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第8話: アイテムボックスからまた取り出された!?
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部屋に籠もっていた俺は、溜息をつきながら窓の外を見ていた。
ダルクさんとの衝突の後、彼の苛立ちの理由も理解できないまま、心が落ち着かない。
俺だって、別にここで無駄に揉めたいわけじゃない。
彼があんな態度を取るからには、きっと何か理由があるんだろうと思う。
でも、それをいちいち聞いていられるほど、俺は寛容じゃない。
せめてもう少しわかりやすかったらいいのに。
そうしたらきっとーー
そんな時、不意に頭の中に低く響く声が聞こえた。
「…そろそろ準備は整った…あの存在をこちらへ…」
耳を疑い、辺りを見回す。
誰もいないはずの部屋で、一体何が起こっているんだ?
待って、あれ?こんなこと前にもあったような……
はっと気づいた瞬間、視界が真っ白に染まり、足元が崩れるような感覚に襲われる。
「え、ちょ、まっ…」
抵抗する暇もなく、気がついた時には俺は見知らぬ土地に立っていた。
見慣れない青い空と広がる大地。周りに建物や人影はなく、ただの荒野が広がっている。
「…ここ、どこだ…?」
茫然としたまま、足元の砂を踏みしめる。
誰かの気配を常に感じられた魔王の城とは違う…寂れた物悲しい雰囲気が漂っていた。
どうして突然こんな場所に…?
部屋で聞いたあの声。これってやっぱり、またアイテムボックスに「取り出された」ってことなのか?
そんなことを考えていると、不意に背後から人影が近づいてきた。
「見つけたぞ…君が陽太だな!」
驚いて振り返ると、そこには見知らぬ男性が立っていた。
金髪に青い瞳、背が高く、どこか堂々とした雰囲気をまとっている。
この世界には俺以外人間はいないと聞いていたが、なんと彼は人間だった。
「えっと…あんた、誰?」
俺の問いに男はにやりと笑みを浮かべ、自分を「山田直樹」と名乗った。
馴染みのある名前の響き。どうやら同じ日本人のようだ。
「俺は勇者としてこの世界に召喚されたんだ。悪しき魔王を討つためにな。聞いたぞ、君がその魔王に捕らわれているって」
「え、待って、捕らわれてるって…?」
その言葉に驚き、言葉を失う。
捕らわれてる?俺が?
確かにダルクさんには監視されているようなものだったけれど、それは監禁って意味じゃない…よな?
「長期間魔王城にとらえられ、酷い扱いを受けていると聞いた。安心してくれ。俺は君の味方だ。君を助けるために俺は今ここにいる」
山田…いや、直樹の言葉が信じられないまま、俺は少しずつ冷静さを取り戻し、彼に状況を説明しようと試みた。
「ちょっと待ってくれよ。確かに俺は魔王の城にいたけど、別に監禁とかされてるわけじゃ…いや、まあ確かに自由ではないけど、あれは…」
「混乱しているのだろう?もう大丈夫。捕らわれて怖かったな」
彼は俺の言葉を聞かずに勝手に話を進めてしまう。
何度か反論してみたが、結果は全く同じだった。
話しているうちに直樹が勘違いしている理由も、少しずつ見えてきた。
この国が彼を召喚した際、俺のことを「魔王に囚われた犠牲者」として伝えたらしい。
突然召喚されて自分は勇者だと言われ魔王の話を聞いて、同郷の者が囚われ身で酷い目にあっていると聞けば、俺もそれを信じるかもしれない。
なぜそんな風に捻じ曲がったのかはわからないが、もちろんそんな事実はないわけで。
直樹の誤解を解くために話そうとするが、やはり彼は俺を安心させることに夢中で、俺の話をまともに聞いてくれない。いい奴感はすごいのに。
「待って、直樹。本当に聞いてくれ!確かにダルクさんは魔王城から出してくれないけど、俺を危険から守るためだったんだ…多分」
自分でも半信半疑ながらも、フェリスの言葉が頭をよぎる。
俺が何かしようとするとき、ダルクが過剰に口を出してくるのは、実は俺を守ろうとしているからだとフェリスは言っていた。
もし、それが本当なら…直樹の言う「捕らわれている」という表現は、やっぱり間違っているんじゃないか?
「守る?魔王が?そんなことあり得るのか?」
直樹が俺を疑いの目で見るが、俺は彼に真剣に向き合い、もう一度話す。
「わかんないけど、でも少なくとも俺がここに来てからダルクさんは一度も俺に危害を加えたことはないし、むしろ何かと守ろうとしてくれてたと思う…多分」
俺の言葉に、直樹は困惑したように眉をひそめた。
全部俺の予想の域を越えられないから、語尾が弱くなってしまうのはしょうがない。
それでも、俺のせいでダルクさんが悪く言われているみたいで、それもなんだか嫌だった。
ムカついて避けたことはたくさんあったけど、悪い人じゃないことだけはわかっているつもりだ。思い浮かべているうちに喧嘩して別れた時の、困惑したダルクさんの表情を思い出す。
離れることになるなら、あの時逃げずにもっと話せばよかったな。
守られて安心していたからあんな軽口が言えたんだ。
ここがどこかも、これからどうなるのかもよくわからない、足場のないような不安に俺は唇を噛んだ。
ダルクさんとの衝突の後、彼の苛立ちの理由も理解できないまま、心が落ち着かない。
俺だって、別にここで無駄に揉めたいわけじゃない。
彼があんな態度を取るからには、きっと何か理由があるんだろうと思う。
でも、それをいちいち聞いていられるほど、俺は寛容じゃない。
せめてもう少しわかりやすかったらいいのに。
そうしたらきっとーー
そんな時、不意に頭の中に低く響く声が聞こえた。
「…そろそろ準備は整った…あの存在をこちらへ…」
耳を疑い、辺りを見回す。
誰もいないはずの部屋で、一体何が起こっているんだ?
待って、あれ?こんなこと前にもあったような……
はっと気づいた瞬間、視界が真っ白に染まり、足元が崩れるような感覚に襲われる。
「え、ちょ、まっ…」
抵抗する暇もなく、気がついた時には俺は見知らぬ土地に立っていた。
見慣れない青い空と広がる大地。周りに建物や人影はなく、ただの荒野が広がっている。
「…ここ、どこだ…?」
茫然としたまま、足元の砂を踏みしめる。
誰かの気配を常に感じられた魔王の城とは違う…寂れた物悲しい雰囲気が漂っていた。
どうして突然こんな場所に…?
部屋で聞いたあの声。これってやっぱり、またアイテムボックスに「取り出された」ってことなのか?
そんなことを考えていると、不意に背後から人影が近づいてきた。
「見つけたぞ…君が陽太だな!」
驚いて振り返ると、そこには見知らぬ男性が立っていた。
金髪に青い瞳、背が高く、どこか堂々とした雰囲気をまとっている。
この世界には俺以外人間はいないと聞いていたが、なんと彼は人間だった。
「えっと…あんた、誰?」
俺の問いに男はにやりと笑みを浮かべ、自分を「山田直樹」と名乗った。
馴染みのある名前の響き。どうやら同じ日本人のようだ。
「俺は勇者としてこの世界に召喚されたんだ。悪しき魔王を討つためにな。聞いたぞ、君がその魔王に捕らわれているって」
「え、待って、捕らわれてるって…?」
その言葉に驚き、言葉を失う。
捕らわれてる?俺が?
確かにダルクさんには監視されているようなものだったけれど、それは監禁って意味じゃない…よな?
「長期間魔王城にとらえられ、酷い扱いを受けていると聞いた。安心してくれ。俺は君の味方だ。君を助けるために俺は今ここにいる」
山田…いや、直樹の言葉が信じられないまま、俺は少しずつ冷静さを取り戻し、彼に状況を説明しようと試みた。
「ちょっと待ってくれよ。確かに俺は魔王の城にいたけど、別に監禁とかされてるわけじゃ…いや、まあ確かに自由ではないけど、あれは…」
「混乱しているのだろう?もう大丈夫。捕らわれて怖かったな」
彼は俺の言葉を聞かずに勝手に話を進めてしまう。
何度か反論してみたが、結果は全く同じだった。
話しているうちに直樹が勘違いしている理由も、少しずつ見えてきた。
この国が彼を召喚した際、俺のことを「魔王に囚われた犠牲者」として伝えたらしい。
突然召喚されて自分は勇者だと言われ魔王の話を聞いて、同郷の者が囚われ身で酷い目にあっていると聞けば、俺もそれを信じるかもしれない。
なぜそんな風に捻じ曲がったのかはわからないが、もちろんそんな事実はないわけで。
直樹の誤解を解くために話そうとするが、やはり彼は俺を安心させることに夢中で、俺の話をまともに聞いてくれない。いい奴感はすごいのに。
「待って、直樹。本当に聞いてくれ!確かにダルクさんは魔王城から出してくれないけど、俺を危険から守るためだったんだ…多分」
自分でも半信半疑ながらも、フェリスの言葉が頭をよぎる。
俺が何かしようとするとき、ダルクが過剰に口を出してくるのは、実は俺を守ろうとしているからだとフェリスは言っていた。
もし、それが本当なら…直樹の言う「捕らわれている」という表現は、やっぱり間違っているんじゃないか?
「守る?魔王が?そんなことあり得るのか?」
直樹が俺を疑いの目で見るが、俺は彼に真剣に向き合い、もう一度話す。
「わかんないけど、でも少なくとも俺がここに来てからダルクさんは一度も俺に危害を加えたことはないし、むしろ何かと守ろうとしてくれてたと思う…多分」
俺の言葉に、直樹は困惑したように眉をひそめた。
全部俺の予想の域を越えられないから、語尾が弱くなってしまうのはしょうがない。
それでも、俺のせいでダルクさんが悪く言われているみたいで、それもなんだか嫌だった。
ムカついて避けたことはたくさんあったけど、悪い人じゃないことだけはわかっているつもりだ。思い浮かべているうちに喧嘩して別れた時の、困惑したダルクさんの表情を思い出す。
離れることになるなら、あの時逃げずにもっと話せばよかったな。
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