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8 舞台裏・独白2

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 もう待てなかった。
 一週間待った。待っていたが駄目だった。これ以上はもう待てない。
 覚悟は固めた。そして手段も、昨日のうちに決めてある。
 あとは、実行に移すのみ。
 真っ直ぐにテーブルへ向かうと、そこに乗せられたものへ手を伸ばす。
 用意は深夜のうちに整えていた。誰よりも早くここへ来る為に。誰にも見られず動く為に。覚悟を鈍らせないよう、自分を戒める為に。
 そして、失敗しない為に。
 きっかけは何でもいい。
 ただ、殺意を表現する手段として、目の前のこれはうってつけだ。見れば一目で誰でも分かる。
 掴んだ肉厚の包丁の柄を逆手に握り直すと、刃先を床へ向けた。
 床と水平に伸ばした腕の先に、銀色の刀身。そこに映る自分の顔は、不謹慎にも笑んでいた。薄闇を一閃する金色の光が、不意に室内を駆け抜ける。窓の外を走った車のライトだ。刀身を鈍く煌めかせた光の色は、まるで夜を飾るネオンのように、虹色の光彩を帯びていた。

「……殺す」

 小さな呟きが、思わず喉から零れた時。
 ぱっ、と手を、包丁から離した。

 床板を穿った包丁が跳ねる劈くような音を、耳が拾うことはなかった。
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