上 下
5 / 409
第一章

五話 【都合良すぎでしょ!】

しおりを挟む
草原の奥には岩を背丈まで積み上げた壁が出来ており、手前にはテントが幾つも並んでおり、人の影が見える。

町に入れない人達のキャンプの様な物らしい。

その奥、岩壁を境に木造の建物が広がる。

馬車は目的地、ムイの町に着く。

岩で作られた門と丸太のバリケードが馬車の前を塞ぎ、武器や防具に身を包んだ門番達が馬車を止める。

「ジュグルータさん! お戻りで?」

声をかけてきた門番に馬車から顔を出し、商人が答える。

「ええ、今もどりました。連れが一人いるので町に入れてもらいたい」

差し出した銀色の硬貨に、門番も察したのか馬車の中を覗き込み、惣一郎を舐める様に見る。

「わかりました。ジュグルータさんのお連れなら問題はないでしょう」

門番はお金を受け取り、他の門番に顎で指示を飛ばすと丸太のバリケードが開かれ、町の中に入って行く馬車。



二階建ての木造の家が密集し、メインストリートだろう道の両脇には露店が並び、賑わいを見せていた。

初めてばかりが目に飛び込み興奮を隠せずにいる惣一郎は、騎士達や商人にはさぞ不思議に映ったのだろう。

「大きな街ではないですが、気に入っていただけたようで!」

エリンが馬車から身を乗り出す惣一郎に話しかける。

そりゃ、興奮しますよ! 映画やアニメの光景じゃん、何処から来たと思ってんのよ!

街中を少し進むと、前から小綺麗な格好の青年が息を切らしながら近づいてくる。

「ジュグルータ様、おかえりなさい!」

青年は傷ついた馬や騎士を見て察したのか、心配そうな顔になる。

「ススの森でオークに襲われましたがこの通り、皆無事です」

目を丸くした青年から続く言葉はなかった。

「お客様を迎えると屋敷に伝えて下さい」

「かしこまりました」っと、返事をする青年が走り去って行く。

賑やかな街並みから少し離れると、大き目な家が増えてくる。

その中でも立派なお屋敷を指差し「さぁ、着きましたよ」っと、ジュグルータさんが馬車の中の荷をまとめ出す。



屋敷の前に慌ただしく並び出すメイドを見て、テンションが上がる惣一郎。

メイドきた~!

馬車を降りたジュグルータさんがメイド達に指示を出し、騎士達も荷解きを手伝い始める。

ひとり場違いな惣一郎に白髪の使用人が「こちらへ」っと、屋敷へと案内する。

「まずは、ゆっくり休みましょう!」

ジュグルータさんは大事そうに白熊の毛皮を抱え、屋敷の中へと消えていった。

案内された部屋では着替えと体を拭く湯が用意されており、本当ならシャワー浴びてさっぱりしたい惣一郎だったが、桶の湯で体を拭き始め、ややきついが着れない事もない異世界の服に着替える。

着心地は...... まぁ慣れなのかな?

街で見た人達と比べると、小綺麗で高そうな服であった。

タイミング良く入ってきたメイドが、軽い食事をテーブルに置くと惣一郎の着ていた服を畳み、軽く頭を下げて持って行く。

異世界のサンドイッチは、道中食べた食事とは比べ物にならず、あっという間に完食すると、またタイミング良く執事が現れる。

「ご挨拶が遅れました、わたくしこの家の執事長をしております[ニール]と申します。惣一郎様、此度は主人の危機に御助力頂き、誠に感謝致します。お疲れなのか主人は、このまま休まれるそうなので、惣一郎様も今日はこちらでごゆっくりお過ごし下さい。何かあればこちらのベルで何なりとお申し付け下さい」

白髪の執事は丁寧に頭を下げ、話を続ける。

「なんでも惣一郎様は、転移トラップで遠くから飛ばされたそうですね…… 転移魔法は失われた魔法ゆえ謎も多く、過去には記憶を失った者もいると聞きました。何かお困りの事ございましたら、このニールが、微力ながらお役に立てればと思いますので何なりと」

おっ、ありがたいなその設定! 頂きます。

「ありがとうございます。ホント記憶が曖昧で、覚えている事もあるのですが…… その… 常識的な事がちょっと飛んでるっぽくて」

食事と一緒に出された紅茶に似た物を飲みながら惣一郎は執事に陽が落ちるまで質問を繰り返した……





しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...