闇と光と告白と

崎田毅駿

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二.水晶球の一行 2

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 ランペターの言った仲間とは、ダルスペック、カイナーベル、ネイアス、ザックスなる四人であった。
 ダルスペックは長身で見事な顎髭の持ち主で、目つきが鋭い。金髪のカイナーベルは一行の中では最年少らしく、マリアスより少し上といったところか。唯一の女性がネイアスで、いつも濡れたような瞳をした、やせ気味の若い女だった。ザックスは巨漢で、彼だけは呪術の知識はなく、用心棒として連れ歩いているとのこと。
 一行に与えられた部屋――正しくは、ランペターが選んだ部屋は、北と北西の向きに合計四つの窓がある、元から使っていなかった空室であった。
 城内に迎え入れられたその日から、彼らは呪術の場を設け、部屋の中で儀式めいたものを始めた。国王レオンティールの要望に応えるには、できうる限り正確に、長く、そして盛大に儀式を執り行う必要がある。結果が出るのは、早くても五日目以降になるという話である。

 マリアスにつきっきりのスワンソン。ノックの音に振り返る。
「これは、ディオシス様」
 扉が開かれたそこには、私服姿のディオシス将軍が立っていた。
 スワンソンは急いで立ち上がり、迎えようとする。
「いえ、気遣い無用。それよりも、ずっと姫の側にいて差し上げてください。姫のご様子は?」
「私には何とも……。ロッツコッド医師にも分からないんですから。今のところ、意識が戻ればその間に栄養をつけてもらうということのくり返しですわ」
「そう言えば、呪術師と称する者がマリアス姫の病を治してみせると名乗りを上げ、城内に入ったようだが」
「聞いております」
「王はその者共を信頼されているのだ、私のような一兵卒が意見することではないのだろうが」
「ご心配なのですか? 私もこの目で見た訳ではございませんが、ランペターという呪術師は城内の者しか知らない姫の病のことを知っていたそうですし、国王様の眼前で占術を実際にされたそうですから」
 スワンソンは、呪術師のことを弁護した。彼女にとっては呪術師が本物であろうが偽物であろうが関係なく、マリアスを元気にしてくれることだけが全てだ。
「姫お付きのあなたがそう言うのであれば、私は何も言わないさ」
 何とも言えぬ笑みを口元に浮かべ、ディオシスはきびすを返した。
「もうお帰りですか?」
「ああ。時間もないことだから。姫がお目覚めでなかったのが残念だが……。早いご回復を祈っていると」
 将軍は音を全く立てることなく、部屋を出て行った。

 ランペターらの一行が術を始めてから六日目の朝――。王のところへ、ランペターからの結果がもたらされた。
「失礼いたします」
 例によって謁見の間において、ランペターは一人、王の前に跪く。
「型どおりの挨拶なぞよい。して、結果はどうだったのだ?」
 身を乗り出すようにする国王レオンティール。
 それに対し、ランペターは返答をじらすかのようにゆっくりとした動作で、懐から巻物を取り出した。
「これに全てを記しておきました。ただ、これは我々呪術師の間でのみ用いられる特殊な文字で書かれております故、私自身がお読みいたします」
 そして巻物を広げ、朗々とした声を張り上げた。
「マリアス姫のご病気、その原因は分かりませぬが、軽い湖に沈む銀の貝殻を粉とした物を、灰色の森の奥にひそむ白の野草の汁で溶き、それに炎の山に眠る金剛石を一昼夜浸す。その金剛石を姫の額にあて、半時もすれば熱は収まると、このような結果が導かれましたのでございます」
「うむ……。軽い湖に沈む銀の貝殻とは何だ? 灰色の森とは? 炎の山とは何を意味しておるんだ?」
 困惑し、うろたえ加減のレオンティールとは好対照に、ランペターは落ち着き払った態度で応じた。
「炎の山は簡明でございます。これは火山のことでございましょう。他の二つは、大陸の地図を拝見いたしましたところ、軽い湖とは南東の奥地にある塩湖――トラス湖のことではないかと、想像されます。また灰色の森とは、南部グレンバルト地方の海岸近くに位置する、立ち枯れの木の森を指し示す物と考えられます」
「なるほど、塩湖に銀色の貝殻、立ち枯れの森に野草か……。火山はどこなのだ? 特定できるのか?」
「金剛石の産出する山となれば、ある程度限定されましょう。それに、水晶球に映し出された像を見る限り、この金剛石は無理矢理に掘り出すまでもなく、表面に露出しているように考えられます。さらに、この火山、現在はその活動を止めているはずです。これらの条件に合致する山に、お心当たりございますでしょうか?」
「ふむ。すぐにでも調べさせよう」
 国王の命で、国中の金剛石の採掘がなされている山が列挙された。さらにそれを条件によって絞り込んでいき、最も条件にかなうのは、大陸の最北端にあるノーム山が割り出された。
「これで間違いないのだな?」
 レオンティールの念押しに、ランペターは無言でうなずいた。
 レオンティールの大号令がかかった。
「急ぐのだ! これら三つの品を一刻も早く揃え、マリアスを治す!」

 一日と経たぬ内に、銀色の貝殻、白の野草、金剛石は集められた。そしてすぐさま、ロッツコッドらの手によって、ランペターの言葉の通りの処置が施される。
 その作業は、金剛石のかけらを一昼夜、液体に浸さねばならぬため、最終的には呪術師の言葉がもたらされてから二日目の夜遅く、マリアスの元に金剛石は届けられたことになる。
 ロッツコッド医師が、慎重な手つきで問題の金剛石のかけら――それは小指にする指輪程度の大きさだった――を、マリアスの額に乗せた。
「どうだ?」
 緊張した面持ちで成り行きを見守るレオンティール。マリアスの兄・シーレイとて、それは同じであった。
 ランペターとその弟子の一人、カイナーベルは、部屋の隅に黙ったまま、静かに立っている。
「効かないではないか!」
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