上 下
326 / 409
十五章

十五話 【虫人間】

しおりを挟む
「なぁ、ビルゲン。厄災がグラサーナを狙う理由ってなんだと思う?」

惣一郎はひとり湯船に浸かりながら、仕切りの向こうのビルゲンに話しかける。

「ええ、僕も気になっていました。どんなに離れていてもグラサーナの居場所がわかるみたいに追いかける理由……」

ロープでぐるぐる巻きにされたビルゲンが真顔で答える。

夜、みんなが寝静まった後、ひとり風呂に入る惣一郎に気付いたビルゲンが、服を脱ぎ出した結果だ。

金色の厄災に姿を変えたグラサーナが、厄災に追いかけられ、逃げる理由。

この広い森で、グラサーナを見つけられればいいが……

厄災がいれば後を追い、見つけられるかも知れないが、先を越され殺されたら厄災の行動が読めなくなる。

なんとしても先に見つけねば、数多く散らばった厄災が集まるチャンスは、もう無いだろう。

ん? 厄災に姿を変えた……

あれ? じゃ夜は動かないんじゃ……

惣一郎は風呂を出て、すぐにみんなを起こす!

「すまん、考えが足らなかった! 捕まえるチャンスは夜だ! 急ぐぞ」

起きたベンゾウと弁慶、ビルゲンの視線が惣一郎の惣一郎に注がれる。

「いや~ん♡ って、やってる場合か! 急げ!」

惣一郎は服を着ると理喪棍を掲げ、幻腕を出して両手で握り集中する!

「なっ! なんだその手は!」

「し~!」

サーチ! ダメか…… 反応が無い。

大分広範囲で探したが、サーチが届かないさらに奥か?

待てよ、西南の方角には魔獣の反応が少ないぞ!

惣一郎はテントの外に出て舟を出す!

「クロ、留守番を頼む、みんなは舟に!」

「えっ? 舟に?」

「いいから、いいから」

舟に乗ると理喪棍を握るベンゾウと弁慶。

「ビルゲンも杖を掴め、行くぞ!」

銀の舟が浮かび、西南へ飛び立つ。

勢いよく飛ぶ舟に、ビルゲンは何が起きてるのか理解が追いつかないでいた。



魔獣の反応が少ない場所へ降りると、またサーチを唱える。

もう魔力を温存してる場合では無いな!

だが、頭の悪腫騒ぎで魔力切れの頭痛と勘違いして、気にしている惣一郎だが、リミッターが無くなった今の惣一郎は、無限に近い魔力を持っている事に気付いていなかった。

「いた! 舟に乗れ!」

訳も分からず、また空を飛ぶビルゲン。

「はははは~ 空を飛んでおる~」

やや壊れかけていた。

更に森の奥へ飛ぶ舟は、しばらく西へ進むと上空で止まる!

「いた! 下だ、いいか逃すなよ!」

ビルゲンがライトの魔法を唱える。

地面に降り、大木の根元で丸まっている金色の厄災を取り囲む!

「こ、これが、グラサーナなの?」

周りには、食い散らかされた魔獣の死骸が散乱している。

惣一郎は、大型犬用の檻を購入し地面に置く。

グラサーナは、まだ丸くなっている。

「あれ? このまま運べそうか?」

惣一郎が近づくと、厄災が起き、惣一郎達を見て大きな声を上げる!

「ガゲガーーーー!」

立ち上がるグラサーナは、人と厄災が混ざった化け物だった。

すぐさま、惣一郎の鉄球が上から襲う!

だが奴の死角は視界の中だった!

簡単に避けられ、額の触覚がカタカタと音を鳴らす。

弁慶のフルスイング!

それを振り向きもせず、片手で受け止めるグラサーナ!

だが厄災は、受け止めた肘に違和感を感じ顔を向ける。

掴まれた侃護斧は、動かない。

そこに閃光が潜り込んで、一閃!

侃護斧を掴んだ肘で大きな火花を見せると、掴んでいた手を離し「イガーーー!」っと吠える!

惣一郎のククリ刀が4つ、オレンジに色を変え、高い音を響かせ飛び立つ!

奴の両足で火花を光らせ弾かれるが、グラサーナも膝を折り地面に突く!

「ギーーーー!」

腰から生えている両腕が、地面を叩く様に飛び跳ねる!

が、上から赤い弁慶がタイミングを合わせ、侃護斧を打ち下ろす!

虫の様な小さな羽を広げ、軌道を変えるが、侃護斧が肩を捉え、地面に叩き付ける!

左腕の一本が肩から黄色い体液を出し、千切れ飛ぶ。

「イガアーーーーー!」

すぐさま、起きあがろうするグラサーナ。

黒いオーラを両手に纏った、ベンゾウの残像が横切ると、立ちあがろうと前に出された右足を切り落とす。

「イガイーーーー!」

「待て! お前……」

惣一郎が攻撃を止める!

「お前、意識が残ってるのか!」

2本の手足を失った虫人間が、残った4本の手足で地面に四足獣の様に、起き上がる。

羽を時折、ビビビっと鳴らし、触覚が動く。

「ゴゴセーーー!」

3人掛りのイジメの様な戦いは、妙な方向へ進んでいく。

背後には赤い弁慶が、ツノを伸ばし、侃護斧を振り上げ、いつでも動ける様に構えている。

横にも、メラメラと黒いオーラを纏う銀髪の少女が、目を光らせていた。

「殺せって言ってるのか!」

カタカタ触覚が鳴る。

「厄災が、お前を追いかける理由はなんだ!」

「グウーー!」

「ぐー? 食うか! 厄災はお前を食うために追いかけてるのか!」

「ゴゴセーー!」

っと厄災が、惣一郎に襲い掛かる!

「待っ……」

グラサーナの右手が惣一郎に届く前に、弁慶の一撃が打ち込まれ、くの字に地面に大きな窪みを作る。

右側にいたベンゾウは、左側で背を向けていた。

グラサーナの伸ばした右腕が、落ちる。

カタカタ「ゴゴ……セ」

「ああ、ひと仕事してからな……」

なんとも後味の悪い、戦いであった。

ビルゲンは、その後ろで、

「何も出来なかった……」

っと呟く。





しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...