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一章

二話~戦闘~

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 都市アジェンダの街から出てから、およそ十分が経過し、クエストの目標地点であるイヌアの森へとついた。森の中に入ると、舗装路を歩いていた時よりも魔物との出現率はかなり高まる。

  イヌアの森は、主に薬草や緑キノコと言った薬の材料となる物が、たくさん採れる森で、生息している動物は鹿がほとんどだ。魔物だとコボルトや、ゴブリン、スライムなどのDランク以上の魔物が多く生息している。

  薬などに使えたり、食べたらおいしい物を採取しながら、深い所へと警戒しながら徐々に進んで行く。

  二十分ほど歩いただろうか?標的・・・コボルトではないが、ゴブリン五匹を発見した。三匹が錆びた鉄製だと思われる剣を持ち、残り二匹がボロボロになった弓を持っていた。クロキが一早く気づいたため剣に手をかけて、臨戦態勢となる。

  クエストを受けていれば追加報酬をもらえるだけであって、ちゃんと討伐部位を見せればギリス(通貨)がもらえるのだ。

  仲間の方を見ると、デニスとアリスは魔法の詠唱を完成させていて、マリーは今にも突っ込んで行きそうだ。僕は頷き、ハンドサインで戦闘開始の合図を出した。

 「やってやるぞおおぉぉぉ!」

  マリーが声を出しそちらに注意を向かせる。クロキはできるだけ速く見つからないように、ゴブリンたちの後方へと回りこむ。

 「ファイア!」
 「ライトボール!」

  マリーが長剣と大盾を構えて突撃している後方から、隠れていたデニスとアリスが魔法による攻撃を行う。これにより、デニスとアリスの存在がばれてしまったが、充分不意をつけているので防御態勢すら取れないだろう。

  先頭にいたゴブリン二匹へと魔法が吸い込まれていき、小規模な爆発と閃光が生まれる。ゴブリン二匹が耳障りな声を上げて、地面に膝を着くが倒すまでには至らない。

  後方にいた一匹の弓持ちゴブリンが、矢を弓へとかけて放とうとしていたところを、今まで気づかれていなかったクロキが首を斬ろうとしたが、野生の勘で避けたようで腕を切り裂いた。そして、目にも止まらない速度で、体が地面に張り付くぐらいまで上体を下げ、足払いをかけ追撃されないようにする。

  もう一匹のゴブリンもこちらに気付き、接近戦のため弓を捨て、矢で切り付けてくるが矢を切り裂くことにより防ぐ。流れで今度こそ狙った胴体へと攻撃を当てて、怯ませる。そして回し蹴りで横方向へとふっ飛し、木にたたきつける。

  ゴブリンは他のDランクの魔物と比べると生命力が高い方で、これぐらいでは致命傷までは至らない。

  先ほど転ばせたゴブリンが起き上がる寸前だったので、背中から剣を心臓部分へと突き立てた。鮮血があたりを濡らし、クロキの革鎧にも血が飛び散る。

  マリーたちの方をちらりと見ると、うまく攻撃を受け流したりしながら、隙があれば長剣による攻撃をしている。アリスは、マリーに防御強化の魔法や、速度アップの魔法をかけて補助をしていて、デニスはマリーによって離れさせられたゴブリンへと、魔法による攻撃を行っている。それにより、一体は倒れもう二体はほぼ瀕死である。

  こちらも早く終わらせないとね。クロキは木にたたきつけたゴブリンに目を向けると、逃げようと怪我した部位を抑えながら走っているのが見えた。

  ゴブリンは人間と同じぐらいの速さで走るため、常人よりも速いクロキにとってはそこまで離れていない距離だ。だが障害物をうまく使って逃げているため、少し厄介だ。

  全力で大地を蹴って走り、木を使って三次元軌道を取ることにより、ゴブリンにはすぐに追いついた。剣を振りかぶり、首に狙いをつけ一閃する。

  首を斬られたゴブリンは走っていたため、勢いよく地面に体が倒れた。

  ちゃんと、ゴブリンの討伐部位であるゴブリンの耳を採取用ナイフで切り取り、討伐部位用の袋の中に入れた。そして死体となったゴブリンに、初期魔法であるディグで穴を掘り、トーチで火をつけて火葬をしておくのを忘れないようにした。そうでないと、ゴブリンより強いゴブリンゾンビが生まれるのだ。

  三人の下へと戻ってくると、戦闘は終わっていて三人とも討伐部位を回収して、ゴブリンに火をつけていた。

 「とりあえず、周囲には他のモンスターはいなさそうだね。これだけ派手にやってたのに来なかったってことは」

  結構、ファイアとかは爆発したときに音が出るので、周囲にモンスターがいたら近づいてくるものなのだが、来なかったと言うことは本当にいないのだろう。

 「そうだね。ほんとにコボルトが増えてきているのかな?」
 「冒険者組合が言うんだから間違いないでしょ!たぶん」
 「まあ、観測結果は百パーセント確実ではないからな。間違っていることもあるかもしれん」

  それから一時間ほど、歩き続けたがゴブリンすら見なくなってしまった。

 「どうしてこんなに魔物がいないのでしょうか?」

  アリスがそう不思議そうに呟く。確かにこんなにも魔物を見ないのは絶対おかしい。

 「何かが起こっている・・・と見た方がいいのかもしれんな」
 「うー!早く戦いたいよー!」

  マリーが今にも暴れ出しそうなので、デニスが落ち着かせながらアリスの言葉に対して返す。

 「今日は早く切り上げた方がいいかもしれないね。なんだか嫌な予感がするし」

  そう言ったときのことだ。突然木々が倒れるような音が聞こえ始めた。しかもこちらに向かってきているようだ。クロキ、アリス、デニスは顔を見合わせて、同時に頷いた。

  クロキとデニスがマリーの右腕、左腕をつかみ、音が聞こえる反対方向へと走り始めた。

 「ねえ!なんで私の腕を引っ張るのさー!」
 「マリーだったらこのまま音が聞こえる方に、突撃していきそうだから」
 「さすがに、これはやばそうだからちゃんと逃げるよ~」

  言質は取ったのでマリーの手を離すことに、このままじゃ速度は落ちるし走りづらいからね。

  マリーもクロキと並走し始めた。マリーは筋力がかなりあるので、長剣と大盾を持っていてもクロキたちと同じ速度で走れるのだ。

  十分ほど全力疾走の一歩手前で走ると、森の終りが見え始めてきた。今もなお、何かが追いかけてきている。さすがに森の外までは、追いかけてこないと信じたい。そうでないと戦わなくてはならなくなるからだ。さすがに、都市まで引き連れていくわけにもいかない。

  そして森を抜け、そこからもしばらく走り、様子を見てみると森から現れたのは・・・赤黒い肌を持ち、今朝も依頼書で名前を見たばかりのやつだった。

 「オーガだと!?何故こんな場所にいるんだ!」

  デニスが驚きながら、叫びたい気持ちを抑えて声を小さくする。ここにいる全員が驚いていることだろう。何故?どうして?それだけが頭の中を支配する。

  オーガは右、左と見て、そしてこちらを見てきたような気がした。

  全員が息をのみ呼吸すらも忘れ、静寂がその場を包み込む。しかし、それもすぐに終わった。オーガが後ろを向き森の中へと戻って行ったからだ。

 「ふう・・・何とか助かった感じかな?」
 「そうみたいだね」

  クロキとアリスは助かったことに安堵し、ほっと息をついた。デニスはいまだ険しい顔でオーガが去って行った方を見ている。

 「ねぇねぇ、勉強あまりしてない私でもわかるんだけど、オーガってこの森にいないはずの魔物だよね?なんでいるのかな?」
 「さあな。それはこっちが聞きたいくらいだ」

  オーガが去っていった方を警戒していたデニスが、呟く。

 「今日はこれくらいにして、一旦冒険者組合の方に戻って報告をしようか」
 「だね〜あんなヤバイやつがいる場所で、コボルト探しなんてやっていられないよ」

  四人全員の意見が一致したため、今日は冒険者組合の方へ戻ることにした。

  イヌアの森からアジェンダへと帰る道中に、運良くコボルトの五匹組を発見することができたので、倒していくことにした。コボルトは犬が魔物化したものなので、嗅覚が鋭い。そのためゴブリンの時のような奇襲はすることができない。

  コボルトたちもこちらに気づいたようで、睨み付けてきて臨戦態勢になっていた。

 「マリーはいつも通り敵の攻撃を引き付けて、アリスはそれに対して強化の魔法を。デニスは攻撃できそうなやつに容赦なく攻撃。僕はアリスたちに攻撃がいかないように、コボルト達を抑えるから」
 「「「了解!」」」

  マリーがハウリングと呼ばれるスキルを使い、自分に注目を集めた。その間にもアリスはガードライズ、クイックライズをかけるために同時詠唱を始める。

  デニスは同時詠唱ではなく、ファイア・チェイサーの多段詠唱を始めた。

  同時詠唱とは種類が異なる魔法を、同時に詠唱することで、多段詠唱が同じ種類の魔法を同時に詠唱することだ。一見同じものに見えるが、種類違うか同じかだと難易度が大きく違う。

  クロキはマリーを抜いてきた二匹のコボルトを、相手にし始めた。

  コボルトはかなり素早く、マリーは完全に防御に徹していた。攻撃しようとすれば、逆に攻撃をもらってしまうからだ。

  クロキとコボルトは、かなりのハイスピードで戦っているが、クロキの方が少し速い。一匹が背中向けて離脱しようとするところに、攻撃を仕掛けるが、見えていないはずなのに避けられ、皮一枚斬るだけに終わる。そしてクロキもそれは同様で、もう一匹のコボルトの視覚外からの攻撃を、前転で回避する。

  すぐさま体勢を整え、コボルト達を迎え撃つ。

  それから十分間ほどそんなことを繰り返した。どちらが傷だらけかというとコボルト達の方だろう。ぼさぼさの毛並みには血が濃く染み付いている。

  クロキはというと未だに攻撃を一撃ももらっていないため、どこにも傷ついたところは見当たらない。

  そんな膠着状態も終わりを告げた。コボルトが逃げ場のない空中に出て、飛びかかってきたのだ。そんな絶好のタイミングを逃すはずもなく、スチールソードがコボルトの腹部を大きく斬り裂いた。

  仲間がやられたコボルトは一瞬動きが止まったが、すぐに動き出した。頭に血が上っているのか、動きが単調になっていたため、すぐに討伐することができた。

  マリーたちの方は比較的簡単に討伐することができそうで、動きが素早いコボルトもファイア・チェイサーの目の前では次々と当たっていき、瀕死になったところをマリーが仕留めていく。

  こうして、コボルトたちとの戦闘は終了した。

  目標討伐数は十匹だが、また森に入るのは危険すぎると判断したので、予定通りに帰ることにした。
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