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魔法世界にありそうなのに実はないもの
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「おお」
案の定、メロウ巡査部長も驚いていた。そしてすぐさまリクエストしてきた。
「もう一度やってください」
じゃあ、今度はあなたがカードを混ぜてくださいと、頭を下げてお願いした。また拒まれたので、二度の押し問答を経て、やっと承知させた。やりにくい~。
「混ぜるっていうのは、君と同じやり方でなくてもいいのかい?」
「もちろんです。好きな方法でどうぞ」
彼はサウス巡査補と同様に、机を広く使ってカードを混ぜた。手間が掛かるようだけど、カードを揃えるのは滅茶苦茶早い。この混ぜ方に慣れている人達だからこそ、早いのかも。
とにかくカードを受け取り、全く同じことをやる。今回は○の13が○の4に変化する現象を見せることになった。
メロウ巡査部長は端正な顔の眉間にしわを作り、しばし考え込む様子。少し経ってから、
「下から見てみたいのだけれど、いいかな」
と提案してきた。
「あ、それは……ちょっと待ってください。別のをやります」
そう言って、相手の返事を待たずに、束からカードを十枚、数えて取り分ける。
「ここにあるカードは、全部で十枚ですよね?」
「ああ。そうだね」
返事はこうだったけれど、すでに警戒されているみたい。さっきまでと視線の感じが違う。凝視ってやつで、ちょっと怖いかも。
「でもこうして裏向きに置いていくと」
私は1、2、3……とカウントしながら、カードをリズムよくテーブルに置いていった。十を過ぎてもまだカードが私の手にあることにメロウ巡査部長もビッツも「えっ」と驚き、十三を数えたところで手元が空になる。
「どうでしょうか」
「魔法としか思えないよね、ですよね、メロウさん?」
ビッツが巡査部長の袖を引く。うーむ。ビッツがはしゃげばはしゃぐほど、胡散臭く映らないだろうか。そもそも、私が魔法だと思っているのは、マジックの腕前が急速に上達したことであって、マジックの内容自体は関係ないのだけれども……。
「もう一回、頼みます」
右手の人差し指を立てて頼んできたメロウ巡査部長。
やっぱりおかしいなあ。普通こういう場合、テーブルに置いたカードの枚数を確かめようとするものじゃないのかな。あまりにも素直に過ぎる。これはいよいよ、昨日の内に私が漠然と想像したことが当たっているのかもしれない。
「やります。ただ、その前に一つ、質問させてください」
「何なりとどうぞ」
「えーっと。何て言えばいいのかな。私の国の言葉で話せば、勝手に訳されて伝わると思うんですけど……皆さんは奇術、手品、マジックを知っていますか?」
「『奇術』に『手品』……?」
メロウ巡査部長は眉を顰め、怪訝な顔をした。ビッツも同様で、首を傾げて髪を揺らしている。
「『マジック』は魔術や魔法に近いニュアンスの言葉のようだけれども……」
机の抽斗から帳面を取り出し、結構な勢いでページを繰っていく巡査部長。ほどなくして、手が止まった。
「過去の記録によると、魔術と同じ意味でマジックという言葉を使った異人がいるね」
たとえば黒魔術をブラックマジックと訳せば、魔術イコールマジックだ。
「手品とか奇術は、聞いたこともない概念ですか」
「そのようだねえ」
巡査部長は困ったような苦笑を漏らす。喋りが砕けた感じになっているので、悪い感情は抱かれてないと思うんだけど。
それにしても予想が当たっていて、びっくりだ。この世界に手品・奇術という意味でのマジックは存在しないなんて。多分、魔法が日常的に使われているのがその原因なんだろう。魔法を使えばできるようなマジックを見せても、ここの人は誰も不思議がらない。たとえマジックをやる人がいたとしても、これは魔法によるものだと言い通して、わざわざ種明かしはしまい。
メロウ巡査部長達が今、私のマジックを見て驚いたのは、魔法を使えない異界人がこんな妙な形で魔法を発現した、という意味の驚きなのだ、きっと。役立たずの小手先の魔法と見なすか、それともギャンブルのイカサマに使えそうな厄介な魔法だと見なすか。メロウ巡査部長の判断が、私の今後の命運を左右しそうな予感が起きた。
ここは正直に、今やって見せた行為はマジックといって種も仕掛けもあることなんです、と説明すべきか。それとも後日、王族の人達のギャンブルすることになったときに備えて、マジックは魔法によるものだと頬被りしようか。どう考えたって、後者の方がメリットがあるよね。マジックの腕前が上達する魔法なんて限定的で、役に立てる場面がなかなか思い付かない。
と、そのとき、私の決断をさらに後押しする出来事が私の内で起きた。
――そうだったのか。勘違いしていた。発現した魔法はマジックの腕前が上達することなんかじゃない。
これなら勝てるかも。王族の人達がどんな魔法を使えるのか知らないけれども、優位に立てるのは間違いない。
つづく
案の定、メロウ巡査部長も驚いていた。そしてすぐさまリクエストしてきた。
「もう一度やってください」
じゃあ、今度はあなたがカードを混ぜてくださいと、頭を下げてお願いした。また拒まれたので、二度の押し問答を経て、やっと承知させた。やりにくい~。
「混ぜるっていうのは、君と同じやり方でなくてもいいのかい?」
「もちろんです。好きな方法でどうぞ」
彼はサウス巡査補と同様に、机を広く使ってカードを混ぜた。手間が掛かるようだけど、カードを揃えるのは滅茶苦茶早い。この混ぜ方に慣れている人達だからこそ、早いのかも。
とにかくカードを受け取り、全く同じことをやる。今回は○の13が○の4に変化する現象を見せることになった。
メロウ巡査部長は端正な顔の眉間にしわを作り、しばし考え込む様子。少し経ってから、
「下から見てみたいのだけれど、いいかな」
と提案してきた。
「あ、それは……ちょっと待ってください。別のをやります」
そう言って、相手の返事を待たずに、束からカードを十枚、数えて取り分ける。
「ここにあるカードは、全部で十枚ですよね?」
「ああ。そうだね」
返事はこうだったけれど、すでに警戒されているみたい。さっきまでと視線の感じが違う。凝視ってやつで、ちょっと怖いかも。
「でもこうして裏向きに置いていくと」
私は1、2、3……とカウントしながら、カードをリズムよくテーブルに置いていった。十を過ぎてもまだカードが私の手にあることにメロウ巡査部長もビッツも「えっ」と驚き、十三を数えたところで手元が空になる。
「どうでしょうか」
「魔法としか思えないよね、ですよね、メロウさん?」
ビッツが巡査部長の袖を引く。うーむ。ビッツがはしゃげばはしゃぐほど、胡散臭く映らないだろうか。そもそも、私が魔法だと思っているのは、マジックの腕前が急速に上達したことであって、マジックの内容自体は関係ないのだけれども……。
「もう一回、頼みます」
右手の人差し指を立てて頼んできたメロウ巡査部長。
やっぱりおかしいなあ。普通こういう場合、テーブルに置いたカードの枚数を確かめようとするものじゃないのかな。あまりにも素直に過ぎる。これはいよいよ、昨日の内に私が漠然と想像したことが当たっているのかもしれない。
「やります。ただ、その前に一つ、質問させてください」
「何なりとどうぞ」
「えーっと。何て言えばいいのかな。私の国の言葉で話せば、勝手に訳されて伝わると思うんですけど……皆さんは奇術、手品、マジックを知っていますか?」
「『奇術』に『手品』……?」
メロウ巡査部長は眉を顰め、怪訝な顔をした。ビッツも同様で、首を傾げて髪を揺らしている。
「『マジック』は魔術や魔法に近いニュアンスの言葉のようだけれども……」
机の抽斗から帳面を取り出し、結構な勢いでページを繰っていく巡査部長。ほどなくして、手が止まった。
「過去の記録によると、魔術と同じ意味でマジックという言葉を使った異人がいるね」
たとえば黒魔術をブラックマジックと訳せば、魔術イコールマジックだ。
「手品とか奇術は、聞いたこともない概念ですか」
「そのようだねえ」
巡査部長は困ったような苦笑を漏らす。喋りが砕けた感じになっているので、悪い感情は抱かれてないと思うんだけど。
それにしても予想が当たっていて、びっくりだ。この世界に手品・奇術という意味でのマジックは存在しないなんて。多分、魔法が日常的に使われているのがその原因なんだろう。魔法を使えばできるようなマジックを見せても、ここの人は誰も不思議がらない。たとえマジックをやる人がいたとしても、これは魔法によるものだと言い通して、わざわざ種明かしはしまい。
メロウ巡査部長達が今、私のマジックを見て驚いたのは、魔法を使えない異界人がこんな妙な形で魔法を発現した、という意味の驚きなのだ、きっと。役立たずの小手先の魔法と見なすか、それともギャンブルのイカサマに使えそうな厄介な魔法だと見なすか。メロウ巡査部長の判断が、私の今後の命運を左右しそうな予感が起きた。
ここは正直に、今やって見せた行為はマジックといって種も仕掛けもあることなんです、と説明すべきか。それとも後日、王族の人達のギャンブルすることになったときに備えて、マジックは魔法によるものだと頬被りしようか。どう考えたって、後者の方がメリットがあるよね。マジックの腕前が上達する魔法なんて限定的で、役に立てる場面がなかなか思い付かない。
と、そのとき、私の決断をさらに後押しする出来事が私の内で起きた。
――そうだったのか。勘違いしていた。発現した魔法はマジックの腕前が上達することなんかじゃない。
これなら勝てるかも。王族の人達がどんな魔法を使えるのか知らないけれども、優位に立てるのは間違いない。
つづく
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