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第2章
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あの街道をそのまま行くのは危険だとイーサンが判断した事により、一行はチュリの案内の元、山を越える迂回路を進んだ。
あの捉えた男はライアンによる自分語りの間にカイルが尋問していたがまだ情報を吐かせるには時間がかかりそうだと言っていた。
あの場では十分に尋問が出来なかったため、身動きが取れない様にしてチュリによる魔除けを施して連れて行く事になった。
男の分の食事も用意することになり最初は手持ちの食料は心元無かったが、時折遊びに行ったフェンリルが鹿等を狩って来てくれたので予想と反して充実し、心配はなかった。
そしてその夜も野宿だ。
今日の順番はライアン、イーサン、テオの次がリアム、カイルで最後にチュリとアメリアだ。
アメリアとは同性だからか一緒に見張りに付くことが多い。
魔の森でも上位に位置するフェンリルがいるので魔獣でもない野生動物は皆恐れをなして逃げていくため、襲われる心配はない。
魔の森よりもゆったりとした雰囲気で各人が見張りに付くことになった。
風上と風下の位置を確認したチュリはリュックサックを漁り仮眠の準備をしてフェンリルに近寄った。
先に寝ていたフェンリルは足音に目を覚まし、頭を上げてチュリを迎え入れる。
外で寝る時は不意の攻撃に備えてチュリはいつも伏せた状態のフェンリルの顎と前足の間に潜り込んで寝ている。
フェンリルの顎の窪みと枕にしている前足の間は寝袋程の空間で丁度いい広さの上に暖かく、良く手入れをしているフェンリルの最高の毛並みを全身で味わう事ができる。
まさに天然のもふもふとん。
この寝方を見たライアンはいつも羨まし気な顔をして見てくるが自分だけの特等席なのでチュリは譲る気はない。
フェンリルにごめんよと小さく呟き、香炉に香を入れて火を付けたチュリは煙が安定した所でフェンリルの隙間から香炉を外へ出した。
そして、その日もいつも通りフェンリルのもふもふとんで仮眠についた。
体内時計によりぱちりと目が覚めたチュリはフェンリルの懐から潜り出した。
計算通り香は燃え尽きており、煙を発していない。
灰を焚火の中へと突っ込み香炉をリュックサックへと仕舞いこんだチュリは最初に見張りのライアン、イーサン、テオの元へ行くと全員見張りを放棄して眠りこけていた。
そんな三人のそれぞれすぐそばに色の違うトランプのダイアの様な形をした宝石の様な結晶が落ちている。
それを小さな袋に回収したチュリは他の眠っている四人の元へと順に移動する。
最後にボロボロの状態で木へと縛り付けられたまま眠りこけている呪術師の男の傍に落ちていた結晶は男の操っていた黒い霧の様に真っ黒だった。
その色を数秒見つめた後小さくため息を吐きながら首を振り、袋へと放り込んだ。
他の者からも回収したモノとぶつかりカシャンッと音が鳴る。
その袋をリュックサックへと仕舞い、チュリは再び仮眠へと戻った。
時折フェンリルによる斥候により発見した、賊などの怪しい集団を避ける様にして移動していたため、当初の予定よりも四日ほど延びてしまったが特に何も起こらず、無事にレゲルへとたどり着く事ができた。
呪術師の男から記憶を抜き出したいとチュリにイーサンから香炉の貸し出しを交渉されたが、香炉はあっても香の持ち合わせがないため使用が出来なかった。
無いのに何故あの時記憶と道の交換などと言い出したのだと言われたチュリは「そう言っておけば道の事は諦めるだろう?」と返し、イーサンに苦笑いされていた。
呪術師の男は最終的に「聞きたいことは聞き出せましたので処分しました」とカイルがライアンに報告していた。
事も無げにそう言ったカイルにチュリが戦慄したのは別の話だ。
「あの検問通ったらレゲルだよ」
レゲルへの入国検問を行っている列が遠目で見える距離まできた時、一行の先導をしていたチュリが検問を指さしながら振り返り言った。
フェンリルを反転させ、アメリアへと近付くとリュックサックから小包の様な物を取り出して差し出す。
「あんたらが気に入ったみたいだからこれもあげるよ」
「これは?」
「森で食べた果物」
「!?」
「大丈夫だって、あの森で食べたらくるけどここはもう魔の森じゃないからねぇ。何もよって来ないさ」
「それならば良いのだが……」
受け取った小包みにかつての魔獣の襲来を思いだしたアメリアは小包みを落としそうになり、他の人間はきょろきょろと周囲を見回す。
それを笑いながら言ったチュリにライアンが苦笑いをした。
「それと、それはあたしらの間では『桃』って言っているんだ。香料にしたら生の時とは全然匂いが違うんだけど、あの黒い霧を祓った香料の原料でもあるんだって何日か前にリアムにも言っただろう?」
「……そう言えば」
話の途中でチュリが足を拭こうと裾を捲り始めたためそれに気を取られてすっかり忘れていたリアムは話の内容と共に少し見てしまったチュリの白い足も思い出し、気まずげに視線をそらした。
「そのままだと魔獣を寄せるけどなんでか香料にすると魔除けになるんだ。だからそれをどう使うかはあんたらにまかせるよ。模様はもう覚えただろう」
「ああ」
リアムが頷いたのを確認したチュリは満足げに笑った。
アメリアが小包みをカイルへと渡し、チュリに借りて腰に差していたナイフを両手で差し出した。
「チュリ様、こちらお返し致します」
「ああ、すっかり忘れてたよ。ありがとね」
「いえ、こちらこそそれほどの一品を持たせていただきありがとうございました。一生の思い出に致します」
「大袈裟だねぇ」
アメリアの言葉に笑いながらチュリは片手を上げた。
「じゃあ、あたしらの役割はここまでだね、達者でな」
「わふっ」
「ちょ、待った待った!」
「……なんだい?」
「グルルルルッ」
手を振り、フェンリルを元来た道へと方向転換させたチュリの前を慌ててテオが乗った馬が塞ぐ。
訝し気なチュリと唸るフェンリルに冷や汗を流しながら口を開いた。
「チュリちゃんさ、もし君が良ければ俺たちと一緒に来ない?」
「……はぁ?」
「道中見て思ってたんだけど、チュリちゃんの弓と投擲の腕前は凄い! 是非ともその腕を俺たちと共に生かさないかい?」
「………あたしは魔の森の猟師でこの森の番人としての仕事がある。それに、あんたらとの契約はここまでだから無理だよ」
「ならば追加報酬があればどうだろうか」
「ら、ライアン様!?」
ライアンが馬から降り、チュリの跨るフェンリルの傍で跪いた。
周囲の人間はそれに慌てふためき、馬から降りてライアンをが全く意に介さずその目は真っすぐにチュリを見つめる。
「チュリ、正直に言おう。私は君の気配を察知する能力、弓や投擲の腕前、薬草や魔獣に対する罠等の知識、フェンリルと言う相棒、全ての能力が欲しい。叔父上たちにより祖国を追い出され、私たちは今圧倒的に味方が足りない。そこに君と言う仲間が加わってくれればどんなに心強いか。報酬は大金貨千枚。それと私のできることなら何でも望みを一つ叶えよう。私たちと共に戦ってはくれまいか」
「せっ!?……ごほんっ。か、金で仲間を買うのかい? 金でできた関係程薄っぺらいもんはないとあたしは思うんだけどねぇ」
「一理ある。だが、この数日間で見た君と言う人間は充分に信用足り得る人物だと私は思った。例え金銭で繋がった関係であろうとも君は不義理はしないはずだ」
「………」
「それにそんな事を言ったらテオはアメリアに一目惚れしたからと言う理由で私たちの仲間になったのだぞ? テオに比べれば断然チュリの方が信頼できる」
「えっ、ライアン様酷いっ!」
「黙って下さい」
茶目っ気たっぷりでそう言ったライアンにテオがワザとらしく嘆き、アメリアが突っ込む。
そのやり取りにチュリは笑うが不意に眉を寄せ、困った様な表情をした。
「あたしは魔の森の猟師であり管理人だ、だからあまり長期間森を空ける事はしたくないんだよ」
「最大でどれ程ならば離れられるのだ?」
「んー、四カ月、いや、半年は平気かな」
「半年か……ならば契約期間は半年としようか」
「ライアン様!?」
驚きの声をあげたイーサンに目もくれずチュリを見上げ、再度ライアンが言った。
「だからもう一度言おう。私たちの仲間になってくれまいか?」
「………」
跪いたままじっと見つめてくるライアンにチュリは必死に思考を回す。
(大金貨千枚って、千枚ってあれだよ? むこう30年は働かずに遊んで暮らせるよ!?えぇ!? ライアンって、ていうか王子ってそんなにお金持ちなの!? いやいや、お師匠様も言っていたじゃないか、偉い奴に関わったら面倒な事になし崩し的に巻き込まれるって。大金貨千枚も出すって言ってるんだから絶対とんでもなく面倒な事に決まってるじゃないか。生き残っている王族の救出とか王都奪還をかけた戦いとか隣国の協力とか言ってんだから絶対戦争になるでしょう!? 戦争とか無理無理。絶対に駄目、ここは断んなきゃ。いや、でも千枚、千枚だよ? 森の中にいるからそんなに使わないにしても千枚だよ? これから先何があるか分からないし貰える物は貰っといた方がいいんじゃなかい? いや、でも何させられるか分かんないし絶対に戦うよね? 戦争なんだから戦わない方が可笑しいよね? フェンリルも戦力として考えてそうだし……でも千枚、それになんでも願いを叶えてくれるって、王子様なら多少の無理も聞いてくれるだろうしあの事をお願いしてみるのも……いや、でも絶対面倒な事になるって……)
お金に目が無いチュリの意志はぐらっぐらに揺らいでいた。
そんなチュリの様子にライアンは好機だと更に畳みかける。
「今ならなんと衣食住はこちら持ち、おまけにアメリアとカイルの美味しい食事とお菓子もついてくる」
「乗った!!」
これまでの食事でアメリアとカイルに完全に胃袋を掴まれていたチュリは陥落した。
「良かった。よろしくね、チュリ」
「うえぇ!」
立ち上がったライアンはチュリの手をとりそこに唇を落とし、突然の行動に驚きの声を上げるチュリをよそに嬉しそうに微笑んだ。
逃がさないとでも言う様にしっかりと掴まれた両手とその笑顔にどこか黒い物を感じたチュリは早まったかなと引き攣る笑顔を浮かべながら背中に冷や汗を流した。
あの捉えた男はライアンによる自分語りの間にカイルが尋問していたがまだ情報を吐かせるには時間がかかりそうだと言っていた。
あの場では十分に尋問が出来なかったため、身動きが取れない様にしてチュリによる魔除けを施して連れて行く事になった。
男の分の食事も用意することになり最初は手持ちの食料は心元無かったが、時折遊びに行ったフェンリルが鹿等を狩って来てくれたので予想と反して充実し、心配はなかった。
そしてその夜も野宿だ。
今日の順番はライアン、イーサン、テオの次がリアム、カイルで最後にチュリとアメリアだ。
アメリアとは同性だからか一緒に見張りに付くことが多い。
魔の森でも上位に位置するフェンリルがいるので魔獣でもない野生動物は皆恐れをなして逃げていくため、襲われる心配はない。
魔の森よりもゆったりとした雰囲気で各人が見張りに付くことになった。
風上と風下の位置を確認したチュリはリュックサックを漁り仮眠の準備をしてフェンリルに近寄った。
先に寝ていたフェンリルは足音に目を覚まし、頭を上げてチュリを迎え入れる。
外で寝る時は不意の攻撃に備えてチュリはいつも伏せた状態のフェンリルの顎と前足の間に潜り込んで寝ている。
フェンリルの顎の窪みと枕にしている前足の間は寝袋程の空間で丁度いい広さの上に暖かく、良く手入れをしているフェンリルの最高の毛並みを全身で味わう事ができる。
まさに天然のもふもふとん。
この寝方を見たライアンはいつも羨まし気な顔をして見てくるが自分だけの特等席なのでチュリは譲る気はない。
フェンリルにごめんよと小さく呟き、香炉に香を入れて火を付けたチュリは煙が安定した所でフェンリルの隙間から香炉を外へ出した。
そして、その日もいつも通りフェンリルのもふもふとんで仮眠についた。
体内時計によりぱちりと目が覚めたチュリはフェンリルの懐から潜り出した。
計算通り香は燃え尽きており、煙を発していない。
灰を焚火の中へと突っ込み香炉をリュックサックへと仕舞いこんだチュリは最初に見張りのライアン、イーサン、テオの元へ行くと全員見張りを放棄して眠りこけていた。
そんな三人のそれぞれすぐそばに色の違うトランプのダイアの様な形をした宝石の様な結晶が落ちている。
それを小さな袋に回収したチュリは他の眠っている四人の元へと順に移動する。
最後にボロボロの状態で木へと縛り付けられたまま眠りこけている呪術師の男の傍に落ちていた結晶は男の操っていた黒い霧の様に真っ黒だった。
その色を数秒見つめた後小さくため息を吐きながら首を振り、袋へと放り込んだ。
他の者からも回収したモノとぶつかりカシャンッと音が鳴る。
その袋をリュックサックへと仕舞い、チュリは再び仮眠へと戻った。
時折フェンリルによる斥候により発見した、賊などの怪しい集団を避ける様にして移動していたため、当初の予定よりも四日ほど延びてしまったが特に何も起こらず、無事にレゲルへとたどり着く事ができた。
呪術師の男から記憶を抜き出したいとチュリにイーサンから香炉の貸し出しを交渉されたが、香炉はあっても香の持ち合わせがないため使用が出来なかった。
無いのに何故あの時記憶と道の交換などと言い出したのだと言われたチュリは「そう言っておけば道の事は諦めるだろう?」と返し、イーサンに苦笑いされていた。
呪術師の男は最終的に「聞きたいことは聞き出せましたので処分しました」とカイルがライアンに報告していた。
事も無げにそう言ったカイルにチュリが戦慄したのは別の話だ。
「あの検問通ったらレゲルだよ」
レゲルへの入国検問を行っている列が遠目で見える距離まできた時、一行の先導をしていたチュリが検問を指さしながら振り返り言った。
フェンリルを反転させ、アメリアへと近付くとリュックサックから小包の様な物を取り出して差し出す。
「あんたらが気に入ったみたいだからこれもあげるよ」
「これは?」
「森で食べた果物」
「!?」
「大丈夫だって、あの森で食べたらくるけどここはもう魔の森じゃないからねぇ。何もよって来ないさ」
「それならば良いのだが……」
受け取った小包みにかつての魔獣の襲来を思いだしたアメリアは小包みを落としそうになり、他の人間はきょろきょろと周囲を見回す。
それを笑いながら言ったチュリにライアンが苦笑いをした。
「それと、それはあたしらの間では『桃』って言っているんだ。香料にしたら生の時とは全然匂いが違うんだけど、あの黒い霧を祓った香料の原料でもあるんだって何日か前にリアムにも言っただろう?」
「……そう言えば」
話の途中でチュリが足を拭こうと裾を捲り始めたためそれに気を取られてすっかり忘れていたリアムは話の内容と共に少し見てしまったチュリの白い足も思い出し、気まずげに視線をそらした。
「そのままだと魔獣を寄せるけどなんでか香料にすると魔除けになるんだ。だからそれをどう使うかはあんたらにまかせるよ。模様はもう覚えただろう」
「ああ」
リアムが頷いたのを確認したチュリは満足げに笑った。
アメリアが小包みをカイルへと渡し、チュリに借りて腰に差していたナイフを両手で差し出した。
「チュリ様、こちらお返し致します」
「ああ、すっかり忘れてたよ。ありがとね」
「いえ、こちらこそそれほどの一品を持たせていただきありがとうございました。一生の思い出に致します」
「大袈裟だねぇ」
アメリアの言葉に笑いながらチュリは片手を上げた。
「じゃあ、あたしらの役割はここまでだね、達者でな」
「わふっ」
「ちょ、待った待った!」
「……なんだい?」
「グルルルルッ」
手を振り、フェンリルを元来た道へと方向転換させたチュリの前を慌ててテオが乗った馬が塞ぐ。
訝し気なチュリと唸るフェンリルに冷や汗を流しながら口を開いた。
「チュリちゃんさ、もし君が良ければ俺たちと一緒に来ない?」
「……はぁ?」
「道中見て思ってたんだけど、チュリちゃんの弓と投擲の腕前は凄い! 是非ともその腕を俺たちと共に生かさないかい?」
「………あたしは魔の森の猟師でこの森の番人としての仕事がある。それに、あんたらとの契約はここまでだから無理だよ」
「ならば追加報酬があればどうだろうか」
「ら、ライアン様!?」
ライアンが馬から降り、チュリの跨るフェンリルの傍で跪いた。
周囲の人間はそれに慌てふためき、馬から降りてライアンをが全く意に介さずその目は真っすぐにチュリを見つめる。
「チュリ、正直に言おう。私は君の気配を察知する能力、弓や投擲の腕前、薬草や魔獣に対する罠等の知識、フェンリルと言う相棒、全ての能力が欲しい。叔父上たちにより祖国を追い出され、私たちは今圧倒的に味方が足りない。そこに君と言う仲間が加わってくれればどんなに心強いか。報酬は大金貨千枚。それと私のできることなら何でも望みを一つ叶えよう。私たちと共に戦ってはくれまいか」
「せっ!?……ごほんっ。か、金で仲間を買うのかい? 金でできた関係程薄っぺらいもんはないとあたしは思うんだけどねぇ」
「一理ある。だが、この数日間で見た君と言う人間は充分に信用足り得る人物だと私は思った。例え金銭で繋がった関係であろうとも君は不義理はしないはずだ」
「………」
「それにそんな事を言ったらテオはアメリアに一目惚れしたからと言う理由で私たちの仲間になったのだぞ? テオに比べれば断然チュリの方が信頼できる」
「えっ、ライアン様酷いっ!」
「黙って下さい」
茶目っ気たっぷりでそう言ったライアンにテオがワザとらしく嘆き、アメリアが突っ込む。
そのやり取りにチュリは笑うが不意に眉を寄せ、困った様な表情をした。
「あたしは魔の森の猟師であり管理人だ、だからあまり長期間森を空ける事はしたくないんだよ」
「最大でどれ程ならば離れられるのだ?」
「んー、四カ月、いや、半年は平気かな」
「半年か……ならば契約期間は半年としようか」
「ライアン様!?」
驚きの声をあげたイーサンに目もくれずチュリを見上げ、再度ライアンが言った。
「だからもう一度言おう。私たちの仲間になってくれまいか?」
「………」
跪いたままじっと見つめてくるライアンにチュリは必死に思考を回す。
(大金貨千枚って、千枚ってあれだよ? むこう30年は働かずに遊んで暮らせるよ!?えぇ!? ライアンって、ていうか王子ってそんなにお金持ちなの!? いやいや、お師匠様も言っていたじゃないか、偉い奴に関わったら面倒な事になし崩し的に巻き込まれるって。大金貨千枚も出すって言ってるんだから絶対とんでもなく面倒な事に決まってるじゃないか。生き残っている王族の救出とか王都奪還をかけた戦いとか隣国の協力とか言ってんだから絶対戦争になるでしょう!? 戦争とか無理無理。絶対に駄目、ここは断んなきゃ。いや、でも千枚、千枚だよ? 森の中にいるからそんなに使わないにしても千枚だよ? これから先何があるか分からないし貰える物は貰っといた方がいいんじゃなかい? いや、でも何させられるか分かんないし絶対に戦うよね? 戦争なんだから戦わない方が可笑しいよね? フェンリルも戦力として考えてそうだし……でも千枚、それになんでも願いを叶えてくれるって、王子様なら多少の無理も聞いてくれるだろうしあの事をお願いしてみるのも……いや、でも絶対面倒な事になるって……)
お金に目が無いチュリの意志はぐらっぐらに揺らいでいた。
そんなチュリの様子にライアンは好機だと更に畳みかける。
「今ならなんと衣食住はこちら持ち、おまけにアメリアとカイルの美味しい食事とお菓子もついてくる」
「乗った!!」
これまでの食事でアメリアとカイルに完全に胃袋を掴まれていたチュリは陥落した。
「良かった。よろしくね、チュリ」
「うえぇ!」
立ち上がったライアンはチュリの手をとりそこに唇を落とし、突然の行動に驚きの声を上げるチュリをよそに嬉しそうに微笑んだ。
逃がさないとでも言う様にしっかりと掴まれた両手とその笑顔にどこか黒い物を感じたチュリは早まったかなと引き攣る笑顔を浮かべながら背中に冷や汗を流した。
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