上 下
165 / 194
第八章

十八話【決闘】

しおりを挟む
階段を降りて行くと前に広い空間が見えて来て、惣一郎が片手を広げみんなの足を止める。

下に広がる大空洞。

赤い岩肌を照らすライトの光が、奥まで届かない程の広さだった。

「主人よ」

スワロが指差す方には、大きな蟲の残骸が落ちている。

何かの実験場に思える空間に出た惣一郎達。

横に岩を削り下まで続く階段も見える。

以前見た、地下に作られた街程の広さであった。

「降りて来い! 勇者よ」

大空洞に響く声を探す弁慶達。

惣一郎とスワロ、ベンゾウの3人は、その広い空間の中心を見ていた。

「やっぱ生きてたか、ゲルドマ」

蟲の残骸に紛れるように、広場の中心に立つゲルドマ。

弁慶に砕かれたはずの腕が、黒々と以前より大きく太く、下半身は四本脚で立つ蟲その物であった。

上半身と顔だけがダークエルフだった褐色の肌で、人であった名残を見せる。

ベンゾウとスワロがその上空をホバリングするトンボの羽と顔、下半身から伸びる蟲の腹部の元傭兵だった3人を見ていた。

「蟲のくせに、再生すんじゃねぇよ」

ボソッと届かないだろう声でぼやく惣一郎。

返事のタイミングは聞こえたのかも知れない。

「そこの女! 一対一の決闘を申し込む!」

ゲルドマの視線が届かない距離にも関わらず、みんなが何故か、弁慶を見る。

ゲルドマの声だけ響く洞窟。

羽音も聞こえず飛び続けるギンヤンマの傭兵。

惣一郎は侵入がバレ、待ち伏せされた事に周りを警戒していたが、目の前の4匹以外の反応は無かった。

侃護斧を肩に担ぎ、前に出ようとする弁慶を止める惣一郎。

「この散らばる蟲の残骸は、お前らが喰ったのか?」

サーチを飛ばし探る惣一郎。

「ここはロンシール様の実験場だ。蟲同士戦わせる。これはその残骸だ」

「ロンシール? 実験?」

「我々も目的は知らん! ここは蟲を次々と送り込み戦わせる為の空間だ。時折この大陸の岩に行き場を失う蟲の魔力が黒い渦を作り、その穴に蟲が消える現象の実験を繰り返していた」

「はぁ? 次元を開いていたのか!」

「じげん? 知らん、答えたぞ! その女と戦わせろ」

衝撃を受ける惣一郎。

まさか、自然に開いた次元を越え、蟲が異世界に来ていたのでは無かったのか?

故意に蟲を送り込んでいた?

そんな惣一郎の肩を優しく掴む弁慶が、

「旦那様、やっていいか?」

っと、前に出る。

「えっ? あ、ああ」

すると階段を降りず、結構な高さから飛び降りる弁慶!

ドスン!っと響く衝撃音。

足元にヒビを作り、しれっと起き上がる弁慶が赤くツノを伸ばす。

アホ!っと、慌てて階段を追いかける惣一郎達。



「貴様…… 名乗れ! 我はゲルドマ。パテマ傭兵組合、団長のゲルドマだ!」

艶のある黒い瓢箪の様な腕に握られた、大きな戦斧を前にブンっと構えるゲルドマ。

離れた赤い弁慶の白い髪が、風圧で揺れる。

「弁慶! 冒険者ジビカガイライの副団長を務める鬼人、黒鉄の弁慶だ!」

歩きながら筋肉が盛り上がり、身体の周りの空間を歪め、片手で侃護斧を振り回すとピタッとゲルドマに向け構える!

戦斧よりも小さく短剣ほどの黒い塊が、離れたゲルドマの髪を揺らす。



階段を降りる惣一郎が駆け寄ると、先に飛び降りたベンゾウが惣一郎を止める。

上空の3匹が槍と剣を構え、決闘に邪魔が入らない様にと睨み付ける!

そのトンボの複眼に、無数の自分が映る。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと
ファンタジー
アラサー社会人、時田時夫は会社からアパートに帰る途中、女子高生が聖女として召喚されるのに巻き込まれて異世界に来てしまった。 そして、女神の更なるミスで、聖女の力は時夫の方に付与された。 そんな事とは知らずに時夫を不要なものと追い出す王室と神殿。 そんな時夫を匿ってくれたのは女神の依代となる美人女神官ルミィであった。 帰りたいと願う時夫に女神がチート能力を授けてくれるというので、色々有耶無耶になりつつ時夫は異世界に残留することに。 活躍したいけど、目立ち過ぎるのは危険だし、でもカリスマとして持て囃されたいし、のんびりと過ごしたいけど、ゆくゆくは日本に帰らないといけない。でも、この世界の人たちと別れたく無い。そんな時夫の冒険譚。 ハッピーエンドの予定。 なろう、カクヨムでも掲載

チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司
ファンタジー
28才、彼女・友達なし、貧乏暮らしの桐山頼人(きりやま よりと)は剣と魔法のファンタジー世界に"ヨリ"という名前で魔王を倒す勇者として召喚される。 しかしそこでもギフトと呼ばれる所謂チート能力がなかったことから同じく召喚された仲間たちからは疎まれ、ついには置き去りにされてしまう。 「ま、良いけどね!」 ヨリはチート能力は持っていないが、お金無限増殖というバグ能力は持っていた。 大金を手にした彼は奴隷の美少女を買ったり、伝説の武具をコレクションしたり、金の力で無双したりと自由気ままに暮らすのだった。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...