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第二章

十八話[霊の礼に花]

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士郎は明日の出発を前に、どうしても行きたい場所があった。

それがココ! 魔導書店である。

ハナはここが何屋か分からず、店内を見回していた。

なんの道具か分からない物が並び、奥のカウンターの後ろには本棚が縦に並んでいる、広くは無い店内。

「いらっしゃい…… おや?」

「こんにちは、先日はお世話になりました。おかげで無事問題が解決しまして」

「おお、それは良かった…… シロウだったかな?」

「はい。今日は魔導書に興味がありまして」

「それはそれは、活躍はオーレンから聞いてますよ。それで、今日はどんな魔法をお求めで?」

「すいません魔導書自体初めてでして、勝手が……」

「おや、すでに魔法をお持ちと聞いてましたが…… ええ! まっ! えっ! その方は!」

ありゃ……

「ハイエルフの方がなぜ!」

「貴方、血が混じっているのですね」

「はい! 父が[ディメリの森の民]でして…… シロウ!」

「えっと、事情がありまして、ご存じとは…… どうか内密に」

「いえ、エルフの血を引く者ならその血が教えてくれるので…… ましてこの辺りではエルフ自体が珍しいですし……」

知っているなら仕方がないと、士郎は事情を話す……



「そうでしたか…… まさかこんな近くで…… 知っていれば私もお役に立てたのですが……」

「お気になさらずに、ディメリの民の子よ」

士郎は旅を続ける難しさを痛感していた。

ダージュリは彼女の身分は隠せと言っていたが…… 無理じゃね?

「安心しろシロウよ。我々にとって彼女は守るべき存在。決して口外する様な事はせぬ。だが、用心は必要だ」

出された椅子に座るハナに、片膝を突くカージュル…… 無理じゃね?

「道中そんな畏まられればバレますよね?」

「すまん、俺のようなハーフエルフにとって彼女は…… いやそうだな」

改めたのか立ち上がるカージュル。

「シロウ! 彼女を守りながら旅を続けるには危険が伴う! 本来なら深い森で静かに隠れ暮らすのが……」

「いえ、私はもう隠れません。シロウと共に世界を見て見たいのです」

まぁもう十分隠れて暮らして来たしな……

悩むカージュルが覚悟を決めた顔で話し始める。

「分かったシロウよ! 彼女を守る為に強くなるのだ。今以上に!」

するとカウンターの奥から大量の本を持ち出し、あらゆる魔法を覚えろと士郎に鬼気迫る勢いで提案する。

「あの、こんなに勉強を今からしろと?」

「そうか魔導書は初めてだったな。魔法の記憶が本には綴られているのだ。頭に乗せ記憶を移すのが魔導書なのだが、そうそう覚えられるものでもない。高価な上、博打の様なものでな、一つの魔法を覚えるのに人生を賭ける者もいる」

そんな感じなのか!

「だが彼女の為になるなら、店の本全て無料で提供しよう!」

魔法によって金額も異なるが、一冊の金額を聞いて汗が吹き出す士郎。

「ちょ、良いのですか? 店潰れますよ!」

「構わん! 彼女の為だ! 行くぞシロウ、まずは火魔法からだ!」

だが……

失敗に次ぐ失敗に青ざめるカージュル。

椅子に座り頭に本を乗せ続けられる士郎。

飽きて店の道具を珍しそうに眺めるハナ。

店にある在庫全てが無駄に消えたのだった……


「嘘だ…… そんなまさか……」

地面に手足を突き項垂れるカージュル。

士郎は事の重大さがイマイチ分かっていなかった……

「あの…… やり方が違うとか?」

そんな訳がない……

「氷柱の魔法なんて57冊もあったのだぞ…… そんな訳がないのだ……」

何が正解かも分からない士郎。

ハナも状況が良く分かっていなかった。

「シロウ…… お前はなんなのだ…… なぜ魔法を覚えられぬのだ!」

魔力がない訳じゃない。

むしろ多い。

なぜ?

顔面蒼白のカージュルには申し訳ないが、士郎は席を立ち、「なんかすいません……」っと、ハナを連れて店を出る。

カージュルは動かなかった……




「シロウは新たに魔法を覚える事が出来ないと言う事ですか?」

「みたいだな……」

士郎もまた、落ち込んでいた。

この世界で生きる楽しみの半分を無くした思いだった……

「あの魔法はどうやって覚えたのですか?」

「あれは…… そうか。俺は直接記憶を貰わないと魔法を覚えられないのかもしれん」

「直接とは?」

「霊の頼みを聞いた礼に…… あっ。ダージュリさんからは何も貰ってないぞ!」

隣のハナが首を傾げる。

士郎はハナがいたっと気付く……





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