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第三章

二十一話[後手に回る]

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ノイマを追いかけて来た職員を手を挙げて追い出すライカ。

「何事だ!」

居合わせた士郎に驚くノイマが、思い出した様になりふり構わずライカに膝を突く。

「今、町中の騎士が任務の為、城に集められています!」

そういえばベルケンさんも、また任務がって言ってたな……

「それで!」

「はい、今回のギリタ軍の反乱を企てた首謀者が明らかになったと。その討伐任務が今朝言い渡されました! 対象の首謀者はエルス伯爵様との事!」

「「『 バカな!!! 』」」

「指揮をするのはウィズーリ伯爵様です!」

士郎もライカもイジュリアも、話半分のハナまでもが驚き言葉を失う!

「出発は明日の朝! 西のゼレリーノ領へ向け王の命で王都から、我々を含む2千の兵が進軍するとの事!」

「バカな……」

『後手に回ったか……』

「南西からはウィズーリ伯爵の5百の兵がすでに、ゼレリーノ領へ向け進軍中です!」

「戦争ですか……」

『戦争にしては兵が少ない。小さな領と馬鹿にした数だ』

士郎の呟きにノイマが振り返る。

「構わん続けろ! シロウも全て知っている。」

ライカの声に前を向き直すノイマが話を続ける。

「[ドルザ]が何者かにより殺されました。[ザン]とも連絡がつきません!」

眉間に皺を寄せ怒りに震え出すライカ。

『後ろ足の爪の事です……』

イジュリアの声も震えていた。

「今だ団長イジュリア卿の所在が掴めません! ライカ殿、我々は……」

ノイマの問いに沈黙するライカ。

「待って、ゴジャッペは? ゴジャッペさんも狙われるんじゃ?」

士郎の言葉に驚くノイマ。

考え込むライカ。

急展開過ぎるだろ……

するとイジュリアが士郎に耳打ちしだす。

士郎はイジュリアの言葉をそのまま伝える。

「ノイマ。お前も狙われる可能性があるが王都からの軍を指揮するのはおそらく[ギリテヒ公]だろう。十分注意しながら兵に紛れ進行を遅らせるのだ。多くの兵といればそうそう襲われる事も無いだろう。ライカ! お前は爺の元へ、武器が出来次第届けてくれ。私はシロウと先にエルス様の元へ向かう!」

口を開けたまま驚くノイマ。

片膝を突き士郎に「かしこまりました!」っと頭を下げるギルド長に更に驚くノイマだった。




ハナを背中に担ぎ、ギルドを走り去る士郎はイジュリアに言われるがまま、何処かに向かっていた。

「ハァハァ、どこに向かってる!」

『屋敷だ! 私の馬がいる』

イジュリアは王都にも家があり、前回の遠征の時には連れて行かなかった馬が、その屋敷にいると言う。

馬でゼレリーノ領に向かう気らしい。

「そ、それにしても急展開過ぎないか?」

『おのれ騙されていたのだ! ライカの話に耳を傾けるべきであった! ずっと奴は今回の計画を練っていたのだろう!』

「ハァハァ、ウィズーリが王家を裏切る計画か? いや逆か?」

前足である片腕を折り、邪魔になりそうな後ろ足の爪を砕いたウィズーリ伯爵。

以前から綿密な計画を練っていたに違いない。

その理由はやはり、今の王へと鞍替えしたのだろうか?

捕まえて問いただす時間も奪われた。

全て奴の計画というなら、気づいた時には終わっているという見事な計画であった。

本当の王家の血を引く伯爵家を守る前足が、邪魔な片腕に反乱の罪を着せ殺害、その首謀者として、守るべきその伯爵家を潰し王家の血を絶やす。

今の王についてなければウィズーリ伯にメリットは無いだろう……

イジュリアは何も知らずに真っ先に殺されたのだ。

表情は無いが、一体今どんな顔をしてるのだろうか……

想像以上の大事に巻き込まれた士郎が、肩を揺らし息を整える為、ハナを下ろし壁に手をつく。

「ちょ、もう無理!」

『安心しろ、屋敷はここだ』

壁の先の門には見張りの兵が2人立っていた。

反乱を企てた団長の家だ、中も荒らされているだろう。

イジュリアの案内で裏庭回る士郎。

低い壁と垣根の間をすり抜け馬小屋着く。

ここは手薄になっていた。

中には黒い大きな馬が、飼い主の気配でも感じたのか息荒く興奮していた。

角?

「ユニコーンか!」

『いやバイコーンだ』

よく見ると2本の反り帰る角。

腹を空かせているとイジュリアに言われ、収納スキルから野菜を取り出すが肉食の様で、食材に買った生肉を出す。

馬にはイジュリアが見えているのか、素直に肉を食べ始めた。

「よかった。騒がれたら誰か来るところだったよ」

『人の言葉が分かる良い子だ。だが気性が荒くてな。遠征など他に多くの馬がいると暴れるのでな。留守番させていたのだ』

馬に寄り添うイジュリア。

やはり馬にも見えてる様だ……




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