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4.大波乱の中等部入学試験(1)

天空の魔女 リプルとペブル

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4.大波乱だいはらんの中等部入学試験(1) 

 8年後。 
 魔女学園小学部の中庭。

 たくさんの赤いリボンが結ばれた裸木はだかぎの下に二人の女の子が立っている。
 やわらかな風が吹いてきて、木に結ばれた数百の赤いリボンがいっせいにはためいた。
 女の子たちの髪の毛もふわっと風にゆれる。



 丸い目に水色のショートボブの女の子が、真剣な顔をして、片手にグラス、もう一方の手にティーカップを持っていた。

 この子が12歳になったペブル。
 そんなペブルを不安そうに見つめているのが、おなじく12歳になったリプル。

 リプルは、切れ長の目に、やわらかそうなダークブラウンの長い髪の落ち着いた雰囲気。
 見た目の印象通り、性格で言えば、ペブルは、あわてんぼうで飽きっぽい。
 リプルは、慎重派。ただし、研究熱心で、興味のあることに関してはとことん突き止められずにはいられない。

 ふたりの性格は、地球にたとえれば、北極と南極ほどに正反対……いや、北極と南極、どっちも寒いという意味では共通点もある……。
 それにちなんで、リプルとペブルの共通点を探すとすれば、ふたりとも魔法が大好きで正義感が強いというところかも。

「ちょっと待って。ペブル。そんな急に混ぜちゃダメだって!!」
 止めようとするリプルをスルーしたペブル。
 ドバドバ~。
 ペブルは、グラスに入ったにじ色の液体をティーカップに入ったオレンジ色のキューブの上に思いきりよく注いだ。
 1秒、2秒、3秒。

「うわ、成功しちゃった?」
 ペブルが得意げにティーカップをのぞき込もうとしたその時、オレンジ色の角砂糖はブワッと音を立てて燃え上がり、後には灰色の煙だけが残った。

「ゴホッ、ゲホッ」
 煙を吸って咳き込むペブルを
「もう、だから言ったのに。オレンジキューブをもとのオレンジに戻すコツは還元魔法の力をこめたジュースをゆっくり注ぐことだよ」
 リプルが、あきれながらたしなめる。

「大丈夫、次がんばるから!」
 ペブルは、にこ~っと笑った。
 8年前にくらべて体も大きくなったが、メンタルもさらに強くなっているようだ。

 ペブルの胸ポケットから口に赤いリボンをくわえたシマリスがひょっこり顔を出した。
 ペブルの使い魔のシズクである。

 シズクは「やっぱりかぁ~」とため息をつき、へらへらしているペブルの頭にのぼって、しっぽをふわりとふくらませると、リボンの木へと軽やかに飛び移った。

「こら、シズク!人の頭を踏み台にしない!」
 ペブルがシマリスをうらめしそうに見上げる。
「うふう。はい526回目の失敗。またも赤いリボンっと」
 シズクは、下から三番目の枝の先に赤いリボンを結びつけた。

 ペブルは、赤いリボンの木をみあげて肩を落とす。
「ねー、この魔法が失敗したら赤いリボンを結ぶっていうやり方、ものすごくへこむんだけど」

「だって、『失敗を見える化』しないと、ペブルはぜんぜん危機感ききかんを持たないから」
「ボクもリプルに賛成さんせいだな。さすがにヤバいと思うんだよなぁ」
 リプルのことばにシズクも前あしをくんで大きくうなずいた。

「ペブル、ホントに大丈夫なの? 来週はいよいよ魔法学校中等部の入学試験だよ。それまでに、きちんと基礎魔法くらいは使えるようになっておかないと魔女失格になっちゃうよ」
 リプルは、瞳に不安の色を浮かべつつ、ペブルを見る。

 ペブルのほうは、平手でドンと自分の胸をたたいた。
「大丈夫、私、本番に強いから」

「そうかなぁ」
 シズクが首をかしげる。
「ペブルはリプルと違って、繊細せんさいさが足りないよ。さじ加減がいい加減すぎるんだよ。少しはリプルを見習いなよ。リプルは、小学部でずーっと首席しゅせきだったんだよ。でも、そのパルであるペブルは基礎魔法すらあやしいなんて、使い魔として悲しいよ」

 するとペブルがへらっと笑った。
「でも私とリプルはパルらしくバランス取れてるよ。リプルが優秀な分、私が落ちこぼれ。だからバランスが取れてるんだよ。ほら、思い出して。小学部の入学試験のこと」

 シズクがブルブルと体をふるわせた。
「やだよ。思い出したくもない」

 リプルも当時のことを思いだして苦笑くしょうした。
「そういえば、小学部のテストのときも、ペブルはギリギリで受かったんだったね」

 小学部の入学試験では、一年前から育てた花が入学式までに咲くかどうかがためされた。
 この花、めんどうなことに、普通に水やりをするだけでは咲かない。
 毎日、花に向かって魔法の呪文を唱える必要があるのである。

 つまり幼稚園児のような幼い年齢でもきちんと毎日の魔法の訓練をこなせるかどうかが試されるというわけ。

 まじめなリプルは、毎日、同じ時間にしっかりと呪文をとなえ続け、小学部入学試験の一週間前に、虹色に輝く美しい花を咲かせることに成功した。
 
 しかし、ときどき呪文をとなえることを忘れてしまっていたペブルは、試験の前日になっても花が咲かないどころか、つぼみすらついていなかった。

 さすがのペブルもあせって、試験の前日は、ずっと眠らず朝になるまで、花に向かって必死に呪文を唱え続けた。

 それでもなにも変化がなく、あきらめようかとしたとき。
 朝日がのぼり始めたとたん、ポンとつぼみができた。
 最後の奇跡を信じて、ペブルは朝ごはんを食べつつ、学校に行く途中も、必死に呪文を唱えつづけた。
 すると、入学式が行われる学園の門をくぐったとたんに、水色の花がポンと咲いたのだった。

「あのときに一度、私は青ワンピを脱ぐ覚悟をしてるから、いまも落ち着いてるよ。ハハ。私ってきっと大器晩成系、滑り込みセーフタイプだよね」
 のんきなペブルに対して、リプルが表情をひきしめた。
「そもそも、もっと前から準備しておけば、こんなことにはならないの!」

 ペブルは、うんうんとうなずいたあと、手ではたはたと自分の顔をあおぎながら、へらっと笑った。
「ま、まぁもうここまでくれば、なるようにしかならないから。だめだったときはいさぎよく青ワンピを脱ぐし。大船に乗ったつもりでいて」

「「不安しかない」」
 リプルとシズクが声をそろえた。

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