上 下
12 / 80
第一章

十二話[魔法初心者]

しおりを挟む
「あれ? 肩が、肩が滅茶苦茶軽い!」

でしょうね……

「いやシロウ殿! こんな体が軽いなんて何年振りか!」

上機嫌で馬車に乗り込む腹の出た初老の商人。

士郎は少し、ミルザが気の毒に思えていた……




御者を務めるエルドルの隣で、さっき覚えた魔法を試そうと魔力を練る士郎。

だが発動前に霧散する魔力に違和感を感じる。

「エルドルさん。魔法を使う時に魔力が定まらないのですが、何かコツでもあるんですか?」

「魔法ですか?」

ガタガタ揺れる馬車に揺られながら、先が見えない茂みを走り続ける。

「シロウ殿も魔法が使えたのですか?」

「ええ、昨夜の話で何故か思い出しいまして。以前は俺も石弾が使えたかもって。ただ、使い方が思い出せなくって……」

物は言いようである。

「シロウ殿に魔導師の資質がお有りだったとは。杖はお持ちですかな?」

「いえ、やはり必要ですか?」

手綱を片手に握り直したエルドルが腰の杖を引き抜き差し出す。

銀色の金属で出来た60cm程の杖。

先端には赤い石が埋め込められていた。

「相当な魔力をお持ちならなくても撃てるとは思いますが、大概杖は必要になりますねぇ」

差出された杖を手に取ると士郎にも理由がわかった。

「なるほど……」

「魔鋼と呼ばれる金属です。体から放出される魔力を無駄なく集めてくれます」

士郎にも杖が体から魔力を引きずり出す様な感覚が分かった。

「そして先端の魔石が指向性を持ち、狙った場所に発動出来るのです」

人生初めての魔法。

直ぐにでも撃てる士郎の衝動が抑えられなくなる。

「撃ってみていいですか?」

「ええ、気を付けて下さいね」

返事を聞いた士郎が、堰き止めていた魔力を解放する!

士郎の周りの空間が歪む程の魔力に、エルドルが慌てて馬を止める瞬間!

士郎の頭上に集まる石礫が野球ボール程の無数の塊になると正面の大木へと音も無く撃ち放たれる!

ババババシュ!

音を置き去りに30近い岩が線を引き、前方の大木を粉々に粉砕し薙ぎ倒す!

2匹の馬が立髪を逆立て暴れ出す。

エルドルも空いた口を閉じるのも忘れ、目を見開く。

「なっ!!!!」

士郎は初めての魔法にアドレナリンが噴き出す!

「おおおおおお! すげぇ!」

固まるエルドル。

逃げようと馬車を揺らす馬。

士郎の手に持つ杖は金属部に無数のヒビを入れ、先端の魔石は崩れ欠けていた。

「す、すいません! 使い方が分からず壊してしまいました」

冷や汗が固まったエルドルの額を流れ落ちる。

「い、いえ……」





馬車を降り、返却された壊れた杖を手に、理解が追いつかないエルドルがゆっくりと話し始める。

「何者なんですか………」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

隠された第四皇女

山田ランチ
ファンタジー
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

懐かれ気質の精霊どうぶつアドバイザー

希結
ファンタジー
不思議な力を持つ精霊動物とともに生きるテスカ王国。その動物とパートナー契約を結ぶ事ができる精霊適性を持って生まれる事は、貴族にとっては一種のステータス、平民にとっては大きな出世となった。 訳ありの出生であり精霊適性のない主人公のメルは、ある特別な資質を持っていた事から、幼なじみのカインとともに春から王国精霊騎士団の所属となる。 非戦闘員として医務課に所属となったメルに聞こえてくるのは、周囲にふわふわと浮かぶ精霊動物たちの声。適性がないのに何故か声が聞こえ、会話が出来てしまう……それがメルの持つ特別な資質だったのだ。 しかも普通なら近寄りがたい存在なのに、女嫌いで有名な美男子副団長とも、ひょんな事から関わる事が増えてしまい……? 精霊動物たちからは相談事が次々と舞い込んでくるし……適性ゼロだけど、大人しくなんてしていられない! メルのもふもふ騎士団、城下町ライフ!

処理中です...