上 下
98 / 194
第五章

十六話【嵐の前の…】

しおりを挟む
蟲の巣を目指し歩く惣一郎は、キッドからの情報をゴゴから聞いていた。

崖の中腹にある洞窟に住む蟲は、また蟻の類いと思っていた惣一郎だったが、針の付いた黒い飛ぶ蟲との事。

蟻に姿は似ているが、蜂の類いであった。

スズメバチでは無さそうなので、初陣としては物足りないかも知れない。

歩きながら蜂用の殺虫剤を購入する惣一郎だったが、武器を手にようやく活躍出来ると張り切る後ろのタイガ達に、少し様子を見てからでもいいかと思えた。



しばらく、鬱蒼と生茂る森の中を進んでいくと、それは突然現れた。

大きなコオロギの死体の上に立ち、羽を小刻みに振動させる黒い人形の蟲。

いきなり王かよ……

警戒しこちらを睨みつける、黒い大きな目。

ゴゴとジジが盾を構え、前に壁を作る!

ベンゾウが出ようとするのを手を広げ、止める惣一郎。

猫背の王が腰から生えた腕で死体を持ち上げると、自分の何倍も大きなコオロギの死体を軽々と持ち上げ、飛び去って行く。

襲って来ない?

方角的に、巣に持ち帰ったのだろう。

重いのか、地上から軽く浮く程度の高さで、木々の間をスイスイと縫う様に消えて行く。

「旦那、いきなり上位種が出たぞ……」

棍を構えたままのタイガの声は、驚きを隠せずにいた。

すぐにサーチを飛ばす惣一郎。

蟲は、あっという間にサーチの範囲外まで飛び去って行く。

「主人よ……」

「ああ、追うぞ」

惣一郎達は、蟲が飛び去った方角へと森を進んで行く。

みんなの顔色も真剣な物になっていた。




陽が落ち始めた頃、今日はこの辺りで休もうと種を出す惣一郎に、ジジが、

「惣一郎様、訓練の為にも野営しましょう」

っと野宿を提案してくる。

確かにそう言った訓練も必要なのかと、提案を受け入れる惣一郎。

テキパキと火を起こし、見張りと寝床の準備に別れる騎士達。

移動中に捕まえた鹿の様な物で、ハクが食事の準備を始める。

捕らえて直ぐ血抜きされた鹿を、例のナイフで見事に切り分けていくハク。

惣一郎達は黙ってその手際を眺めていた。




香草と一緒に焼かれた肉は、硬いがワイルドな味わいで、惣一郎にとっては力のみなぎる夕食となった。

「お気に召しましたか?」

「ああ、顎が疲れるが、美味い!」

ベンゾウも夢中で齧り付いていた。

「見張は我々が致しますので、食べたら先にお休み下さい」

細い目で肉を切り分ける、ハク。

焚き火の灯りが照らす白髪の女性は、美しくも逞しく映る。

ドラゴンがかき集めた柔らかい葉の上に、固い麻布を敷き、寝床が作られると惣一郎達はその上に横になる。

離れて同じ物が3つ。

夜が更け、パチパチと焚き火の音だけが静かな森に響いていた。

最初の見張は、ゴゴとジジ。

惣一郎も寝ながら、サーチで辺りを警戒していた。

昼間見た上位種に、すでにここは蟲のテリトリーと知っての事でもあったが、静かな森に違和感もあり、両脇で抱き付き寝息を立てるふたりと違い、中々寝付けない惣一郎だった。




明け方、ウトウトしだす惣一郎に、見張のドラゴンが「旦那様、森の様子が」っと、声をかけて来る。

すぐに起きる惣一郎が目にしたのは、霧がかかり視界の悪くなった森であった。

「霧がどうかしたか?」

「いえ、霧の中に何か……」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

チートなかったからパーティー追い出されたけど、お金無限増殖バグで自由気ままに暮らします

寿司
ファンタジー
28才、彼女・友達なし、貧乏暮らしの桐山頼人(きりやま よりと)は剣と魔法のファンタジー世界に"ヨリ"という名前で魔王を倒す勇者として召喚される。 しかしそこでもギフトと呼ばれる所謂チート能力がなかったことから同じく召喚された仲間たちからは疎まれ、ついには置き去りにされてしまう。 「ま、良いけどね!」 ヨリはチート能力は持っていないが、お金無限増殖というバグ能力は持っていた。 大金を手にした彼は奴隷の美少女を買ったり、伝説の武具をコレクションしたり、金の力で無双したりと自由気ままに暮らすのだった。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...