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第三章

十三話[刀が繋ぐ縁]

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ゴジャッペの店に戻る士郎が、店の奥で剣を研ぐゴジャッペに見惚れていた。

「なっ! なんじゃおったのか!」

「いやぁ、やっぱ職人ですね」

「脅かすな! 客の預かりもんじゃ。仕事もせな食っていけんからな」

研ぎぐらいは店でするそうだ。

「すみません。今晩も部屋お借りしますね」

「ああ、勝手に使え。じゃが後でまた刀を見せてくれんか。明日は工場の方で作業するからな」

そう言うとまた作業に戻るゴジャッペ。

邪魔しては悪いかと、先にハナを寝かせに二階に向かう。

『シロウさん、シロウさん! 僕あの人知ってますよ! 見た事あります』

さすが長生きドワーフ!

刀を見せる時にでも詳しく聞いてみようと、士郎も少し部屋で休む事にする。


ベッドの横の椅子に座り、アイテム収納の中を確認していた士郎。

感覚で何があるか分かる便利なスキルだ。

取り敢えず食料はしばらく大丈夫そうだな……

『シロウさん』

わっ!

いだ!

………

いきなり後ろから声をかけたクルドに驚き、後頭部でクルドの顔を打った士郎。

「今、当たったよな……」

『ええ、ちょっと痛かったです。死んでるのに』

クルドに触ろうと手を出す士郎。

だが映し出された映像の様に触れない。

間違いなく当たった…よな……

何度もクルドの体を殴る様に空振る士郎。

『すみません、なんか怒らせましたか?』

いや… そう言えば前にデリラの頭も触ったかも知れない……

ふと思い出す辛い過去。

掴んだ首を投げ返したかも……

だがその後、何度試してもクルドに触れる事は出来なかった。

「ハァハァ…… なぜだ! 殴りたい!」

『嫌ですよ、怖い事言わないで下さい』

騒ぎに起きるハナ。

「狭い部屋で訓練ですか?」

「ハナ! いま俺、クルドに一瞬触ったんだ」

「死者にですか?」

「そう! 頭が、ゴツんって!」

「長く生きてますが、私は一度も触れた事などないですよ…… ファぁぁ」

あくびをしながら気の所為とベッドを降りるハナ。

二階の騒ぎにやって来たゴジャッペが、ドアをノックする。

「何を騒いじょる! 暇なら刀を見してくれんか」

ハナがドアを開ける。

不完全燃焼の士郎だったが、仕方ないと収納スキルから刀を出し、ゴジャッペに渡す。

「触ってええんか?」

「ええ、この部屋だけなら」

目を輝かせ床に座り込み、鞘から抜くドワーフが、また美しい刀に魅入る。

こうなると長い事を理解した士郎も椅子に座る。

『凄い剣ですね…… 肌がピリピリします』

今度切ってみるか……



マジマジと刀を見つめるゴジャッペがぶつぶつと言い始める。

「シロウ。コレの素材はなんじゃ?」

「えっ確か…… 鋼だったと思いますが、俺も詳しくは…… 預かり物ですし」

「ただの鋼のわけあるまいて……」

「俺もお聞きしていいですか?」

「なんじゃ?」

「クルドって料理人をご存知ないですか?」

「クルド…… なんじゃあのガキが今さら、どうかしたのか?」

「知ってるんですね!」

刀を鞘に仕舞い士郎に返すゴジャッペ。

「2つ先の角にある飯屋で働いちょったガキじゃ。もう30年は経つかのぉ。胸の病気で仕事中に倒れ、そのままおっ死んだって聞いたが」

そんな昔でもなかった……

「ええ、まぁちょっと調べてて」

「ふん。ギルド絡みか」

「まぁそんな所です。店はまだやってるんですか?」

「ああ、代替わりしてるがな。それよりシロウ。ワシゃあのギルドちゅうもんが好きになれん。冒険者はうちにとっても大事な客だがのぉ。」

「なぜですか?」

「下に飾ってある刀があるじゃろ…………

あの刀はゴジャッペの最高傑作だが、その刀の試作品もまたいい出来の刀であった。

その刀を唯一ゴジャッペが認めた者に譲ったそうだが、その者こそ元ギリタ軍を指揮した団長のイジュリアだった。

貴族でもあるイジュリアは、幼い頃から剣の腕を磨き、その過程で鍛治師であるゴジャッペの所によく顔を出しており、幼い頃から成長を見て来たと言う。

刀と出会ってからはメキメキと腕を上げ、国でも有名な騎士になっていった。

そんなイジュリアをよく知るゴジャッペは、絶対に奴が国を裏切る様な事はしないと知っているのだが、周りはイジュリアを反逆者扱いし、ギルドからもしつこく情報を求められたそうだ。

そんな経験からギルドを嫌う様になったとの事。

…………だから好かんのじゃ!」

思いがけない所で繋がった縁に、言葉を失う士郎だった。





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