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第一章

十五話[伝説]

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ザマリの街に近付いて来たのか、道も多少は良くなって来ていた。

林を抜け草原が広がる向こうに、また林が広がっている。

途中山小屋の様な建物から煙も見えた。

長閑な風景が広がる世界。

道中ずっと石を錬成する練習を続けている士郎。

エルドルは士郎の底知れぬ魔力に呆れていた。

「さぁ見えて来ましたよ」

視線を先に飛ばす士郎。

だが何が見えて来たのか分からなかった。

「林しかありませんが?」

「そのずっと向こうです!」

緩やかに降る草原の丘の下に広がる林。

その向こう?

「まだ距離はありますからね、ホッホホホ」

エルドルの視力はいくつなんだろうか……

馬車道はやがて乱立する林の中へと入って行く。

林に入って少し進むと小屋が立っており、近付く馬車に気付い人が数人出てくる。

ゆっくり馬車を止めるエルドル。

ドウ、ドウ!

「なんだエルドルの旦那か!」

小屋から現れた槍を持つ警備兵といった感じの男が3人、馬車の前に来て馬の首を撫で始める。

「ご苦労様です。また寄らせてもらいますよ」

「旦那じゃ護衛はいらんか。ザマリへかい?」

「ええ、ザマリへよって今回は[ガレルナ]の方まで足を伸ばそうかと」

「そうかい長旅だなご苦労なこって…… なんだい丁稚かい?」

若い士郎を見て思ったのだろう。

「いえ彼はトルトから。ザマリに行きたいとの事で同行してるだけですね」

「そりゃまた、平和な村で育つと危険な冒険者に憧れるもんなのかねぇ。旦那に仕事取られちゃ俺たちが食って行けないっての!」

どうやら良くある事らしい……

トルトに若者が少ない事が理解できた気がした。

ホッホホホっと笑いながら馬車を降り、ここでも行商としての仕事をするエルドル。

幌の中の木箱から、増えた警備兵たちの注文にお金を対価に答える。

士郎も手伝いを申しでるが、特にすることはない。

この林の先にザマリの街があるそうなのだが、ここから先は危険が多いとの事でこうやって入口付近で護衛の依頼を受けるのだろう。

彼らも冒険者という事か。

「何が出るんですかこの林には?」

聞いて後悔する士郎。

顔に傷が目立つ犯罪者顔の冒険者に聞いてしまった……

「嬢ちゃんみたいな子供じゃすぐ喰われちまうよ! 牙狼にな!」

ああ昨夜倒した狼男か……

「ホッホホホ。牙狼より厄介なのが出るんですよ。街が近いですからね」

含みのある笑顔のエルドル。

「はっははは、旦那からは盗りゃしないよ」

別の冒険者が発した言葉に士郎も気付く。

盗賊か…… コイツら……

一気に緊張する士郎。

「そう緊張するな坊主! 言ったろ旦那からは盗りゃしないって」

「さてそろそろ、皆さんもお元気で!」

「ああ、また通る時は頼むぜ旦那」

何もなかった様に進み始める馬車。

最初、頼もしく見えた護衛兵は金を払えばちゃんと護衛もするが、盗賊もするそうで、払えるものが無ければ命も奪うそうだ……

護衛は国から討伐されない為の隠れ蓑って事か…… 怖い。

治安の良い所から来た士郎には、ショックが大きかった。




林の中の馬車道をのんびり進む。

林に入ってしばらく経つが、警戒して杖を離さない士郎だが、言うほど魔物も出ない。

「魔物出ませんね」

「まぁ、そもそもこの辺りは少ないですからね。でも油断は禁物ですよ」

「なんで少ないんでしょうね?」

「そう言えば記憶がないんでしたね。ここ[ザザンド大陸]のはずれに位置する[ノマネ地方]には大昔、守神がいたんですよ」

「神様ですか?」

「いえいえ、この辺りに住んでたとてもお強い高齢の女性だったらしいのですが、お亡くなりになるまで毎日の様に魔物を狩ってたらしいのです」

「凄いお婆ちゃんですね……」

「ええ、いつしか魔物もこの辺りを住み辛く感じたのか、めっきり数を減らしていったらしく、その方を守神として祀る様になり今でもそれが伝わってるんです」

凄い話だな……

「ザマリに着けば嫌でもその話を聞く事になりますよ。剣神ツナマヨ様の話を」

「えっツナマヨ? シーチキンをマヨネーズで和えた?」

「えっ? なんの話ですそれ?」

あはは…… やってる事は凄いけど、残念な名前だな。





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