4 / 47
第4話 異世界の似た者 望まない変化、来る
しおりを挟む
「おい、飯!」
しーん……
「おい、俺の靴下どこだ!」
しーん……
「……そうだ……あいつ、いないんだった」
俺はしかたなく、靴下を求めて辺りを探し始める。
脳裏に浮かぶのは、嫌そうな表情をしながらも
『はいよ、靴下!』
と、俺の靴下を差し出す妻の姿だ。
きれいに洗濯され、しっかりおひさまの下で乾き、きっちり畳まれた、俺の靴下。
「あ、あったあった……」
今の俺の手の中にあるのは、乱れたベッドの下から出てきた、埃にまみれ、変なにおいがする、よれよれの靴下だ。
「くそっ……」
俺は靴下についた埃を手で払い、漂ってくるにおいを無理やり無視してそれを履いた。
「気持ち悪……」
妻がこの家からいなくなって、もう二週間が経つ。
『……え? いいの、言っちゃって? あー、旦那の方ね! 旦那の方に原因があるね! はい、以上、おしまい!』
俺達夫婦の間に、いつまでも子が授からない理由を龍神に聞いたのがまずかった。
いや、本当にまずかったのは、それまでの俺の妻に対する態度だ。
今ならそれがいやというほどわかるし、反省だってしている。
だが、どんなに俺が詫びることを望んでも、その相手である妻がいないのでは、話にならない。
※ ※ ※
『君を、必ず幸せにするよ』
永遠の愛を神の元で誓い、俺達は夫婦になった。
それはなにも、俺達だけの話じゃない。
この国では、神の元で誓った物事は永遠になかったことにはできないルールになっている。
つまり、結婚はできても別れることはできないのだ。
俺は、龍神から正気を失うくらいにショッキングな事実を知らされた後も、そのルールに甘えていた。
どんなに嫌気がさそうと、妻は俺の妻でいるしかないのだと。
ところが。
裏ルール、というものを妻は選んだらしい。
それは、三年間失踪した者は国籍から除く、というものだ。
俺は尋ね人の張り紙を手に役所を訪れ、そこで愕然とした。
所狭しと貼られた、尋ね人の貼り紙。ざっと五十枚はありそうだ。
今まではその前を素通りしてきた。
俺には無関係だと。
だが、今の俺は尋ね人の紙を貼る側になってしまった。
俺はなんだかみじめな気持ちになり、周囲をちらちらと気にしながら、壁に貼られているたくさんの貼り紙をまじまじと見た。
貼り紙に描かれた尋ね人の年齢は、二十代から四十代が多い。性別は男が七割、といったところか。
一番上の一番左端の貼り紙には、あと一ヶ月で時効となる年月日が記されている。
いつかは、俺が貼った紙も、あの場所に行くのか。
俺は絶望の淵に立ったまま、決められたスペースの一番下の一番右端に、紙を貼った。
十年前は確かに愛しいと思っていた、妻の似顔絵が描かれた、特別な紙を。
しーん……
「おい、俺の靴下どこだ!」
しーん……
「……そうだ……あいつ、いないんだった」
俺はしかたなく、靴下を求めて辺りを探し始める。
脳裏に浮かぶのは、嫌そうな表情をしながらも
『はいよ、靴下!』
と、俺の靴下を差し出す妻の姿だ。
きれいに洗濯され、しっかりおひさまの下で乾き、きっちり畳まれた、俺の靴下。
「あ、あったあった……」
今の俺の手の中にあるのは、乱れたベッドの下から出てきた、埃にまみれ、変なにおいがする、よれよれの靴下だ。
「くそっ……」
俺は靴下についた埃を手で払い、漂ってくるにおいを無理やり無視してそれを履いた。
「気持ち悪……」
妻がこの家からいなくなって、もう二週間が経つ。
『……え? いいの、言っちゃって? あー、旦那の方ね! 旦那の方に原因があるね! はい、以上、おしまい!』
俺達夫婦の間に、いつまでも子が授からない理由を龍神に聞いたのがまずかった。
いや、本当にまずかったのは、それまでの俺の妻に対する態度だ。
今ならそれがいやというほどわかるし、反省だってしている。
だが、どんなに俺が詫びることを望んでも、その相手である妻がいないのでは、話にならない。
※ ※ ※
『君を、必ず幸せにするよ』
永遠の愛を神の元で誓い、俺達は夫婦になった。
それはなにも、俺達だけの話じゃない。
この国では、神の元で誓った物事は永遠になかったことにはできないルールになっている。
つまり、結婚はできても別れることはできないのだ。
俺は、龍神から正気を失うくらいにショッキングな事実を知らされた後も、そのルールに甘えていた。
どんなに嫌気がさそうと、妻は俺の妻でいるしかないのだと。
ところが。
裏ルール、というものを妻は選んだらしい。
それは、三年間失踪した者は国籍から除く、というものだ。
俺は尋ね人の張り紙を手に役所を訪れ、そこで愕然とした。
所狭しと貼られた、尋ね人の貼り紙。ざっと五十枚はありそうだ。
今まではその前を素通りしてきた。
俺には無関係だと。
だが、今の俺は尋ね人の紙を貼る側になってしまった。
俺はなんだかみじめな気持ちになり、周囲をちらちらと気にしながら、壁に貼られているたくさんの貼り紙をまじまじと見た。
貼り紙に描かれた尋ね人の年齢は、二十代から四十代が多い。性別は男が七割、といったところか。
一番上の一番左端の貼り紙には、あと一ヶ月で時効となる年月日が記されている。
いつかは、俺が貼った紙も、あの場所に行くのか。
俺は絶望の淵に立ったまま、決められたスペースの一番下の一番右端に、紙を貼った。
十年前は確かに愛しいと思っていた、妻の似顔絵が描かれた、特別な紙を。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる