上 下
134 / 194
第七章

九話【消えたルドの村】

しおりを挟む
村から離れ、森の中に身を隠す惣一郎。

サーチで安全を確認すると種を出し、中に入る。

「惣一郎様!」

「旦那様!」

慌ててミネア達が出迎える。

中庭では大勢の村人が集まり、目を怪我した男を囲んでいた。

「惣一郎さん、一体何が!」

ブラギノールさんが状況が分からないからか、惣一郎に説明を求める。

「魔女だ。魔女に寄生されると自由を奪われ操られるんだ」

「魔女? 魔女は仲間では」

「本物の魔女だ」

混乱するブラギノールさん。

惣一郎は目を失った男に近付くと、アイテムボックスから回復薬大を取り出す。

四肢の欠損は無理でも、瀕死から怪我を治すと言う回復薬だ。

高価な物だが惜しみ無く男に飲ませる惣一郎。

見る見る回復し傷口が塞がるが、失った眼球そのものは元には戻らなかった。

「すまん、目までは治せないみたいだ」

「いえ、あの痛みが嘘の様です。混乱してますが、私にもその魔女に乗り移られた記憶はありますので、助けてもらっただけでも十分感謝しております」

「魔女に乗り移られた時の事を詳しく教えてくれないか?」

「ええ、宴の最中、急に首に激痛が走りまして、すぐ飛び立つ虫が見えたのでハチに刺されたと思っていたのです」

やはりあのハエが刺したのか、ハエの癖に。

「痛みは直ぐに治ったので、気にしなくなったのですが、木の根に拘束され、混乱していたら目が急に燃える様に熱くなり、体が全く動かせなくなったのです。意思とは関係なく話す自分に気がおかしくなりそうでした」

「ずっと意識はあったのか? 何か魔女について感じなかったか?」

「何も、ただ冷たく暗い感情が全身を包んで行く様に感じて…… そしたら急にまた目に激しい痛みを感じて」

「そうか、ありがとう」

「いえこちらこそ、ありがとうございます! 目は見えませんが、あのままあの感情に浸かっていたら、死ぬよりも辛かったかと」

会話を黙って聞いていた村人が、やっと状況を理解出来た様で、また助けられたと感謝する。

「ドラミ! すまないがカン達とみんなの仮住まいを頼む」

「ああ、任せとき……」

暗いドラミの返事。

村人が「仮住まいとは、村にはいつ戻れるのでしょうか?」っと聞いて来る。

その答えをドラミは森の木を通じて知っていたからだ……

「大型の蟲が何匹も向かって来てたんだ。少し様子を見よう」

惣一郎も巻き込んでしまった罪悪感に、気持ちが沈む。

「ミネア、ジル。みんなの事を頼む」

少し疲れたと言う惣一郎が、ミネア達にその場を任せ去って行く。





風呂上がりの熱った体に、ビールを流し込む惣一郎。

膝の上に頭を乗せてベンゾウは、ソファーで横になってアイスを食べていた。

魔女の目的が見えない……

小さな虫にまで寄生し、各地に情報網まで広げているのか?

蟲をも操り村を襲わせる事も容易い。

何年も時間をかけ、失った力を取り戻すと生き続ける意味は?

人を操り、魔女崇拝者を集め組織する意図は?

幸い、惣一郎達が大陸を目指してる事は、まだバレてはいない様だったが、近付いてる事がバレれば、仲間の転移陣でスワロを連れ、逃げられる可能性も高い。

「クソ、管理者め! 何が蟲の数を減らすだけの簡単なお仕事だ!」

そんな事は言ってない……

「管理者? 管理者ってなに?」

「お前の夢に出て来て、お前は勇者だって言ってた奴だよ」

「ああ、あのおっさんか…… おばさんだったっけ?」

「知るか! お前の夢だろ」

「ねぇ、ご主人様!」

「ん?」

「ダンジョンないの? ダンジョンならあの人の目、治す薬あるかも」

「ないのよコッチには……」

「じゃ向こうに帰って、取って来るしかないね!」

「そう上手く行かないのよね~」

「何で?」

「俺もスワロも、向こうで死んじゃったでしょ。なんか向こうの世界との繋がりが切れてるから俺たちは帰れないのよ」

「そうなの?」

「うん…… まぁベンゾウはこっちが片付いたら送るつもりだから安心しろ」

「えっ、ベンゾウもこっちに居るよ! ご主人様といる」

「向こうはどうすんのよ。弁慶達も待ってるだろ? 勇者が居ないと困るだろ向こうだって」

「ん~ じゃ、そん時だけ帰る」

「里帰りじゃないんだから……」

早く魔女倒して、スワロ助けないとな……

つか、アイツも勇者の癖に簡単に攫われやがって、どんだけ心配させんだ! 

段々ムカついて来たぞ!







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

おっさん聖女!目指せ夢のスローライフ〜聖女召喚のミスで一緒に来たおっさんが更なるミスで本当の聖女になってしまった

ありあんと
ファンタジー
アラサー社会人、時田時夫は会社からアパートに帰る途中、女子高生が聖女として召喚されるのに巻き込まれて異世界に来てしまった。 そして、女神の更なるミスで、聖女の力は時夫の方に付与された。 そんな事とは知らずに時夫を不要なものと追い出す王室と神殿。 そんな時夫を匿ってくれたのは女神の依代となる美人女神官ルミィであった。 帰りたいと願う時夫に女神がチート能力を授けてくれるというので、色々有耶無耶になりつつ時夫は異世界に残留することに。 活躍したいけど、目立ち過ぎるのは危険だし、でもカリスマとして持て囃されたいし、のんびりと過ごしたいけど、ゆくゆくは日本に帰らないといけない。でも、この世界の人たちと別れたく無い。そんな時夫の冒険譚。 ハッピーエンドの予定。 なろう、カクヨムでも掲載

チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司
ファンタジー
28才、彼女・友達なし、貧乏暮らしの桐山頼人(きりやま よりと)は剣と魔法のファンタジー世界に"ヨリ"という名前で魔王を倒す勇者として召喚される。 しかしそこでもギフトと呼ばれる所謂チート能力がなかったことから同じく召喚された仲間たちからは疎まれ、ついには置き去りにされてしまう。 「ま、良いけどね!」 ヨリはチート能力は持っていないが、お金無限増殖というバグ能力は持っていた。 大金を手にした彼は奴隷の美少女を買ったり、伝説の武具をコレクションしたり、金の力で無双したりと自由気ままに暮らすのだった。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

処理中です...