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第一章

十六話[冒険者登録]

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陽が高い事もあってか、結局何もないまま林を抜ける士郎達。

大きな岩が所々に見える平原の先に、漸く目的地のザマリの街が見えて来た。

幅のある水堀に囲まれた大きな街に、興奮し御者席で立ち上がる士郎。

おおぉぉ!

石造りの家が並び城下町の様な街並み。

外壁も高くなく見通しがいい……

ん?

並ぶ屋根の奥に鐘楼だろうか、大きな何かが見える。

羽橋を渡り、門番だろう鎧の人達が馬車へ駆け寄る。

「エルドルか! よく来たな」

「ええまたお世話になりますね!」

士郎が街に入るにはお金がかかると聞いていたが、なぜかエルドルと共にスルーされ、そのまま馬車は街の中へと進む。

石畳の広い道を少し進むと馬車が止まる。

「では私は馬車を預けに行きますので、ここまでとなります」

「はい、色々とありがとうございました。杖まで安く売ってもらって」

「いえいえ、それが商売ですから。2、3日はこの街にいますので、もし何かあれば商人ギルドをお訪ね下さい」

「ありがとうございます」

「冒険者ギルドはこの先です。シロウ殿が倒した狼男はギルドで売れるので、登録ついでに持っていくと良いでしょう。いつかシロウ殿の名前が耳に届く日を楽しみにしておりますね」

そう言うと幌の中の木箱から大きな牙狼の死体を取り出して渡すと、手をあげ馬車で舗装されてない道へと入って行く。

すっかりお世話なってしまった……

さぁこっからはひとりだ!

スーツを売ったお金がまだあるうちに、冒険者として食っていける様にならなければと歩き出す士郎だった。



冒険者ギルドまで来ると、外から屋根越しに見えた物がなんだったのかが分かった。

巨大な石像であった。

二階建ての家の屋根から頭一つ出ている長い髪の女性だろう剣を持った石像が、街の中心に広がる広場に立っている。

あれが守神なのだろう。

ギルドはその広場の前にある大きな建物であった。

「立派だろぅ、剣神の像は」

見惚れていた士郎に隣の男が話しかけて来た。

いつの間にいたのだろう?

「ええ、大きいですね……」

大柄の体格の良い男が像を見上げていた。

足元まで長い毛皮を着ている。

「この街は初めてなんだろう? この像に興味を持つのはわし以外よそ者しか思いつかんからな!」

ガサツそうな男の読みは合っていた。

「ええ、冒険者登録に先程この街に着いたばかりです」

「なんだ、先に言えよ!」

先にっていつだよ……

そして士郎の読みも合っていた。

見た目から関係者かと思っていたが、案の定ギルドマスターだと言う男に腕を掴まれ、そのままギルドの建物へと連れ込まれる士郎。

広い受付に依頼書を貼り出す掲示板。

士郎の思い描いていた冒険者ギルドであったが…… 人が居ない。

掲示板もスカスカであり、受付に女性がひとり立っているだけであった。

「最近冒険者が少なくてな、数人が朝に依頼を受けに来るだけで、この時間は暇でな」

唯一の女性職員を手振りで追い払うと、この男が対応するつもりなのか、カウンターの対面に座る。

あの女性が良かった……

紙を出し、記入しろと羽が刺さったインク瓶を投げつける。

ガサツだ……

字も問題なく読めたので名前や性別、年齢を書き込み始めると、勝手に自己紹介を始めた。

「わしはギルド長のオルネル。元A級冒険者だ。7年前にココを任されたんだがな、なんせこの辺りは平和だろ? 冒険者も減る一方で、暇で暇で……」

「書けました」

「ああ、じゃこのカードに血をつけろ」

テーブルに魔法陣が描かれた布を広げ、ナイフを投げ渡す。

おかげでわざわざ傷をつけなくても血が流れた……

カードにベッタリ着いた血は陣と共に光って消えるが、飛んできたナイフを受け取った右手からは、ポタポタと血が垂れ続ける。

コイツ嫌いかも……

陣の描かれた布で汚れたナイフを拭くとそのまま包んで仕舞い、残されたカードを指で弾き返す。

「これで登録は出来たがどうする? ランクFからコツコツ行くか? それとも戦ってCを狙うか?」

「コツコツで良いので拭く物を下さい」

士郎は血が流れる右手を指差し、冷たい目を向ける。

「なんだ、やらんのか……」

分かりやすく落ち込むギルマスが、さっき士郎が記入した紙を渡そうとする。

諦めて自分の服で拭き、詳しい説明とかないのか聞いてみるが、興味が失せたのか受付の女性を呼び戻し、奥へ消えて行く。

「苦労するでしょ」

「ええ、本当に……」





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