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第三章

二十三話[領主の覚悟]

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「着いたぞ!」

士郎が案内されたのは、避難先の谷ではなく、町の奥に建つ大きな屋敷だった。

「まさかまだ避難してない?」

「ああ、一緒に避難しては町民を巻き込んでしまうと残っておられる」

他の騎士に馬の手綱を渡しながら、やれやれと言った感じのネイルビンだった。

士郎とハナもバイコーンから降りるが、長時間乗っていたからか歩き方がぎこちないふたり。

馬を預け、屋敷の中へと案内される。

広間には数十人の騎士達が詰めており、折角の豪華な雰囲気を台無しにしていた。

そこに2人の騎士に囲まれ現れる真っ赤な髪の中年男性。

服装からこの人がエルス伯爵なのだろう。

「やぁ、君がライカの話にあった冒険者だね。あんま強そうには見えないねぇ」

やや小太りの伯爵。

正直イメージとだいぶ違っていた。

だが見えないはずのイジュリアが隣で膝を突いていた。

「ああえっと、お目に掛かれて光栄です。私は冒険者の士郎。こちらがハナです」

「思ってたのと大分違いますわね……」

おいおいハナちゃん!

「はっははは。そうかい? ほらっ!」

手に持っていた何かをハナに投げ渡すエルス伯爵。

咄嗟に受け取るハナの手には、小さなトカゲが動いていた。

「あれ? 驚かないの?」

冷静なハナにわかりやすく不満そうな伯爵は、周りの騎士に怒られていた。

なんだこの人……




場所を変え、伯爵と向かい合い座る士郎とハナ。

ハナはトカゲが気に入ったご様子。

「では改めて、僕がエルス・ゼレリーノ伯爵です。話は概ねライカから聞いたよ。まさかウィズーリ伯爵が僕を裏切る為にイジュリア卿を殺したなんてねぇ、信じられないよ」

50は越えてそうな陽気なおじさん。

余りショックでは無さそうな雰囲気だった。

『勿体なきお言葉……』

そうか?

「それで、家族や町民を巻き込みたくないのはわかりますが、なぜ逃げないのですか?」

「ただ逃げても解決しないだろ? 僕を反逆罪で捕らえたいなら、そうすればいい。僕が捕まればこれ以上犠牲者は出ないで済む」

「そうはいきません!」

伯爵の後ろに立つ鎧姿の老兵。

苦労してそうなこの人が、ドリス軍の団長[デリカッセル]だそうだ。

イジュリアの爪の1人との事。

すると伯爵のエルスがテーブルに紙を置きながら話し始める。

「そうも言ってられないよ。ゼレリーノ家に産まれたってだけで、みんなに守られて来たけど、僕なんか王の器じゃないしね。これ以上誰にも死んでほしくないんだ。だから君がここに署名して王都に連行しておくれ」

「何を馬鹿な事を!」

『エルス様!』

「これは依頼書?」

「ああ、ギルドに僕が依頼するよ。反逆者エルス伯爵の身柄を王都に移送する依頼をね。そうすればギルドは国とは別の機関だし、ウィズーリ伯爵も冒険者を襲ってまで僕を捕えればギルドに対する越権行為になる。世界中の冒険者ギルドを敵に回す事はしないと思うよ」

なるほど…… ん? そうか?

ただ任務失敗で終わる気も……

「それではエルス様が王都で処刑されてしまいます! それに王族の血を絶やすのが目的なら奥方やお子様の[ミルズ]様も無事では済まない!」

「ウィズーリ伯爵の策略に王は関与してないでしょう。今の地位は現王によるものです。王がその気ならとっくに伯爵の地位など失ってますよ。それに王は我々ゼレリーノ家の人間が王になりたがらない事を知ってるから前王と成り代わったのです。」

「またそのような事を……」

「あれ? じゃウィズーリ伯爵の個人的な恨み?」

つい伯爵にタメ口を聞き、ヤバいって顔をする士郎。

「お気になさらず、本来冒険者は国や政治とは無縁なのですから」

ありがたい…… 見た目が若いって事つい忘れてしまう。

「今回の件も王は、ウィズーリ伯爵に私が反逆者と言う証拠を出されて已むを得ずと言った所でしょう」

「しかしなぜ前足が、頭であるエルス様に……」

「それは本人に聞かないと僕にも分かりませんねぇ。なぜ仲間を殺したのか」

士郎は一瞬、ニコニコ話す陽気なおじさんの目に、強い怒りを見た気がした。

「兎に角、彼の覚悟は見て取れます。このまま僕がここいれば、みんなにも危険が伴います。ですから王都に逃げるのです。僕が投降すれば正式に裁かねばなりません。無実を証明する機会も得る事が出来るかも知れません」

惚けた顔して考えてるんだな……

しかしこの人……

「では、こちらに署名を」

「あっ、その前にお聞きしたい事が」

「「 ??? 」」





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