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一章 出逢い編

愛華vs夕梨花

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「何か嫌な予感がする⋯」

あれからまだ数分しか経ってないが、またあの荒い足音が近づいてくるのが分かり顔を顰める愛華。だが、その嫌な予感はすぐに的中する事になる。

「ちょっとあんた!!」

ドアが勢いよく開いて、先程の派手な女子生徒が物凄い形相で部屋に入って来た。

「えっ⋯何ですか?」

「何ですかじゃないし!!アンタのせいで蓮に振られたじゃない!!」

(はぁ!?何なのよ!私に何の関係があるのよ!!)

愛華は意味不明な怒りをぶつけられて腹が立っているが、面倒くさくなりそうなので穏便に済まそうと決めた。

「何故私に関係あるんですか?華野崎先輩とはほんの数時間前に会ったばかりですので私のせいで振られたと言われても⋯」

「ほんの数時間前!?あり得ない!あんた、蓮の新しいおもちゃでしょ!!おもちゃのくせになんでこの部屋に入ってるのよ!」

おもちゃと言われた愛華は持っていたペンを思いっきり机に叩きつけて立ち上がる。

「大人しく聞いてれば人をおもちゃとか⋯何なのよ!!この部屋に入ったら何がいけないの!?」

「あんた⋯何も知らないの!?」

そんな愛華を睨みながらも呆れている派手な女子生徒こと夕梨花。

「ただの理科準備室でしょ!!何故かあの人が私物化してるけど⋯」

「あの人⋯?あんた今⋯蓮をあの人って言った!?」

夕梨花は怒りに震えながらふらふらと愛華に近づいていくと、彼女の頬を思いっきり打った。愛華は一瞬何が起こったかわからなくなったが、次第に打たれた頬が熱くなる。

「イタっ!⋯。」

「あんたみたいなただのセフレが蓮をあの人ですって!?思い上がるんじゃないわよ!!」

夕梨花は激昂し、更に愛華を打とうと手を振り上げた。

「いい加減にしなさいよ!!」

愛華は遂に怒りが頂点になり、夕梨花が振り上げた腕を掴んで抑えると無防備な彼女の頬を先程のお返しとばかりに思いっきり打った。

「きゃあぁぁ!!」

夕梨花は自分の頬に走った衝撃と痛みに驚いて悲鳴じみた声を上げた。

「痛いでしょ?叩かれたら痛いのよ!!」

「⋯いたわね⋯あんた!!この私を叩いたわね!!」

打たれた頬を押さえていた夕梨花が近くにあった椅子を掴むと窓に叩きつけた。近くにいた愛華は咄嗟に床に伏せるが、椅子は凄まじい音と共に窓ガラスを突き破った。夕梨花はそれだけでは怒りが収まらないのか荒い息のまま床に伏せていた愛華の元に来ると、思いっきり蹴ろうとする。だが愛華も負けていない。

蹴ろうとした夕梨花の脚を掴み転ばすと馬乗りになり頬を叩く。

「自分が何したか分かってるの!?」

「痛い!!何すんのよ!!」



静寂な学園にいきなり激しい音が響き渡り一気に大騒ぎになり始めた。教室から生徒達が飛び出し、教師達が懸命に鎮静化を図っているにも関わらず生徒達は窓ガラスが割れた理科準備室に向かって行く。先に着いた教師が見たのは女子生徒二人が取っ組み合いの凄まじい喧嘩をしている光景だった。この場所は教師でも近寄らない華野崎蓮の私物化された部屋のはずが、その本人がいなく何故か三年の相澤夕梨花と話題の転校生高島愛華がいた。

「おい!離れなさい!!やめろ!」

体育教師であり、三年の学年指導である山河は彼女達を簡単に引き離すと他の教師達が其々を押さえる。

「離してよ!この女、殺してやる!!」

髪もメイクもボロボロになった夕梨花が愛華を指差して吠える。

「やってみなさいよ!!」

愛華も一切引かず夕梨花を睨み付けている。だが高島愛華はただの一般家庭の生徒で、相澤夕梨花の父親は有名な弁護士で母親はテレビの有名なコメンテーターだ。山河や他の教師達は二人を天秤にかける程のものではないと判断して愛華を取り囲む。

「お前が相澤を叩いたのか!相澤はお前の先輩だろ!!素行が悪いゴミが!!」

あまりの酷い言いように唖然としてしまう愛華。

(ゴミ!?生徒をゴミって言ったこの人!!)

反論しようとした愛華だが、野次馬で集まっていた生徒達が一気に静まり返ったので不思議に思い振り返るとそこには宮ノ内理事長と香坂、それに華野崎蓮の姿があった。

「生徒は教室に戻りなさい」

香坂の有無を言わさない一言で、生徒達は逃げる様に戻って行った。そしてここに残ったのは愛華と夕梨花、それに山河率いる一部の教師、宮ノ内理事長と香坂、華野崎蓮だけだ。

「何があったんですか?」

穏やかな声色とは正反対の怒りに満ちた顔つきの宮ノ内に空気が読めない山河が発言する。

「この転校生が相澤を殴ったんです!窓を割ったのもこの生徒の仕業です!!」

そんな山河と相澤夕梨花を冷めた目で見ている華野崎蓮。

「山河先生はこの生徒が窓を割った瞬間を見たんですか?」

「えっ⋯いや⋯ですが!相澤がそんな事をする訳ありません!!それに比べてこの生徒は一般生徒で素行が悪⋯」

宮ノ内に問われた山河は必死に弁解するが、彼の射殺す様な視線に耐えられず黙ってしまう。

「見たわけでもないのにこの生徒のせいにしたんですか?何故ですか?彼女が一般家庭の生徒で、この生徒の親が弁護士だからですか?」

宮ノ内の的を得ている発言に何も言えない山河。

「その汚い手を離して下さい」

愛華を押さえていた教師の手を掴み後ろに突き飛ばした宮ノ内の目は狂気に満ちていた。

「大丈夫じゃないですね。ガラスでの怪我も首にありますね⋯本当に忌々しい」

愛華の首に手を這わせて流れる血を拭い、唖然とする夕梨花にとても静かで狂気じみた怒りを滲ませる。愛華はそんな宮ノ内を見て近藤茉莉奈の件を思い出してしまう。

「ねぇ⋯私は大丈夫だから。これ以上何もしないで⋯」

必死に宮ノ内を説得するが、彼の憎悪は夕梨花と山河に向けられていて⋯決して離さないだろう。

「まぁ、今は愛華の手当てが先です。透き通るような綺麗な肌が台無しですよ」

「いちいちキモいんだよ!」

悪態を吐く愛華だが、いつもの宮ノ内に戻ったのでホッとしていた。

香坂に愛華を保健室に連れていくように指示した宮ノ内は、彼女が見えなくなったのを確認すると次の瞬間に華野崎蓮を殴っていた。華野崎は分かっていたのか驚かずに受け入れた。

「お前のせいで愛華が傷ついた。お前の素行に興味はないが愛華が巻き込まれた以上⋯分かっているな?」

冷酷で狂気に満ちた宮ノ内は酷く綺麗で、恐怖で体が震えているのに魅入ってしまう教師達や夕梨花。だが華野崎の発言でこの場が凍りつく事になる。

「⋯はい。自分の犯したミスは自分で“片付けます”」



















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