上 下
7 / 14

第6話: 最近少し優しくなった?

しおりを挟む
 毎日が息苦しい。
 部屋を出るたびに、魔王であるダルクさんがどこからともなく現れて、俺を監視するような視線を送ってくる。

 もう、いい加減にしてほしい。なんでこんな毎日監視されて、自由を奪われなきゃいけないんだ。

 フェリスに話を聞いてから、俺なりに何度も彼に理解を示そうと努力してきたつもりだった。けれど、ダルクさんからあまりにも冷たい態度が毎回返ってくるせいで、俺の心はついに折れた。

 悶々としながら部屋に篭もる生活が続く中、俺のそばにはいつもフェリスがついてくれていた。
 小柄で柔らかな雰囲気を持つ可愛い獣人で、どうやらダルクさんを慕っているらしいけど、何かあって俺が凹むたびに優しく声をかけてくれる。

 俺にとって、今や彼だけが頼りの存在だった。


 ある日の午後、ダルクさんが仕事で席を外していると聞き、俺は思い切ってフェリスに本音をぶつけてみることにした。
 あの冷たい魔王について、少しでも本当のことが知りたくなったから。

「ねえ、フェリス。ダルクさんって、普段からあんな感じなの?俺には全然心が読めないんだけど」

 フェリスは少し困ったように微笑み、首をかしげた。

「そう感じられるのも無理はないと思います。ダルク様は昔から、自分の気持ちを素直に表すのがとても苦手でして…」

「苦手?あの人が?」

「あの方は幼少の頃から王としての教育を受けておられ、他の方と親しく話した経験がほとんどないのです。そのため、自然に感情を表現したり、自分の思いを伝えたりするのが得意ではないのです」

 そんな話を聞かされても、信じがたい。
 あの冷たい態度が実は「苦手さ」から来ているというのか?

 でも、フェリスの屈託のない表情を見ると、彼が嘘を言っているようには見えなかった。

「それでも、俺にはただの監視にしか感じられないんだけど」

 俺は正直に不満を口にする。
 だって監視じゃなくて守るためなら、もう少し優しく接してくれてもいいんじゃないかと思う。

 フェリスはふっと笑って頷いた。

「確かにそうとも感じられますよね。ただ、ダルク様は陽太様を守ろうとしているのです。本当は、陽太様がこの世界で安全に過ごせるよう、心を砕いておられるのですよ」

「心を砕いてる…?」

 似合わなすぎるその言葉に驚き、俺は思わずフェリスを見つめ返す。
 あの魔王がそんなことをするなんて、どうにもピンとこない。

「はい。ダルク様は陽太様がこの城に突然現れた時から、どのように安全を確保できるかをずっと考えておられます。あの方が不器用なために、上手く伝えられていないだけなのです」

 フェリスの言葉が本当なら、俺が感じていた「監視」や「束縛」は、実は本当に「保護」や「観察」だったというのか?

 そう思って彼の行動を思い返してみると、確かに過剰なほど近くにいるのは、俺に危害が及ばないようにするためだったのかもしれない。

 けど、それならどうしてもっとわかりやすく言ってくれないんだよ…。

 そんな考えが浮かんできた瞬間、不意にドアが開き、ダルクさんが部屋に入ってきた。
 驚いて視線を向けると、彼は一瞬こちらを見て、少し目をそらしながら言葉を発した。

「…問題なく過ごしているか?」

 その問いかけには、以前と違ってほんの少し柔らかさが感じられた…気がする。
 彼の不器用な優しさが少しだけ理解できたかもしれない。

 俺も単純だよなと苦笑いが浮かぶ。

「問題はありますけど、もう少し様子を見ることにします」

「?」

 俺たちの様子を無言で見つめていたフェリスが、噴き出すように声を出して笑った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

手紙

ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。 そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

七彩 陽
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

虎に嫁いだ燕の花嫁

ゆまは なお
BL
Kindleの身代わりBLアンソロジーに載せた短編です。喬国シリーズ。 喬国宰相、劉家の姫・祥永が病気療養のために身代わりを頼まれた少年が、そのまま姫の身代わりで樺国(かこく)の国主、虎征に嫁ぐことになる。樺国は山中深くにある国で異国の国主と王宮に祥永は目を奪われる。 男子とわかれば殺されると覚悟していたが、予想外に虎征に受け入れられてしまい戸惑う祥永だが……。中華風の身代わり嫁入り物語。

転生したら親指王子?小さな僕を助けてくれたのは可愛いものが好きな強面騎士様だった。

音無野ウサギ
BL
目覚めたら親指姫サイズになっていた僕。親切なチョウチョさんに助けられたけど童話の世界みたいな展開についていけない。 親切なチョウチョを食べたヒキガエルに攫われてこのままヒキガエルのもとでシンデレラのようにこき使われるの?と思ったらヒキガエルの飼い主である悪い魔法使いを倒した強面騎士様に拾われて人形用のお家に住まわせてもらうことになった。夜の間に元のサイズに戻れるんだけど騎士様に幽霊と思われて…… 可愛いもの好きの強面騎士様と異世界転生して親指姫サイズになった僕のほのぼの日常BL

黒髪黒目が希少な異世界で神使になって、四人の王様から求愛されました。

篠崎笙
BL
突然異世界に召喚された普通の高校生、中条麗人。そこでは黒目黒髪は神の使いとされ、大事にされる。自分が召喚された理由もわからないまま、異世界のもめごとを何とかしようと四つの国を巡り、行く先々でフラグを立てまくり、四人の王から求愛され、最後はどこかの王とくっつく話。  ※東の王と南の王ENDのみ。「選択のとき/誰と帰る?」から分岐。

処理中です...