化石の鳴き声

崎田毅駿

文字の大きさ
上 下
7 / 13

7.夢と現実

しおりを挟む
 おじいちゃんの方は、落ち着いたもの。できるだけ、おだやかに話を収めようと努力します。
「そうだ。太田仁一郎おおたじんいちろうと言えば、分かるだろう」
 男の人は、胸をそらしました。何だか嫌な態度です。
「いや、あい、すみませんですな。私はこの土地の者じゃないので、存じません」
「……ふん」
 太田は鼻を鳴らすと、仕方がないなという具合に腕組みをしました。それから、じろりと、純子達の方をにらんできます。
 少し恐かったのですが、純子も中森君達も、目をそらしません。
(いきなり怒鳴るなんて、ひどい。いくら、自分の土地だからって……)
 純子は、そんな反感を抱いていました。
 太田は、おじいちゃんの方へと顔を戻しました。
「自分で言うのも何だがね。この町の開発を一手に引き受けているのだよ、我が太田開発は。山林なども、ほとんどがうちの物なんだ」
「それはそれは……」
「ところで、あんた、何をしていたんだ?」
 じろじろとおじいちゃんの全身を眺め、さらには純子達の様子も探るように見てくる太田。
「発掘ですよ」
 おじいちゃんの返答に、太田は首をひねります。
「発掘? 何かね、お宝でも埋まっているのか?」
「まあ、宝と言えば宝ですが……」
 おじいちゃんは、純子達の方を見やってきました。
 そのとき、我慢できなくなったかのように、中森君が叫びました。
「化石だよ! 恐竜の化石があるんだ」
「化石だって?」
 理解できないという風に、太田は首を何度も横に振っています。
「あんた、学者か何かか?」
「学者には違いありませんが……化石は専門外でして」
 素直に、おじいちゃんは打ち明けました。
 太田は、ほっとした表情になって、声を大きくしたようです。
「はっ! 素人か。全く、あんたらみたいなのが、一番、質が悪い。――大昔の動物の骨なんか、探してどうするんだ?」
「それだけで、充分に素晴らしいことじゃありませんかな」
 おじいちゃんは、両手を広げました。
「太古、我々の全く知らぬ巨大生物が生きて、この地球を我が物顔に独占していた。その証拠である化石が、この下に眠っているかと想像するだけで、楽しくなってくるんですがね、私なんかは。この子供達だってそうですよ」
 純子達五人を示すおじいちゃん。
「どうか、ここを発掘する許可をいただけないものでしょうかな」
 おじいちゃんが頭を下げました。
 ところが、太田は鼻で笑ったのです。純子は、ますます腹が立って、仕方がありません。
(何よ。どうして、分からないの。恐竜や化石の素晴らしさを!)
「残念ながら、私は現実主義でね」
 口元をゆがめながら、太田は続けます。タバコを取り出すと、口にくわえてから、火を着けました。
「そんな金にならない化石なんて物に、興味はない」
「恐竜の化石が見つかれば、この町も有名になりますよ、きっと」
「見つかればの話じゃないか。あやふやな話に、耳を貸す余裕はない」
「根拠はあるんですぞ」
 さすがのおじいちゃんも、段々と熱くなってきたみたいです。表情が厳しくなり、額に浮かぶ汗は、夏の日差しのせいばかりではないでしょう。
「ここで見つかったアンモナイトの化石……そこには、恐竜の歯型と思われる穴があったのです」
「いい加減にしてくれ」
 有無を言わさぬ態度とはこのことです。太田は、一喝してきました。
「何と言われようとも、ここは私の土地だ」
 タバコの灰をまき散らしながら、太田は強く主張します。
「私が全ての権利を握っているのだ。その私がだめだと言ったらだめなんだ。いいですかな、今後、ここへの立ち入りは一切、認めない。まあ、すでに持ち出した、アンモ何とかの化石ぐらい、差し上げましょう」
 これで充分だろう。太田の表情は、そんな風に見えました。
「どうしても、ですか」
 おじいちゃんは粘ります。背中から、純子達も応援です。
「どうしても、だ」
 太田はタバコの吸殻を地面に落とすと、足で踏み消しました。
「そんなに反対するからには、この土地には、差し迫った開発の予定があるのですか?」
 おじいちゃんは顔をしかめながら、聞きます。
「……いや、差し当たってはない。いずれ、立派な建物を建てるつもりだがね。何にしても、あんたらみたいな素人に掘り返されるのは、我慢ならないんだよ。昔、開発中に、こんなことがありましてねえ。土地をならしているときに、何とか時代の古ふんが見つかって、そこの教育委員会が開発にストップをかけてきた。おかげで我が社は大損害をこうむった。もう二度と、あんな目にあうのはごめんだね」
「文化、あるいは社会に貢献したことは、世間が認めていますよ」
「そんなこと、一文にもならない。百の尊敬よりも、一円の方がありがたいね、私にとったら」
 とりつく島がありません。太田は、純子達を追い払う仕種を始める始末です。
「さあさあ、帰ってくれ。あんまりしつこいと、警察を呼びますよ。不法侵入には違いないんだ」
「何よ、人を泥棒みたいに!」
 とうとう、純子も堪忍袋の緒が切れました。
「あなたなんか、偉そうにしたって、本当はちっとも偉くないって分かるわ。恐竜の化石が見つかるなんて、特に日本では、すごいことなんだから。それが分からないなんて!」
 太田の顔色が変わりかけました。
 そのとき、おじいちゃんが――。
「やめなさい、純子」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゼロになるレイナ

崎田毅駿
児童書・童話
お向かいの空き家に母娘二人が越してきた。僕・ジョエルはその女の子に一目惚れした。彼女の名はレイナといって、同じ小学校に転校してきて、同じクラスになった。近所のよしみもあって男子と女子の割には親しい友達になれた。けれども約一年後、レイナは消えてしまう。僕はそのとき、彼女の家にいたというのに。

彼女がラッキー過ぎて困ってしまう

崎田毅駿
児童書・童話
“僕”が昔、小学生の頃に付き合い始めた女の子の話。小学生最後の夏休みに、豪華客船による旅に行く幸運に恵まれた柏原水純は、さらなる幸運に恵まれて、芸能の仕事をするようになるんだけれども、ある出来事のせいで僕と彼女の仲が……。

【総集編】アリとキリギリスパロディ集

Grisly
児童書・童話
⭐︎登録お願いします。 1分で読める! 各話読切 アリとキリギリスのパロディ集

【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~

丹斗大巴
児童書・童話
 どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!? *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*   夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?  *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* 家族のきずなと種を超えた友情の物語。

せかいのこどもたち

hosimure
絵本
さくらはにほんのしょうがっこうにかよっているおんなのこ。 あるひ、【せかいのこどもたち】があつまるパーティのしょうたいじょうがとどきます。 さくらはパーティかいじょうにいくと……。 ☆使用しているイラストは「かわいいフリー素材集いらすとや」様のをお借りしています。  無断で転載することはお止めください。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...