15 / 24
予備テスト
しおりを挟む
「うん、それは禁じた方がいいね」
「で、その法律がいつ成立するかっていうのが、別口のギャンブルとして行われているんだよね」
「なんともはや……」
唖然としてしまうが、まあ、そのこと自体には問題ないからいいのだろう。
「お待たせしました。すみませんね、人手不足で」
待つこと五分強で、再び呼ばれてカウンターへ。特に問題なく、確認できたという。時空間座標軸がどうたらこうたら言われたけれども、よく分からないので省略。要は、いつでも戻れる準備はできましたよってことらしい。
「それから、付き添いの――」
サウス巡査補がビッツの方に手を向ける。
「ビッツ・クレインです」
「クレインさんはこちらの方と初めてお会いして、どのくらいになりますか」
いつ頃会ったのかという意味なんだろうけど、交際暦を尋ねられているみたいに聞こえる。
「四、五時間ぐらい前かな」
「その間、ずっと一緒に?」
「はい。うちにいたので」
「紀野さんに変化は?」
「特にないみたいです」
「そうですか。ではもうしばらく待つとしましょうか」
うん? 待つって何だろう。気持ち、聞き耳を――ウサ耳じゃないよ――立ててみたけれども、それ以上のことは分からない。二人のどちらかが説明してくれる気配もない。
「二度、足を運ぶのも結構面倒なので、できれば簡易テストをしてこの場でっていうわけには?」
ビッツが何やら交渉している。辛抱たまらず、彼女の袖を引いた。
「ねえ、何の話?」
「具体的に言うのはまだだめなんだ。――ですよね?」
巡査補に確認を取るビッツ。相手は大きな動作でうなずいた。
「簡易テストはあくまでも予備的な位置付けでして、確実に判定を下せるものではないのですが、ご希望でしたら対応します。私もそこそこ使えますので」
「じゃあ、お願いします」
勝手に話が進められていく。こちらとしては当然、状況を知りたいのだけれども、詳細を話せないみたいで、その制限自体も気になった。
「では……応接室を使うとします。クレインさんはまたあちらでお待ちください。三十分と掛からないはずです」
「分かりました。お願いしますね」
ビッツはサウス巡査補に小さく頭を下げた。次いでこちらを見て、手を取った。
「ごめんね、おまえさん。細かいことは言えないけど、係の人の言うことを聞いて、その通りにやればいいから。安心して、平常心で」
「う、うん」
分からないまま平常心で何て言われると、逆に緊張が高まるような。
サウス巡査補は奥の扉まで一旦行き、中に一声掛けてから、カウンターから出て来た。
「では行きましょう」
「はあ」
「がんばってね」
ビッツに軽く背中を押され、私はサウス巡査補のあとについて廊下を進み、応接室とやらに入った。
中はこじんまりとした、ザ・応接室って感じの空間だった。いとこが大学の助教をやっていて、私は大学の見学がてらその部屋を訪ねたことがあるけれども、そこよりもちょっとだけ広いかな。大学の個室は奥に長い長方形だった印象があるけど、ここは床が正方形だ。真ん中にローテーブルとそれを囲う形でソファ四脚、奥にはライティングデスク、そして大きめの窓。向かって左手には戸棚や流し台らしき設備があって、簡単なお茶ぐらいは出せる雰囲気。
「どうぞ、好きなソファに座って。外部と接触の可能性をなるべく排除しなければいけないので、カーテンを閉めますね」
彼女がカーテンを閉める間に、出入り口に一番近いソファに腰掛けた。思っていたよりもふかふかだ。背もたれに体重を預けようとすると、身体が沈み込みそうな感覚があった。
「えーっと、それでは」
巡査補は唄うような節回しで言って、揉み手をした。そして思い出した風に、デスクの抽斗を開けて、中からトランプに似たカードの束を取り出した。
「今からこのカードを使って、テストを行います」
巡査補はテーブルを挟んで、私の正面に座った。
「さっき聞こえたと思いますけど、予備的なものなので、特に記録を付けるなどはしません。かたくならずに、落ち着いてやってくださいね」
だから、そんな風に念押しをされると、かえって緊張するんだよな~。少なくとも私はそういうタイプだと自認している。
「このカードにはそれぞれ数字と印が付いています。印は今回、関係ありません。使うのは1から13まで、数の異なる十三枚のカード」
説明しながら、手早く十三枚を選び取るサウス巡査補。使わない残りのカードは、テーブルの端っこに置いた。
「ご覧の通り、1から13までのカードが一枚ずつあるでしょ。印はばらばらだけど」
「はい、分かります」
「これを裏向きにして、よく混ぜて、横一列に並べます」
カードをシャッフルするのではなく、テーブルに置いたまま両手でぐしゃぐしゃに回して混ぜる。一旦集めて揃えてから、上から順番に、裏向きのまま並べていった。
「これから行うのは、ごく単純な数当てです」
つづく
「で、その法律がいつ成立するかっていうのが、別口のギャンブルとして行われているんだよね」
「なんともはや……」
唖然としてしまうが、まあ、そのこと自体には問題ないからいいのだろう。
「お待たせしました。すみませんね、人手不足で」
待つこと五分強で、再び呼ばれてカウンターへ。特に問題なく、確認できたという。時空間座標軸がどうたらこうたら言われたけれども、よく分からないので省略。要は、いつでも戻れる準備はできましたよってことらしい。
「それから、付き添いの――」
サウス巡査補がビッツの方に手を向ける。
「ビッツ・クレインです」
「クレインさんはこちらの方と初めてお会いして、どのくらいになりますか」
いつ頃会ったのかという意味なんだろうけど、交際暦を尋ねられているみたいに聞こえる。
「四、五時間ぐらい前かな」
「その間、ずっと一緒に?」
「はい。うちにいたので」
「紀野さんに変化は?」
「特にないみたいです」
「そうですか。ではもうしばらく待つとしましょうか」
うん? 待つって何だろう。気持ち、聞き耳を――ウサ耳じゃないよ――立ててみたけれども、それ以上のことは分からない。二人のどちらかが説明してくれる気配もない。
「二度、足を運ぶのも結構面倒なので、できれば簡易テストをしてこの場でっていうわけには?」
ビッツが何やら交渉している。辛抱たまらず、彼女の袖を引いた。
「ねえ、何の話?」
「具体的に言うのはまだだめなんだ。――ですよね?」
巡査補に確認を取るビッツ。相手は大きな動作でうなずいた。
「簡易テストはあくまでも予備的な位置付けでして、確実に判定を下せるものではないのですが、ご希望でしたら対応します。私もそこそこ使えますので」
「じゃあ、お願いします」
勝手に話が進められていく。こちらとしては当然、状況を知りたいのだけれども、詳細を話せないみたいで、その制限自体も気になった。
「では……応接室を使うとします。クレインさんはまたあちらでお待ちください。三十分と掛からないはずです」
「分かりました。お願いしますね」
ビッツはサウス巡査補に小さく頭を下げた。次いでこちらを見て、手を取った。
「ごめんね、おまえさん。細かいことは言えないけど、係の人の言うことを聞いて、その通りにやればいいから。安心して、平常心で」
「う、うん」
分からないまま平常心で何て言われると、逆に緊張が高まるような。
サウス巡査補は奥の扉まで一旦行き、中に一声掛けてから、カウンターから出て来た。
「では行きましょう」
「はあ」
「がんばってね」
ビッツに軽く背中を押され、私はサウス巡査補のあとについて廊下を進み、応接室とやらに入った。
中はこじんまりとした、ザ・応接室って感じの空間だった。いとこが大学の助教をやっていて、私は大学の見学がてらその部屋を訪ねたことがあるけれども、そこよりもちょっとだけ広いかな。大学の個室は奥に長い長方形だった印象があるけど、ここは床が正方形だ。真ん中にローテーブルとそれを囲う形でソファ四脚、奥にはライティングデスク、そして大きめの窓。向かって左手には戸棚や流し台らしき設備があって、簡単なお茶ぐらいは出せる雰囲気。
「どうぞ、好きなソファに座って。外部と接触の可能性をなるべく排除しなければいけないので、カーテンを閉めますね」
彼女がカーテンを閉める間に、出入り口に一番近いソファに腰掛けた。思っていたよりもふかふかだ。背もたれに体重を預けようとすると、身体が沈み込みそうな感覚があった。
「えーっと、それでは」
巡査補は唄うような節回しで言って、揉み手をした。そして思い出した風に、デスクの抽斗を開けて、中からトランプに似たカードの束を取り出した。
「今からこのカードを使って、テストを行います」
巡査補はテーブルを挟んで、私の正面に座った。
「さっき聞こえたと思いますけど、予備的なものなので、特に記録を付けるなどはしません。かたくならずに、落ち着いてやってくださいね」
だから、そんな風に念押しをされると、かえって緊張するんだよな~。少なくとも私はそういうタイプだと自認している。
「このカードにはそれぞれ数字と印が付いています。印は今回、関係ありません。使うのは1から13まで、数の異なる十三枚のカード」
説明しながら、手早く十三枚を選び取るサウス巡査補。使わない残りのカードは、テーブルの端っこに置いた。
「ご覧の通り、1から13までのカードが一枚ずつあるでしょ。印はばらばらだけど」
「はい、分かります」
「これを裏向きにして、よく混ぜて、横一列に並べます」
カードをシャッフルするのではなく、テーブルに置いたまま両手でぐしゃぐしゃに回して混ぜる。一旦集めて揃えてから、上から順番に、裏向きのまま並べていった。
「これから行うのは、ごく単純な数当てです」
つづく
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
コイカケ
崎田毅駿
大衆娯楽
いわゆる財閥の一つ、神田部家の娘・静流の婚約者候補を決める、八名参加のトーナメントが開催されることになった。戦いはギャンブル。神田部家はその歴史において、重要な場面では博打で勝利を収めて、大きくなり、発展を遂げてきた背景がある。故に次期当主とも言える静流の結婚相手は、ギャンブルに強くなければならないというのだ。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
江戸の検屍ばか
崎田毅駿
歴史・時代
江戸時代半ばに、中国から日本に一冊の法医学書が入って来た。『無冤録述』と訳題の付いたその書物の知識・知見に、奉行所同心の堀馬佐鹿は魅了され、瞬く間に身に付けた。今や江戸で一、二を争う検屍の名手として、その名前から検屍馬鹿と言われるほど。そんな堀馬は人の死が絡む事件をいかにして解き明かしていくのか。
職能呪術娘は今日も淡々とガチャする
崎田毅駿
ファンタジー
ガウロニア国のある重要な職務を担うラルコ。彼女は、自分達のいる世界とは異なる別世界から人間を一日につき一人、召喚する能力を有しどういていた。召喚された人間は何らかの特殊能力が身に付く定めにあり、遅くとも一両日中に能力が発現する。
現状、近隣諸国でのいざこざが飛び火して、今や大陸のあちらこちらで小さな戦が頻発している。決して大国とは言い難いガウロニアも、幾度か交戦しては敵軍をどうにか退けているが、苦戦続きで劣勢に回ることも増えている。故に戦闘に役立つ者を求め、ラルコの能力に希望を託すも、なかなか思うようなのが来ない。とにかく引きまくるしかないのだが、それにも問題はあるわけで。
観察者たち
崎田毅駿
ライト文芸
夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?
――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。
神の威を借る狐
崎田毅駿
ライト文芸
大学一年の春、“僕”と桜は出逢った。少しずつステップを上がって、やがて結ばれる、それは運命だと思っていたが、親や親戚からは結婚を強く反対されてしまう。やむを得ず、駆け落ちのような形を取ったが、後悔はなかった。そうして暮らしが安定してきた頃、自分達の子供がほしいとの思いが高まり、僕らはお医者さんを訪ねた。そうする必要があった。
忍び零右衛門の誉れ
崎田毅駿
歴史・時代
言語学者のクラステフは、夜中に海軍の人間に呼び出されるという希有な体験をした。連れて来られたのは密航者などを収容する施設。商船の船底に潜んでいた異国人男性を取り調べようにも、言語がまったく通じないという。クラステフは知識を動員して、男とコミュニケーションを取ることに成功。その結果、男は日本という国から来た忍者だと分かった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる