7 / 8
007【アロス国】
しおりを挟む
「戻りましたアロス王よ」
「よくぞ戻った! すでに連絡は受けておる…… ん? 惣一郎殿は?」
「それが……」
マルジは、惣一郎が戻らず旅に出た事を、王に伝える。
見返りも求めず、行ってしまった惣一郎達。
感謝の言葉も言えないまま、惣一郎達を行かせたマルジを責めるも「後は残された国の問題」との惣一郎の言葉をマルジが伝えると、アロス王も渋々、矛を納める……
そこに慌てて現れたモモ。
「エリシア姫……」
「そうですか…… やっぱり戻らなかったのですね……」
わかっていた、わかっていたが、もしかしたらと走って来たモモは、落ち込む素ぶりも見せずに、
「よく戻られました……大臣。捕らえた…者に合わせて……下さい」
鼻を赤くしながらも、凛とした態度で兄、エリオットとの面会を望むモモ……
軍務大臣マルジは、姫のその姿に、惣一郎の言った通りと嬉しそうに頭を下げ、王と姫を、元王子を捕らえた牢へ案内する。
城の中は、戻った兵達の喜ぶ声で賑わいを見せていた。
誰もが過ぎ去った危機に、大量の厄災の素材に、喜びの声を上げる。
その中を地下牢へと向かう、マルジ達……
牢の前の兵に、上で待機する様に指示をするマルジ。
暗い牢の中には、膝を抱えうずくまる顔を腫らした男。
『『 誰? 』』
一瞬、親族を見分けられない王と姫に、マルジがライトを唱える。
明るく照らされた鉄格子の中のエリオット。
「ちっ、父上……」
王は、静かに目を閉じ、次に開いた目は父親が子に向けるものでは無かった。
「エリオットよ、お前をそう育てたワシにも責任がある! だが、お前がした事は決して許される事では無い! マルジよ、この者を罪人として、処刑を命ずる……」
言葉無く頭を下げるマルジ。
背を向け戻っていくアロス王。
「兄さん……」
「エリシア、頼む教えてくれ! 誰だ、俺の計画を潰した、あの男は誰なんだ!」
鉄格子に掴み掛かり、モモに詰め寄るエリオット…… その目には反省よりも、復讐が色濃く映し出されていた。
「兄さん……貴方にはもう、何も残ってはいない……コレからは私がこの国を守っていきます」
幼少よりいじめられ、決して逆えなかった兄エリオットに、毅然とした態度で目を逸らさず、見返すモモ。
「お前を…… 俺を追い出す程、強くしたのもアイツか……」
「可哀想な人……」
「なっ、お前如きが、俺様を見下すな!」
怒りを露わに、格子越しに掴み掛かろうと手を伸ばすエリオット。
慌てて間に入るマルジ!
「エリシア様は変わられた、この国の為に強く! だが、貴方は…… 何も変わられないのだな」
「きっ貴様まで、王族でも無いお前が…… おのれ……」
牢を後にするふたり。
エリオットの汚い言葉は、しばらく地下に響いていた……
「復讐……してやる…………」
翌朝、城は蜂の巣を突いた様な騒ぎになる。
「なっ……何事ですか…マルジ大臣!」
「エリシア様! エリオット派の残党が、城内で! 城内まで攻めて来ております! 避難を」
「まだいたのですか! 槍を……私の槍を! 迎え撃ちます! 大臣は、父……王の元へ」
その後すぐ、城の兵を含む30人近くの残党は、モモを筆頭に呆気なく討たれる。
中には、名の知れた城の戦闘教官もいたが、モモの槍に例外無く、あっさりとやられる……
王の元に集まる大臣達の中、宰相が、
「見え透いておる…… あの様な少数で攻め込むとは…… 狙いは他かも知れん」
「ですが、中には強者もおりました。まぁ、エリシア様の敵では無かった様ですが……」
「では、少数精鋭による奇襲?」
「後がない者による、最後の悪あがきでしょう」
そこに、慌ただしく駆け込む城の兵。
「申し上げます! 地下牢から何者かの手引きで、エリオット王子が逃走しました!」
「「「 なに!! 」」」
「狙いは、エリオットだったか……」
「じゃが、何故…… ワーテイズの後ろ盾も無くしたエリオットを、今更逃して何を企む……」
エリオット派による奇襲は、モモの活躍により直ぐに収まるも、逃走したエリオットの捜索と、エリオット派閥の洗い出しが、マルジ大臣を中心に大々的に行われた。
その中に、長きに渡り城を支えて来た大貴族、クライス家の名も上がり、城に大きな衝撃が走る。
「まっ、まさかセブ殿が…… クライス家が王を裏切るとは……」
アロス国、王都の広い城下町の一角、まさにお膝元で、裏切りは行われていたのだ……
すぐに城から兵が集められ、すぐそこの城下町で屋敷を囲む騎士達。
屋敷の中では……
「まさかこんなにも早く、我々に気付くとは…… やるではないかマルジ殿も……」
「セブ殿、城から逃がしてくれた事、感謝する」
「王子よ、屋敷の地下から街の外へ繋がる、道がございます。どうかそこからお逃げ下さい」
「セブ殿も!」
「いえ、私はその道を塞がねばなりません」
「!!!」
クライス家当主、セブ・メリル・クライスは、エリオット王子に、クライス家に伝わるダンジョン産の弓矢を渡し、地下へと案内する。
「セブ殿、どうしてそこまで……」
「王子よ、姉である今は亡き王妃の子を、この国の王に望むのは、至極当たり前ではございませんか…… 現の王妃の子、エリシアを継がせるなど、あの世で愛した姉に合わす顔もございません…… どうか生き延びて、このアロスを!」
「セブ殿…… だが御息女は! 御息女まで巻き込む訳には……」
「リンゼはすでに、執事のノートに任せ、街の外に出ております。あの子もきっと、いつか分かってくれるでしょう……」
「……必ず、必ずこの私エリオットが、この国を本当のアロスに、戻して見せましょう!」
「ええ、さっお早く!」
屋敷を囲む騎士達の前で、突然屋敷の中から火柱をあげ、崩壊するクライス家。
逃げ場を失ったセブの自害と、その場は戦いも無く、エリオット派の影の黒幕、クライス家は、歴史から姿を消した……
それにより、残されたエリオット派の者が、次々と城へ自首に訪れる。
元王子、エリオット以外は……
「大臣……まだ兄の…エリオットの消息は、掴めないのですか!」
「はい……予想される場所は、四方探しておるのですが、元王子の消息だけが、何故か掴めないのです……」
一体何処へ……
その頃、ワーテイズ国へ入ったひとりの男が、歩きながら……
「殺してやる殺してやる殺してやる! 全部アイツのせいだ! 見つけ出して殺してやる! それからだ、国もエリシアも全て…… それからだ……」
「よくぞ戻った! すでに連絡は受けておる…… ん? 惣一郎殿は?」
「それが……」
マルジは、惣一郎が戻らず旅に出た事を、王に伝える。
見返りも求めず、行ってしまった惣一郎達。
感謝の言葉も言えないまま、惣一郎達を行かせたマルジを責めるも「後は残された国の問題」との惣一郎の言葉をマルジが伝えると、アロス王も渋々、矛を納める……
そこに慌てて現れたモモ。
「エリシア姫……」
「そうですか…… やっぱり戻らなかったのですね……」
わかっていた、わかっていたが、もしかしたらと走って来たモモは、落ち込む素ぶりも見せずに、
「よく戻られました……大臣。捕らえた…者に合わせて……下さい」
鼻を赤くしながらも、凛とした態度で兄、エリオットとの面会を望むモモ……
軍務大臣マルジは、姫のその姿に、惣一郎の言った通りと嬉しそうに頭を下げ、王と姫を、元王子を捕らえた牢へ案内する。
城の中は、戻った兵達の喜ぶ声で賑わいを見せていた。
誰もが過ぎ去った危機に、大量の厄災の素材に、喜びの声を上げる。
その中を地下牢へと向かう、マルジ達……
牢の前の兵に、上で待機する様に指示をするマルジ。
暗い牢の中には、膝を抱えうずくまる顔を腫らした男。
『『 誰? 』』
一瞬、親族を見分けられない王と姫に、マルジがライトを唱える。
明るく照らされた鉄格子の中のエリオット。
「ちっ、父上……」
王は、静かに目を閉じ、次に開いた目は父親が子に向けるものでは無かった。
「エリオットよ、お前をそう育てたワシにも責任がある! だが、お前がした事は決して許される事では無い! マルジよ、この者を罪人として、処刑を命ずる……」
言葉無く頭を下げるマルジ。
背を向け戻っていくアロス王。
「兄さん……」
「エリシア、頼む教えてくれ! 誰だ、俺の計画を潰した、あの男は誰なんだ!」
鉄格子に掴み掛かり、モモに詰め寄るエリオット…… その目には反省よりも、復讐が色濃く映し出されていた。
「兄さん……貴方にはもう、何も残ってはいない……コレからは私がこの国を守っていきます」
幼少よりいじめられ、決して逆えなかった兄エリオットに、毅然とした態度で目を逸らさず、見返すモモ。
「お前を…… 俺を追い出す程、強くしたのもアイツか……」
「可哀想な人……」
「なっ、お前如きが、俺様を見下すな!」
怒りを露わに、格子越しに掴み掛かろうと手を伸ばすエリオット。
慌てて間に入るマルジ!
「エリシア様は変わられた、この国の為に強く! だが、貴方は…… 何も変わられないのだな」
「きっ貴様まで、王族でも無いお前が…… おのれ……」
牢を後にするふたり。
エリオットの汚い言葉は、しばらく地下に響いていた……
「復讐……してやる…………」
翌朝、城は蜂の巣を突いた様な騒ぎになる。
「なっ……何事ですか…マルジ大臣!」
「エリシア様! エリオット派の残党が、城内で! 城内まで攻めて来ております! 避難を」
「まだいたのですか! 槍を……私の槍を! 迎え撃ちます! 大臣は、父……王の元へ」
その後すぐ、城の兵を含む30人近くの残党は、モモを筆頭に呆気なく討たれる。
中には、名の知れた城の戦闘教官もいたが、モモの槍に例外無く、あっさりとやられる……
王の元に集まる大臣達の中、宰相が、
「見え透いておる…… あの様な少数で攻め込むとは…… 狙いは他かも知れん」
「ですが、中には強者もおりました。まぁ、エリシア様の敵では無かった様ですが……」
「では、少数精鋭による奇襲?」
「後がない者による、最後の悪あがきでしょう」
そこに、慌ただしく駆け込む城の兵。
「申し上げます! 地下牢から何者かの手引きで、エリオット王子が逃走しました!」
「「「 なに!! 」」」
「狙いは、エリオットだったか……」
「じゃが、何故…… ワーテイズの後ろ盾も無くしたエリオットを、今更逃して何を企む……」
エリオット派による奇襲は、モモの活躍により直ぐに収まるも、逃走したエリオットの捜索と、エリオット派閥の洗い出しが、マルジ大臣を中心に大々的に行われた。
その中に、長きに渡り城を支えて来た大貴族、クライス家の名も上がり、城に大きな衝撃が走る。
「まっ、まさかセブ殿が…… クライス家が王を裏切るとは……」
アロス国、王都の広い城下町の一角、まさにお膝元で、裏切りは行われていたのだ……
すぐに城から兵が集められ、すぐそこの城下町で屋敷を囲む騎士達。
屋敷の中では……
「まさかこんなにも早く、我々に気付くとは…… やるではないかマルジ殿も……」
「セブ殿、城から逃がしてくれた事、感謝する」
「王子よ、屋敷の地下から街の外へ繋がる、道がございます。どうかそこからお逃げ下さい」
「セブ殿も!」
「いえ、私はその道を塞がねばなりません」
「!!!」
クライス家当主、セブ・メリル・クライスは、エリオット王子に、クライス家に伝わるダンジョン産の弓矢を渡し、地下へと案内する。
「セブ殿、どうしてそこまで……」
「王子よ、姉である今は亡き王妃の子を、この国の王に望むのは、至極当たり前ではございませんか…… 現の王妃の子、エリシアを継がせるなど、あの世で愛した姉に合わす顔もございません…… どうか生き延びて、このアロスを!」
「セブ殿…… だが御息女は! 御息女まで巻き込む訳には……」
「リンゼはすでに、執事のノートに任せ、街の外に出ております。あの子もきっと、いつか分かってくれるでしょう……」
「……必ず、必ずこの私エリオットが、この国を本当のアロスに、戻して見せましょう!」
「ええ、さっお早く!」
屋敷を囲む騎士達の前で、突然屋敷の中から火柱をあげ、崩壊するクライス家。
逃げ場を失ったセブの自害と、その場は戦いも無く、エリオット派の影の黒幕、クライス家は、歴史から姿を消した……
それにより、残されたエリオット派の者が、次々と城へ自首に訪れる。
元王子、エリオット以外は……
「大臣……まだ兄の…エリオットの消息は、掴めないのですか!」
「はい……予想される場所は、四方探しておるのですが、元王子の消息だけが、何故か掴めないのです……」
一体何処へ……
その頃、ワーテイズ国へ入ったひとりの男が、歩きながら……
「殺してやる殺してやる殺してやる! 全部アイツのせいだ! 見つけ出して殺してやる! それからだ、国もエリシアも全て…… それからだ……」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる