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第一章
十二話[魔法初心者]
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「あれ? 肩が、肩が滅茶苦茶軽い!」
でしょうね……
「いやシロウ殿! こんな体が軽いなんて何年振りか!」
上機嫌で馬車に乗り込む腹の出た初老の商人。
士郎は少し、ミルザが気の毒に思えていた……
御者を務めるエルドルの隣で、さっき覚えた魔法を試そうと魔力を練る士郎。
だが発動前に霧散する魔力に違和感を感じる。
「エルドルさん。魔法を使う時に魔力が定まらないのですが、何かコツでもあるんですか?」
「魔法ですか?」
ガタガタ揺れる馬車に揺られながら、先が見えない茂みを走り続ける。
「シロウ殿も魔法が使えたのですか?」
「ええ、昨夜の話で何故か思い出しいまして。以前は俺も石弾が使えたかもって。ただ、使い方が思い出せなくって……」
物は言いようである。
「シロウ殿に魔導師の資質がお有りだったとは。杖はお持ちですかな?」
「いえ、やはり必要ですか?」
手綱を片手に握り直したエルドルが腰の杖を引き抜き差し出す。
銀色の金属で出来た60cm程の杖。
先端には赤い石が埋め込められていた。
「相当な魔力をお持ちならなくても撃てるとは思いますが、大概杖は必要になりますねぇ」
差出された杖を手に取ると士郎にも理由がわかった。
「なるほど……」
「魔鋼と呼ばれる金属です。体から放出される魔力を無駄なく集めてくれます」
士郎にも杖が体から魔力を引きずり出す様な感覚が分かった。
「そして先端の魔石が指向性を持ち、狙った場所に発動出来るのです」
人生初めての魔法。
直ぐにでも撃てる士郎の衝動が抑えられなくなる。
「撃ってみていいですか?」
「ええ、気を付けて下さいね」
返事を聞いた士郎が、堰き止めていた魔力を解放する!
士郎の周りの空間が歪む程の魔力に、エルドルが慌てて馬を止める瞬間!
士郎の頭上に集まる石礫が野球ボール程の無数の塊になると正面の大木へと音も無く撃ち放たれる!
ババババシュ!
音を置き去りに30近い岩が線を引き、前方の大木を粉々に粉砕し薙ぎ倒す!
2匹の馬が立髪を逆立て暴れ出す。
エルドルも空いた口を閉じるのも忘れ、目を見開く。
「なっ!!!!」
士郎は初めての魔法にアドレナリンが噴き出す!
「おおおおおお! すげぇ!」
固まるエルドル。
逃げようと馬車を揺らす馬。
士郎の手に持つ杖は金属部に無数のヒビを入れ、先端の魔石は崩れ欠けていた。
「す、すいません! 使い方が分からず壊してしまいました」
冷や汗が固まったエルドルの額を流れ落ちる。
「い、いえ……」
馬車を降り、返却された壊れた杖を手に、理解が追いつかないエルドルがゆっくりと話し始める。
「何者なんですか………」
でしょうね……
「いやシロウ殿! こんな体が軽いなんて何年振りか!」
上機嫌で馬車に乗り込む腹の出た初老の商人。
士郎は少し、ミルザが気の毒に思えていた……
御者を務めるエルドルの隣で、さっき覚えた魔法を試そうと魔力を練る士郎。
だが発動前に霧散する魔力に違和感を感じる。
「エルドルさん。魔法を使う時に魔力が定まらないのですが、何かコツでもあるんですか?」
「魔法ですか?」
ガタガタ揺れる馬車に揺られながら、先が見えない茂みを走り続ける。
「シロウ殿も魔法が使えたのですか?」
「ええ、昨夜の話で何故か思い出しいまして。以前は俺も石弾が使えたかもって。ただ、使い方が思い出せなくって……」
物は言いようである。
「シロウ殿に魔導師の資質がお有りだったとは。杖はお持ちですかな?」
「いえ、やはり必要ですか?」
手綱を片手に握り直したエルドルが腰の杖を引き抜き差し出す。
銀色の金属で出来た60cm程の杖。
先端には赤い石が埋め込められていた。
「相当な魔力をお持ちならなくても撃てるとは思いますが、大概杖は必要になりますねぇ」
差出された杖を手に取ると士郎にも理由がわかった。
「なるほど……」
「魔鋼と呼ばれる金属です。体から放出される魔力を無駄なく集めてくれます」
士郎にも杖が体から魔力を引きずり出す様な感覚が分かった。
「そして先端の魔石が指向性を持ち、狙った場所に発動出来るのです」
人生初めての魔法。
直ぐにでも撃てる士郎の衝動が抑えられなくなる。
「撃ってみていいですか?」
「ええ、気を付けて下さいね」
返事を聞いた士郎が、堰き止めていた魔力を解放する!
士郎の周りの空間が歪む程の魔力に、エルドルが慌てて馬を止める瞬間!
士郎の頭上に集まる石礫が野球ボール程の無数の塊になると正面の大木へと音も無く撃ち放たれる!
ババババシュ!
音を置き去りに30近い岩が線を引き、前方の大木を粉々に粉砕し薙ぎ倒す!
2匹の馬が立髪を逆立て暴れ出す。
エルドルも空いた口を閉じるのも忘れ、目を見開く。
「なっ!!!!」
士郎は初めての魔法にアドレナリンが噴き出す!
「おおおおおお! すげぇ!」
固まるエルドル。
逃げようと馬車を揺らす馬。
士郎の手に持つ杖は金属部に無数のヒビを入れ、先端の魔石は崩れ欠けていた。
「す、すいません! 使い方が分からず壊してしまいました」
冷や汗が固まったエルドルの額を流れ落ちる。
「い、いえ……」
馬車を降り、返却された壊れた杖を手に、理解が追いつかないエルドルがゆっくりと話し始める。
「何者なんですか………」
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