上 下
6 / 6

第5話: あいつがやってきてから退屈を知らない(魔王視点)

しおりを挟む
 陽太がこの城に来て以来、妙な胸騒ぎが続いている。

 この城と周辺の領地を治め、魔族を統べるべく日々の業務に追われる身だが、ふとした瞬間に陽太のことが頭をよぎってしまうのだ。
 何をしているか、うまく過ごせているか、彼が俺を避けようとするあの態度も含め、何もかもが気になって仕方ない。

 今日も朝から一連の会議や執務をこなす中で、彼のことが思い浮かんでは消える。
 そうなると謎の衝動が抑えられず、執務の合間に陽太の部屋の様子を確認することにした。

「異界から来た生物として観察が必要なのだ」と自分に言い訳しつつも、彼に接触することでしか得られない感覚があることに、薄々気づき始めていた。

 部屋に向かい、ノックもせずに扉を開けると、陽太は驚いた顔でこちらを見つめる。

「また来たんですか…」

 その言い方には、どこかうんざりとした響きがあったが、俺は気にせず歩み寄る。

「お前のことが気になってな。問題なく過ごしているか、確認に来た」

「いや、問題なくはないですけど。そもそも、なんでここに閉じ込められてるのか、未だにわからないし…」

 陽太は視線をそらし、不満を隠さずに口にする。
 その態度が、俺の心をかすかに苛立たせるが、それ以上に「どうして俺を避けるのか」が気になって仕方ない。

「お前がここにいる限り、俺が守ってやる。そのためにこうしているのだ」

「守ってるって…俺にはただの監禁にしか思えないんですけど」

 陽太の冷たい視線が突き刺さり、思わず言葉を詰まらせた。
 彼にとっては俺の行為は「守られる」というより「閉じ込められている」としか映っていないのか?

 自分の行動が彼にどう伝わっているのか、上手く把握できず、ただもどかしさだけが募った。

「まあ、お前の言い分も理解しよう。しかし、必要なことだ」

 陽太の視線に耐えかねて、そう言い残し彼の部屋を後にしようとしたが、背後からは小さなため息が聞こえた。


 その後執務に戻ったが、もちろん集中はできなかった。
 さっきの陽太のうんざりした顔、苛立った顔が浮かんでくる。

 最初に会った時はあんな態度ではなかったはずだ。慣れない環境に体調でも崩しているのだろうか?
 何か自分にできることがあるのではと考えてみるが、今までそんな風に他者を気にしたことなどなかった俺には、どうすれば良いのか皆目見当もつかない。

 一通りの業務が終わり、気づけば昼食の時間になっていた。
 俺は昼食を陽太と共に取ることを決め、彼の部屋に向かうことにする。
 再び扉をノックせずに開けると、陽太はまたも驚きつつも不快そうな顔を浮かべていた。

「え、また来たんですか?ノックくらいしてくださいよ…」

「昼食だ。共に食事を取ることにした」

 言葉少なに告げると、彼は不満を押し殺すようなため息をついたが、拒絶するわけでもなく、静かに席につく。
 彼の目がこちらに向けられるたびに、何かを言いたげな表情を浮かべているのがわかる。

「…それで、魔王様は、なんで毎回俺のところに来るんですか?」

「お前が異界から来た存在である以上、観察し見守るのは当然だ」

 俺がそう言うと、陽太の表情がうんざりした顔に変わった。

 何がそんなに不満だというのか。

 陽太が何を考えているのかまるで分からず、自分の中に芽生える苛立ちに気づく。
 今までこんな感情を抱いたことはなく、どう処理していいのかもわからないまま、食事は無言で進んでいった。

 陽太を部屋に残し執務室に戻ったが、やはり心が晴れない。
 陽太の反発や避ける態度に触れるたびに、苛立ちや戸惑いが湧き上がる。

 それでも、どこかその反応に喜びすら感じている自分がいる。

 彼がただの従者や部下とは異なる唯一の存在であることが、確実に俺の生活を変えつつあった。

 こんなに誰かが気になるのも、仕事が手につかないのも初めてのことだ。
 自分でも理解できない謎の衝動や胸騒ぎも。

 彼の存在が、俺の日常にどれほどの変化をもたらしたのかを思い知る。
 だが、不快ではない。むしろこれはーー

 陽太との接触が「楽しい」と感じている自分に驚きを覚えた。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

悪役令息よりも悪いヤツ!

はいじ@11/28 書籍発売!
BL
「物語が始まる前に死のうとするな!お前は、10年後にこの俺(悪役)が殺すんだよ!?」 悪役令息に転生した脚本家(54)が自分の作ったシナリオを守るため、物語の主人公(攻め)をありとあらゆる災厄から守ろうと足掻いた結果、勢い余って救済しちゃう話。 ≪創作キャラ×生みの親≫が繰り広げるコミカル共依存BL——! に、なるハズ。 これから書くのでどうか更新スタートするまで読まずに、ひっそりと待ってて頂けるとありがたいです!!! (2024/10/31現在!!!)

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

騎士団長の溺愛計画。

どらやき
BL
「やっと、手に入れることができた。」 涙ぐんだ目で、俺を見てくる。誰も居なくて、白黒だった俺の世界に、あなたは色を、光を灯してくれた。

天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん
BL
享年59歳、ハッピーエンドで人生の幕を閉じた大樹は、生前の善行から神様の幹部候補に選ばれたがそれを断りあの世に行く事を望んだ。 しかし自分の人生を変えてくれた「アルバード英雄記」がこれから起こる未来を綴った予言書であった事を知り、その本の主人公である呪われた英雄<レオンハルト>を助けたいと望むも、運命を変えることはできないときっぱり告げられてしまう。 しかしそれでも自分なりのハッピーエンドを目指すと誓い転生ーーーしかし平凡の代名詞である大樹が転生したのは平凡な平民ではなく・・? 少年マンガとBLの半々の作品が読みたくてコツコツ書いていたら物凄い量になってしまったため投稿してみることにしました。 (後に)美形の英雄 ✕ (中身おじいちゃん)平凡、攻ヤンデレ注意です。 文章を書くことに関して素人ですので、変な言い回しや文章はソッと目を滑らして頂けると幸いです。 また歴史的な知識や出てくる施設などの設定も作者の無知ゆえの全てファンタジーのものだと思って下さい。

(完)そんなに妹が大事なの?と彼に言おうとしたら・・・

青空一夏
恋愛
デートのたびに、病弱な妹を優先する彼に文句を言おうとしたけれど・・・

お兄様、奥様を裏切ったツケを私に押し付けましたね。只で済むとお思いかしら?

百谷シカ
恋愛
フロリアン伯爵、つまり私の兄が赤ん坊を押し付けてきたのよ。 恋人がいたんですって。その恋人、亡くなったんですって。 で、孤児にできないけど妻が恐いから、私の私生児って事にしろですって。 「は?」 「既にバーヴァ伯爵にはお前が妊娠したと告げ、賠償金を払った」 「はっ?」 「お前の婚約は破棄されたし、お前が母親になればすべて丸く収まるんだ」 「はあっ!?」 年の離れた兄には、私より1才下の妻リヴィエラがいるの。 親の決めた結婚を受け入れてオジサンに嫁いだ、真面目なイイコなのよ。 「お兄様? 私の未来を潰した上で、共犯になれって仰るの?」 「違う。私の妹のお前にフロリアン伯爵家を守れと命じている」 なんのメリットもないご命令だけど、そこで泣いてる赤ん坊を放っておけないじゃない。 「心配する必要はない。乳母のスージーだ」 「よろしくお願い致します、ソニア様」 ピンと来たわ。 この女が兄の浮気相手、赤ん坊の生みの親だって。 舐めた事してくれちゃって……小娘だろうと、女は怒ると恐いのよ?

ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~

空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。 有するスキルは、『暴食の魔王』。 その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。 強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。 「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」 そう。 このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること! 毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる! さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて―― 「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」 コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく! ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕! ※基本的に主人公は少しずつ太っていきます。 ※45話からもふもふ登場!!

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。

処理中です...