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第三章

六話【勇者降臨】

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スプレー缶を片手に、どんどん進んで行く惣一郎とスワロ。

1m程の大きなスズメバチは攻撃的にふたりに近づくも、次々と倒されていく。

惣一郎のアイテムボックスにもすでに、結構な数が入っていた。

「主人よ! 巣は残しておこう」

「えっ、倒さないの?」

「ああ、こちらに向かって来る大型の厄災の足止めにも、多少必要だからな!」

惣一郎はサーチで残りを確認する。

「半数以上は倒したみたいだが……」

「十分だろう!」

ホントかよ……

惣一郎はポケットから種を取り出し話しかける。

「ドリー、大型の蟲はあとどのぐらいで着きそうだ?」

「ふむ、あと一刻もすればここに現れるじゃろ」

っと、ポケットの種が答える。

「じゃ戻るか」

「主人よ、帰りは歩いて帰ろう! 残りを引き連れて行くのだ」

「街に誘導するのか?」

「ああ、大型の厄災が街を襲わないと意味が無いからな!」

なんか悪役っぽいんですが……

腑に落ちない惣一郎はスワロに言われるがまま、指示に従い、街へ戻り始める……




蜂を引き連れ転移を繰り返し、しばらく進むと、後を追いかけて来ていた蜂が進行を止める。

この辺りが蜂の行動範囲の限界なのだろう。

少し戻りスプレーを吹きつけ倒して行く。

帰りは蜂の死骸も回収していなかったので、点々と奥に続いている。

すると遠くから、大きな音が聞こえて来る。

「どうやら来た様だな!」

「残りの蜂に倒されたら元も子もなくないか?」

「蜂を狙って襲って来る厄災だ、簡単にはやられないだろう! さぁ主人よ、街に戻って準備だ!」

コイツ、ノリノリだな……




街では、大きな音を聞いて騒ぎ始めていた。

「今の音はなんだ!」

「大型の蟲が森で暴れている様だ!」

「確認を急げ!」

しばらくすると街に、危険を報せる鐘が鳴り響き始める。

「蟲だ! 大型の蟲がここに向かって来るぞ!」

街はあっという間に大騒ぎになり、荷物を抱え逃げ出す人が転移屋へと押し寄せていた。

「なにをしてる、進まないぞ!」

「ドアが開かないらしいんだ!」

パニックに怒号が飛び交い、大騒ぎになる転移屋へ、次々と人が集まりだす。

数人がドアを破壊しようと斧を叩き付けるが、ドアはびくともしない。

怒号に混じり悲痛な叫びや泣き声を、警鐘がかき消す。

「ダメだ! 森に逃げるしか無い!」

「もう終わりだ!」

「転移屋! 何の為に今まで街に金を払って来たと思ってるんだ!」

「傭兵団が先導するそうだ、森へ逃げるぞ!」

「ああ、ルルリカの勇者の話が本当なら……」

「ルルリカ街も今は瓦礫の山だ!」

「いえ、今度はきっと間に合うはず! 我々を救いに勇者様が!」

「そんな噂、当てになるか!」

親とはぐれ泣き叫ぶ子供。

慌てて崩れた荷を他人のせいにして喧嘩を始める人。

諦め、手を合わせて祈る人。

傭兵団の後を、森に逃げようと付いていく人。

すると、パニックになった街に鳴り響く鐘の音が、大きな音でかき消される。

ドガガガ……

街の人達の誰もが、その大きな音がした方を見て、言葉を失う。

大きな丸太で出来た壁が崩れ、森の奥に木を薙ぎ倒し向かって来る巨大な蟲が見えたのだ。

何故頑丈な外壁が崩れたのかなんて考える者はいなかった。

誰もが遠くの巨大な蟲の姿に、絶望しか頭に無かった……



鐘を鳴らしていた者の手も止まり、絶望の静けさが街を包む……

「終わりだ……」

街の皆んなの心の声を、誰かが代表して発した言葉が聞こえた時、崩れた壁に現れた白いローブの男。

街を背に、蟲に立ち向かおうとしてる様に見える男の顔は、赤かった。

長い銀の棒を持つ片腕の男が、右手の棒を振ると魔法陣が現れ、片膝を突いた白いローブの女が現れる。

女はフードをめくり片膝を突いたまま、男に頭を下げる。

「ダークエルフ…… 魔女だ!」

「じゃ、あれが勇者様なのか!」

街の人に紛れたミネアが声を上げる。

「あれは、ルルリカの蟲を倒した勇者[ノイトアラン]様よ!」

惣一郎の顔は一段と赤くなり、スワロを睨み付ける。

覚えてろよ……





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