上 下
189 / 194
第九章

十五話【解放】

しおりを挟む
「毒は効いてるのか?」

盾を構えるゴゴがそっと蟲に近付く。

緑の巨大な蟲が、薄っすら白くなるほど殺虫剤が積もっているのに、全く動きが無い。

時折触覚が動くので、死んでいる様には見えなかった。

目は赤くこの大きさの蟲に、もし外敵がいるのなら『私はここだ』っと主張する様に、緑のリングが脈を打つ。

足元まで来るとゴゴは、盾を前に構えながら地面に伸びた刺々しい脚を覚悟を決め蹴り上げる!

カポーん……

空洞を叩く様な乾いた音が響く。

そして動かない……

ならばと一斉に攻撃を仕掛ける騎士達。

ゴゴとジジは盾を片手に惣一郎に貰った、叩くに特化した金属の金槌を振りかぶる!

タイガは尖った鋭い槍を!

ジャニーは長い長剣で!

ホルスタインは新たに手にした長い日本刀、偽物破邪の御太刀を肩に背負い!

ギネアも美しい波紋の薙刀を高く、弧を描く!

示し合わせた攻撃は、大木を抱える様に寄り掛かる緑の巨大な蟲の背中に、綺麗な一撃と成る!

大きな葉っぱの様な蟲の背に、深く突き刺さる騎士達の一撃。

それでも蟲は触覚がクイっと動くだけだった。

次の瞬間!

「離れろ!」っと槍を突き刺すタイガが吠える!

蟲の背中に亀裂が走り、殻を破る様に中身が溢れ出す!

白い無数の人程の大きさの米粒が、溢れる様に蟲の中から雪崩れ落ちる!

慌てて距離を取る騎士達!

そこに丁度、ミコとガオが応援に駆けつける!

「何だコリャ!」

無数の白い大きな卵が、割れた蟲の背中から広がり、ウネウネと動いていた。

「ミコ様! あれを!」

ハクが指差すその先で、溢れた白い卵から、濡れた黒く長いハエの様な蟲が、にゅるんっと姿を現し、透明な羽を広げ、乾かす様に小刻みに羽ばたく!

次々と孵化する、緑に輝く大きな目のブヨ!

濡れた毛が黄金色に陽の光りを反射する。

「大量の卵を体に……」

「この量、やばく無いか?」

次々と孵化するブヨから目が離せない騎士達。

その一匹、まだ濡れた生まれたばかりのハエを、鉈で叩き斬るミコ!

「見てる場合じゃないだろ! 柔らかいうちに殺せ!」

呆気に取られていたゴゴ達が我に帰り、ミコに続く!







「ちょっとキシル~ 卵を仕込んだあの蟲まで襲われてるわ…… もう全部居場所がバレた見たい…… 一体どうやってよ、もう!」

遠くの空を見上げるネネル。

蟲の混ざるハイブリッドへと姿を変えたキシルは返事もせず、ベンゾウと弁慶から目を離さない。

「最初っから相手が悪いのさ! 旦那様はお前らの敵う相手じゃない!」

戦斧を構え、挑発する弁慶。

その弁慶の挑発に、ベンゾウを見失うキシル!

だがそれを探そうと、弁慶から目を逸らす事も出来ない!

後ろのネネルに背中を押しつけ、視野を広げるキシルだったが、その一瞬で弁慶の大きな斧が目の前に迫っていた!

二の腕が瓢箪型の黒い腕で、受け止めるキシル!

硬いはずの黒い腕は、弁慶の戦斧を受け止めきれず、右腕を失くす!

「ネネル! 逃げて!」

その攻防だけで、このふたりには敵わないと瞬時に理解したキシルが振り返るとそこには、ネネルの首の無い体だけが立っていた……


ゆっくりと前に倒れる様にもたれ掛かる、ネネルの体。

その影には、青白いオーラを纏い二本の白い小刀を握る、女の姿が見えた。

勇者……

固まるキシル。

弁慶も戦斧を肩に担ぎ、追撃する気配も見せない。

一気に色んな記憶が頭を流れるキシル。

キシルもまた、ネネルに操られていた1人であった。

『私は…… 私は何を守っていたのだ…… 私はここで誰と戦っているのだ……』

赤い目のキシルはネネルの呪縛が解け、自分が魔女である事を思い出す…… っと思い込む。

本当は何者なのか、もうそれを知る者は何処にもいない……

ゆっくりと回る世界を見ながらキシルの頭は、地面に転がり、ネネルの頭と並ぶ。

解放という言葉が最後に浮かび、キシルの顔は穏やかな表情になっていた。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

【スキル箱庭】無限な時間で、極めろ魔法 ~成り上がり~

杉咲 るい
ファンタジー
 "奴隷の鉱山"  それは、人族が暮らす土地の最北端に位置する世界最大の奴隷の収監所。  世界各国から集められた奴隷達が日夜働き、鉱石を取っては看守へ献上する日々を過ごす場所。  そこに女子供は関係なく、人権もない。  喋ることも安易に出来ないその場所で、せっせと働く片腕の男が1人。  囚人番号7510506。  彼はその日、紅水晶(ローズクォーツ)を掘り当て、スキル受諾の許可を得た。  授かったスキルは【箱庭】。  看守たちには鼻で笑われたが、このスキルマジで使える!?  ロードはスキルを駆使して数人の仲間を連れて、奴隷生活に終止符を打った--

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

転生王女は現代知識で無双する

紫苑
ファンタジー
普通に働き、生活していた28歳。 突然異世界に転生してしまった。 定番になった異世界転生のお話。 仲良し家族に愛されながら転生を隠しもせず前世で培ったアニメチート魔法や知識で色んな事に首を突っ込んでいく王女レイチェル。 見た目は子供、頭脳は大人。 現代日本ってあらゆる事が自由で、教育水準は高いし平和だったんだと実感しながら頑張って生きていくそんなお話です。 魔法、亜人、奴隷、農業、畜産業など色んな話が出てきます。 伏線回収は後の方になるので最初はわからない事が多いと思いますが、ぜひ最後まで読んでくださると嬉しいです。 読んでくれる皆さまに心から感謝です。

私、獣人の国でばぁばになります!

家部 春
ファンタジー
(この家に私の居場所は無いの? 仲良し家族と思っていたのは私だけだったの? )    43歳にして家事手伝い。結婚も就職もアルバイトさえした事が無い葉月は家を出て自活する決心をする。  腰まで伸ばしていた長い髪を肩口まで切り、古い手鏡の前に置くと女神が現れた。『誰も知らない所に行って普通の人になりたい』という願いを叶えてくれると言うのだ。それに、手鏡を通していつでも女神と話ができるらしい。葉月は手鏡と共に異世界に転移する事に決めたのだった。  どことなくアジアを思わせる剣と魔法のファンタジーな世界に転移して、獣人の国に保護されたが、奴隷となってしまう。しかし、激安で叩き売りされても買い手はつかない。  平均寿命約40歳の獣人の国では葉月は老い先短い老人でしかないのだ。  ……それなら、好きに生きても良いよね!  ばぁばとして生きる覚悟をした葉月のおばあちゃんの知恵袋はどう活かせるのか?  そして『普通の人』になって、誰かに必要とされ愛されたいと願う葉月の居場所はどこにあるのか? ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ご都合主義です。ゆるい設定です。 女性の年齢に対して偏見のある異世界です。了承していただけた方のみお読みください。 ※他サイトにも投稿しております。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

処理中です...