上 下
79 / 140
8章 アレクシアと竜の谷の人々

問題を解決して帰りましょう!!

しおりを挟む
今まで黙って聞いていたミルキルズが徐に立ち上がる。竜の里で最も絶大な力を持つ初代族長に皆の視線が集中するのは仕方がない。ミルキルズは顔を真っ赤にして怒りに震えプルプルしているアレクシアの元へ歩いて行き静かに話し出した。

「アレクシアよ。彼奴はお前が思っている以上に危険じゃ、分かっておるな?」

普段では考えられない真剣なミルキルズの意見に、流石にアレクシアも何も言えずに黙って頷くしか出来ない。

「この竜の里の初代族長として、そして愛するひ孫を思っての意見じゃ。彼奴も竜族の端くれよ。もし人族の国に連れて行けば天災級の惨事を起こす恐れもある。お前やルシアード殿がどんなに強くても他の人族は弱い。守れる自信があるのか?」

「⋯シアの考えは甘いかもしれまちぇんが、でもアランカルトはもっと世界を知るべきでしゅよ!世界を知れば変わるとシアは信じてましゅから!」

お互いに見つめ合い視線を逸らさないミルキルズとアレクシア。

「それでもわしは反対じゃ!!」

「何と言われようとも連れて行きましゅ!!」

「おい!二人とも落ち着いてくれ!アレクシア、爺様も反対だそうだ。この件は俺達が⋯「待て!ゼストよ、まだ話は終わっておらん!」

二人の間に仲裁に入ったゼストを一喝して睨み付けるミルキルズ。そんな初代族長の迫力に一礼して引き下がるしか無いゼストやリリノイス。そして他の竜族もピリついた緊張感に包まれている。デズモンドやポーポートス、ランゴンザレスといった魔国組はあくまでも竜族の問題の為、静かに事の流れを見守っている。そして父親であるルシアードは隣に座るアレクシアの手を握り、今の所は話を黙って聞いている。

「アレクシア、わしとてお前を責めてばかりの鬼畜では無いわい!良い解決方法があるぞ?」

「ミル爺⋯まさか処刑するんでしゅか!?あんまりでしゅよ!確かにロウに怪我を負わせたのは許せましぇんがまだ更生のチャンスがあると思うんでしゅ!なのに酷すぎましゅ!鬼畜ジジイーー!馬鹿ちんジジイーー!しゅっとこどっこいジジイーー!」

怒り爆発したアレクシアの背中をさすりながら優しく宥めるルシアードだが、今回はミルキルズの意見に賛成なのであえて何も言わない。そんなルシアードに嫉妬し、睨み付けているのは魔国国王であり自称(?)アレクシアの婚約者でもあるデズモンドだ。

「アレクシアよ!最後まで話を聞くんじゃ!地味に傷ついてるぞ、わしは!?」

「うるちゃーーい!!シアは怒りまちた!!アランカルトを連れて出て行きまちゅ!!」

そう言うと、椅子からずり降りてよちよちと出て行こうとするアレクシアに皆が焦り出して止めようとする。

「おい!ミルキルズ様の言っている事は正しいぞ!!彼奴は危険なんだぞ!!」

「ウリボは黙ってて下しゃいな!!」

「ウリドだ!全く⋯」

屈強な大男に食ってかかる豆粒の迫力に⋯

「ランしゃん!!その大事なピンクのスーツを真っ黒にしまちゅよ!!」

「まぁ!!酷い子だわ!!不良よ!!ここに不良がいるわ!!」

ランゴンザレスの不良発言に飲んでいたお茶を吹き出して大笑いするポーポートスとロウゴイヤ。

「少し落ち着け!な?」

「ジジイ!お世話になりまちた!!さようならでしゅね!」

「そんな事を言うんじゃない!さよならとか言うな!!」

突然のゼストの本気の怒りに驚くアレクシアと一瞬にしてその場の空気がピリつく室内。

「思って無くてもさよならとか出て行くとか言うんじゃない!!俺達がそれを聞いてどんな気持ちになるか分かるか?もうあの時の様な気持ちにさせるな!⋯⋯悪いな。冷静になるからお前も座れ。」

「⋯⋯ジジイ、ごめんなしゃい⋯」

ゼストの悲痛な叫びを聞いて激怒していたとはいえ自分が言ってしまった配慮がない言葉に反省するアレクシア。トボトボとまた席に座ろうとするアレクシアを何も言わずに抱っこしてあげるゼスト。抱っこしてあげようと思って手を伸ばしたルシアードはその光景を見て何も言わずに溜息を吐いた。

「あー⋯アレクシアよ。わしも言葉足らずじゃった。反対は反対じゃが、条件によっては許可を出そう」

「え?⋯⋯ミル爺!本当でしゅか?嘘じゃないでしゅよね?もし嘘だったら鱗全部剥がしの刑でしゅからね!!」

「うぅ!!地味に痛そうじゃのぅ⋯」

アレクシアの鬼畜な刑にやや引き気味のミルキルズ。

「で?条件はなんでしゅか?あ、お金はないでしゅよ?」

「そんな事じゃないわい!彼奴を専属執事にするんならわしも一緒に専属執事として連れて行ってくれ!!わしと言う最強の竜族がお前を守っておれば彼奴は何もできんし、させんぞ!!」

「ミル爺もシアについて来るんでしゅか?」

アレクシアは何故かすんなりと受け入れていた。ミル爺は絶対についてくると思っていたからだ。それに専属執事はちょっと面白い。だがミルキルズの爆弾発言について行けずに皆は黙ったままだ。孫であるゼストは脳天気なミルキルズの発言に驚き、リリノイスは眉間に皺を寄せて頭を抱えている。静かに聞いていたウロボロスも呆れている。

「⋯⋯は?」ルシアードは露骨に不快感を露わにする。

「はぁ⋯まぁそんな気がしていた」ポーポトスはそう言って茶を啜る。

「これはライバルなのか⋯味方にするには⋯」ぶつぶつと一人、対策を練るデズモンド。

「ああ!不良がどんどん増えてくわ!!」悲壮感を出して泣いているフリをするランゴンザレス。

竜の里の絶対的な存在の言葉に反論したくてもできない竜族の皆は、結局ミルキルズに無理矢理押し通された形でこの集会は終わった。プニやピピデデ兄弟や子竜達もアレクシアと行きたかったが大人達が何も言えないのに言えるわけもなく泣きながら帰って行った。

それから直ぐにアランカルトの元に報告しに来て現在に至る。そしてウロボロスも動き出すのであった。






しおりを挟む
感想 1,230

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか

砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。 そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。 しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。 ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。 そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。 「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」 別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。 そして離婚について動くマリアンに何故かフェリクスの弟のラウルが接近してきた。 

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。