ベッド×ベット

崎田毅駿

文字の大きさ
上 下
20 / 24

大魔術中魔術小魔術

しおりを挟む
 水気があると困るだろうからと、大きめのタオルを渡された。お風呂場に入ってみると、確かに湿気が籠もっている。高い位置にある窓を開け放ち、空気を入れ換えることで、だいぶすっきりした。あとはカードを置ける場所を確保する必要があるけれども……さすがに、拭いても拭いてもわずかな水分が残り、気になる。カードは紙製のようだし、借り物なんだから濡らしたくない。最終的に、バスタオルを敷いてその上で扱うのがベターだと判断した。
 そしてお風呂場にてあれこれ試すこと一時間弱(※私の体内時計によると)、何となく掴めてきた。
「魔法って、新しい力が身に付くっていうよりも、元々得意だったけど忘れてしまっていたことを思い出す感覚に近いかもしれない」
 お風呂場から出た私は、ビッツを見付けた。どうなった?と問われたので、少し考えて上のような説明をした。
「具体的には? 何かできるようになってた?」
 興味津々、こちらの手元のカードを見ながら、聞いてくる。
「もちろん教えるけれども、その前に、ご家族の中で魔法を使えるのはヤッフさんだけと言ってたよね」
「ああ、それが?」
「将来、たとえばビッツが魔法を会得するってことはないのかな?」
「自然に身に付くってことはないし、勉強して身に付くってものでもない。唯一、大魔法師っていう位にある人に、眠っている才能を認められて、その人から魔法を掛けてもらったら、いきなり魔法を使えるようになることはあるよ。滅多にないけれどね。何らかの理由で閉じ込められて芽吹かなかった才能の種が、大魔法師の魔法で一気に花開くっていう感じかな」
「ふうん。じゃ、ビッツもナフトさんも魔法の力を持っているかもしれないと」
「可能性はゼロじゃないけど、実際にはねえ。子供の頃に一通り検査を受けて、大抵は分かる。今言った芽吹かなかった才能っていうのは、他の悪い奴の魔法のせいで封印されてたっていうパターンだからね」
「芽吹いたあと、つまり魔法が一度発現したのにまた隠れてしまうこともある?」
 サウス巡査補の「封じる」という言葉を思い出しつつ、聞いてみた。
「自然に消えちゃうなんて話は聞かないけど、力が衰えるってことは時々あるみたいだよ」
「衰えは計測できるものなのかなあ」
「さあ? わざと魔法が使えないふりをして、検問を突破するのに成功した犯罪者がいるっていう話だし、本当に衰えたのと衰えたふりとを区別するのも難しいんじゃない?」
「なるほど、ありがとうね」
「ううん、いいよ。何でそんなこと聞いたのかが気になる」
「それはええと、自分の中でこれが魔法なのか違うのか分からないって言うのがあって」
「どーゆーこと?」
「うーん、やって見せた方が早いと思うから、テーブルのあるところで」
 そう希望すると、ビッツは快く承知してくれた。
「ただし、もうじき夕飯の手伝いをしなくちゃいけないから、なるべく短めにね。あ、母さんも呼ぼうか」
「今はビッツ一人で。大勢だと緊張してしまうかもしれない」
「緊張でできなくなるとしたら、魔法じゃないかも。なんてね」
 ビッツの個室に入り、座卓を間にして座った。
「それでは始めます」
 私は日頃のトランプ遊びで慣れ親しんだ手つきから入った。ヒンズーシャッフルからリフルシャッフル。さらにオーバーハンドシャッフル、再びリフルシャッフルを今度は手を宙に浮かせた状態で。
「おお、お見事」
「これは明らかに魔法じゃないんだけど」
 感心した風に口をオーの形にして、拍手のポーズをするビッツ。どうやら本心から言っているみたいだ。もしかしてこちらの世界には今やったようなシャッフルがないのかな? 思い返してみれば、サウス巡査補もカードをテーブルの上でごちゃ混ぜにしていたし、シャッフルという表現は使わなかったような。あんまり覚えてないけど。
 いちいち驚かれるのも面倒だし……最初に考えていた手順を省略することにした。
 カードの山を裏向きの状態でテーブルに置き、一番上のカードを手に取って、一旦、表を見せる。☆の7だった。これをまた裏向きにして戻してから、改めて左右に振る。再び表向きにすると、それは□の3に変化していた。
「どうかな」
 手を止め、ビッツの表情を窺う。彼女は目をまん丸にして、こちらの手元とカードを見つめていた。やがて一言、
「凄い」
 とだけ呟いた。
 私は会心の笑みを浮かべていたと思う。そうして「マジックが上達する魔法に掛かったみたい」と続けようとした。
 ところがビッツは続けざまに、凄い凄いを連発して、「これは紛う事なき魔法だよ。明日朝一番に行こう」と騒ぎ出す始末。
 何か変だな。
 思わず首を傾げて、少し考えたところでもしやと思い当たる節が浮かんだ。

 つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

厄災の姫と魔銃使い:リメイク

星華 彩二魔
ファンタジー
・pixivで公開していた原作のリメイク版。 ・現在ノベプラなどでも公開している代表作品です。 ・内容が追いつきしだい、毎週水曜の連載とさせていただきます。  何気ない平凡な村で暮らす変わった星の瞳の少女エリー。  彼女にはひと月ほど前の記憶がない。  そんな彼女の前に現れたのは一挺の銃を持った一人の青年クロト。  クロトの語るひと月ほど前に起きた一国の崩壊事件。第一皇女であったエリーはその事件の元凶となった世界の天敵【厄災の姫】である。  訳ありなクロトはエリーを必要とし、エリーはクロトと共に……。  情のない魔銃使いと、呪われた少女。  突き放し、それでも寄り添い、互いは共に旅をする。  例えすべてが敵でも、それが世界でも――  ――【好意】は【偽善】ですか? 【愛情】は重荷ですか? 【愛情】を捨てれば楽になれますか?  互いが互いを必要とする二人の複雑関係ファンタジー。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...