした人は、パパじゃなかった。
あの、ママが大事にしてるパパじゃない。
え……違うよ、神様。この人じゃないよ。
ミツキはそう言って神様を見たけど、神様はミツキを見なかった。
「お仕事に戻る前に、この子に手を見せてくれませんか? ちょっと変わった子で、美容師さんの手が大好きなんですよ」
「へえ、初めて聞いたな、そんな猫いるんだ……薬剤の匂いとか平気なのかな」
すっ、と大きな手が向かってくる。
あ……この手……ミツキのとそっくり。
『ミツキはね、顔がママにそっくりで、手がパパにそっくりなんだよ』
昔、ママが言ってたことを思い出した。
じゃあ、この人がミツキのパパなんだ。え……じゃあ、あの写真の人は?
「じゃ、仕事に戻るんで」
「はい、ありがとうございました」
なんだかぼんやりする頭で、パパの後ろ姿を見送る。
茶色い髪。大きな体。なんとなく、真面目じゃない感じ。
ミツキ……あの写真の人が良かった。
「ごめんな、ミツキちゃん」
神様は電柱の陰にミツキを置いた。
あ、体がムズムズする。
「日が暮れたから、体が元に戻ったんだよ。お腹空いたよね、ちょっとご飯食べようか」
うん。確かにお腹はすいた。けど、なんだかものすごくさみしい。
「あ、な、泣かないで」
ごめんなさい、無理みたい。
だってミツキ、とっても悲しいんだもん。
「……泣きたいだけ、泣くといいよ。大丈夫」
神様はまたミツキを抱っこしてくれた。
涙、とまんないや。でも、いいよって、神様言ってくれたもん。
※ ※ ※
「ミツキちゃん、ラーメン好きなの? じゃ、これ二つお願いします」
神様はラーメン屋さんの人にそう言った。
「ママ、心配してるかもしれない……お家に帰らなきゃ」
「うん、帰りは瞬間移動で帰ろうね」
シュンカン?
「大丈夫、すぐにお家につくように帰るよ。神様に任せなさい! 今はとりあえず、お腹をいっぱいにしよう」
「さっきの人が、ミツキのパパなんだね」
「うん……そうなんだよ、ちょっとワケアリみたいでね
。それにさっきの人、ミツキちゃんのパパにはなれそうにないんだよね。ごめんね」
「え……なんで?」
神様は、またさっきみたいに、ちょっと変な顔になった。
「あの人は、ミツキちゃんのママじゃないママと、ミツキちゃんじゃない子ども二人と、一緒に暮らしてるんだ。ミツキちゃんよりお姉さんの子どもだよ」
……そうなんだ……
あったかそうな湯気をたてた、ラーメンがやってきた。
「いただきます」
違うママ。違う子ども。ミツキのパパにはなれない。
じゃあ、あの写真の人は? あの人なら、ミツキのパパになってくれるかもしれない?
一生懸命ラーメンを冷ましながら頬張る。
「ラーメン、おいしいね」
「うん……うまいね! 初めて食べるけど、これは衝撃的なうまさだよ!」
そっか、神様はラーメンを食べたことなかったんだ。
「え? なんか変? そんなに笑われるとなんだかくすぐったいな……へへ」
神様が笑ってた。なんだかそれだけで、すごく嬉しかった。
「すぐには無理だろうけど、元気だしてね、ミツキちゃん」
「うん……ねぇ、神様。ミツキ、あの写真のパパにも会いたい」
食べきれなかったラーメンを、ミツキは神様にあげた。
「え……あの人か……」
さすが神様、なんでもお見通しなんだ!
「うん!」
「いや、ちょっとそれは……なかなか難しいな……あ、会わせることはできるけど、パパになってもらうのは……神様にも難しい」
「そうなの?」
「うん。神様はね、人の気持ちは変えられないんだよ。あの二人はこじれた上に、もう冷めきってるから……あ、ラーメンありがとう」
にゃーん……
「あ、黒猫さん」
「げ、黒龍様っ」
「すごいね、どうやってここまで来たの?」
「まあ、黒龍様は瞬間移動できるから……え? 協力しろ、ですか? いや、だって、どうやったってあの二人は修復不可能でしょ……え、過去に行けばなんとかなるんじゃないかって? また無茶な、そんなことでき……できるんですか……そりゃあ、俺だってミツキちゃんには幸せになってもらいたいですよ……はあ、はい……わかりましたよ……」
はあーあ、と神様は大きなため息をついた。
「まあ、とりあえずお家に帰ろうね。ママを心配させちゃいけないから」
「うん……ねぇ神様、大丈夫?」
「うん。大丈夫、大丈夫! 神様に任せときなさいって!」
お店の人にお金を払う神様は、そう言って笑ってたけど、なんだかミツキはちょっと心配になった。
でも、次はあの写真のパパに会えるんだ。
だって、神様が任しとけって言ったもん。
やったね!
「じゃあ、またね!」
「できる、できる、できると思うばなんだってできる」
神様はバイバイした時、にっこり笑ってたけど。
ほんとに、大丈夫かなあ?
そっか、パパはミツキの知らないところに住んでるんだ。
「ほら、あの人だよ。こんにちは」
神様があの人、と指さした人は、パパじゃなかった。
あの、ママが大事にしてるパパじゃない。
え……違うよ、神様。この人じゃないよ。
ミツキはそう言って神様を見たけど、神様はミツキを見なかった。
「お仕事に戻る前に、この子に手を見せてくれませんか? ちょっと変わった子で、美容師さんの手が大好きなんですよ」
「へえ、初めて聞いたな、そんな猫いるんだ……薬剤の匂いとか平気なのかな」
すっ、と大きな手が向かってくる。
あ……この手……ミツキのとそっくり。
『ミツキはね、顔がママにそっくりで、手がパパにそっくりなんだよ』
昔、ママが言ってたことを思い出した。
じゃあ、この人がミツキのパパなんだ。え……じゃあ、あの写真の人は?
「じゃ、仕事に戻るんで」
「はい、ありがとうございました」
なんだかぼんやりする頭で、パパの後ろ姿を見送る。
茶色い髪。大きな体。なんとなく、真面目じゃない感じ。
ミツキ……あの写真の人が良かった。
「ごめんな、ミツキちゃん」
神様は電柱の陰にミツキを置いた。
あ、体がムズムズする。
「日が暮れたから、体が元に戻ったんだよ。お腹空いたよね、ちょっとご飯食べようか」
うん。確かにお腹はすいた。けど、なんだかものすごくさみしい。
「あ、な、泣かないで」
ごめんなさい、無理みたい。
だってミツキ、とっても悲しいんだもん。
「……泣きたいだけ、泣くといいよ。大丈夫」
神様はまたミツキを抱っこしてくれた。
涙、とまんないや。でも、いいよって、神様言ってくれたもん。
※ ※ ※
「ミツキちゃん、ラーメン好きなの? じゃ、これ二つお願いします」
神様はラーメン屋さんの人にそう言った。
「ママ、心配してるかもしれない……お家に帰らなきゃ」
「うん、帰りは瞬間移動で帰ろうね」
シュンカン?
「大丈夫、すぐにお家につくように帰るよ。神様に任せなさい! 今はとりあえず、お腹をいっぱいにしよう」
「さっきの人が、ミツキのパパなんだね」
「うん……そうなんだよ、ちょっとワケアリみたいでね
。それにさっきの人、ミツキちゃんのパパにはなれそうにないんだよね。ごめんね」
「え……なんで?」
神様は、またさっきみたいに、ちょっと変な顔になった。
「あの人は、ミツキちゃんのママじゃないママと、ミツキちゃんじゃない子ども二人と、一緒に暮らしてるんだ。ミツキちゃんよりお姉さんの子どもだよ」
……そうなんだ……
あったかそうな湯気をたてた、ラーメンがやってきた。
「いただきます」
違うママ。違う子ども。ミツキのパパにはなれない。
じゃあ、あの写真の人は? あの人なら、ミツキのパパになってくれるかもしれない?
一生懸命ラーメンを冷ましながら頬張る。
「ラーメン、おいしいね」
「うん……うまいね! 初めて食べるけど、これは衝撃的なうまさだよ!」
そっか、神様はラーメンを食べたことなかったんだ。
「え? なんか変? そんなに笑われるとなんだかくすぐったいな……へへ」
神様が笑ってた。なんだかそれだけで、すごく嬉しかった。
「すぐには無理だろうけど、元気だしてね、ミツキちゃん」
「うん……ねぇ、神様。ミツキ、あの写真のパパにも会いたい」
食べきれなかったラーメンを、ミツキは神様にあげた。
「え……あの人か……」
さすが神様、なんでもお見通しなんだ!
「うん!」
「いや、ちょっとそれは……なかなか難しいな……あ、会わせることはできるけど、パパになってもらうのは……神様にも難しい」
「そうなの?」
「うん。神様はね、人の気持ちは変えられないんだよ。あの二人はこじれた上に、もう冷めきってるから……あ、ラーメンありがとう」
にゃーん……
「あ、黒猫さん」
「げ、黒龍様っ」
「すごいね、どうやってここまで来たの?」
「まあ、黒龍様は瞬間移動できるから……え? 協力しろ、ですか? いや、だって、どうやったってあの二人は修復不可能でしょ……え、過去に行けばなんとかなるんじゃないかって? また無茶な、そんなことでき……できるんですか……そりゃあ、俺だってミツキちゃんには幸せになってもらいたいですよ……はあ、はい……わかりましたよ……」
はあーあ、と神様は大きなため息をついた。
「まあ、とりあえずお家に帰ろうね。ママを心配させちゃいけないから」
「うん……ねぇ神様、大丈夫?」
「うん。大丈夫、大丈夫! 神様に任せときなさいって!」
お店の人にお金を払う神様は、そう言って笑ってたけど、なんだかミツキはちょっと心配になった。
でも、次はあの写真のパパに会えるんだ。
だって、神様が任しとけって言ったもん。
やったね!
「じゃあ、またね!」
「できる、できる、できると思うばなんだってできる」
神様はバイバイした時、にっこり笑ってたけど。
ほんとに、大丈夫かなあ?
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