ベッド×ベット

崎田毅駿

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予備テスト

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「うん、それは禁じた方がいいね」
「で、その法律がいつ成立するかっていうのが、別口のギャンブルとして行われているんだよね」
「なんともはや……」
 唖然としてしまうが、まあ、そのこと自体には問題ないからいいのだろう。
「お待たせしました。すみませんね、人手不足で」
 待つこと五分強で、再び呼ばれてカウンターへ。特に問題なく、確認できたという。時空間座標軸がどうたらこうたら言われたけれども、よく分からないので省略。要は、いつでも戻れる準備はできましたよってことらしい。
「それから、付き添いの――」
 サウス巡査補がビッツの方に手を向ける。
「ビッツ・クレインです」
「クレインさんはこちらの方と初めてお会いして、どのくらいになりますか」
 いつ頃会ったのかという意味なんだろうけど、交際暦を尋ねられているみたいに聞こえる。
「四、五時間ぐらい前かな」
「その間、ずっと一緒に?」
「はい。うちにいたので」
「紀野さんに変化は?」
「特にないみたいです」
「そうですか。ではもうしばらく待つとしましょうか」
 うん? 待つって何だろう。気持ち、聞き耳を――ウサ耳じゃないよ――立ててみたけれども、それ以上のことは分からない。二人のどちらかが説明してくれる気配もない。
「二度、足を運ぶのも結構面倒なので、できれば簡易テストをしてこの場でっていうわけには?」
 ビッツが何やら交渉している。辛抱たまらず、彼女の袖を引いた。
「ねえ、何の話?」
「具体的に言うのはまだだめなんだ。――ですよね?」
 巡査補に確認を取るビッツ。相手は大きな動作でうなずいた。
「簡易テストはあくまでも予備的な位置付けでして、確実に判定を下せるものではないのですが、ご希望でしたら対応します。私もそこそこ使えますので」
「じゃあ、お願いします」
 勝手に話が進められていく。こちらとしては当然、状況を知りたいのだけれども、詳細を話せないみたいで、その制限自体も気になった。
「では……応接室を使うとします。クレインさんはまたあちらでお待ちください。三十分と掛からないはずです」
「分かりました。お願いしますね」
 ビッツはサウス巡査補に小さく頭を下げた。次いでこちらを見て、手を取った。
「ごめんね、おまえさん。細かいことは言えないけど、係の人の言うことを聞いて、その通りにやればいいから。安心して、平常心で」
「う、うん」
 分からないまま平常心で何て言われると、逆に緊張が高まるような。
 サウス巡査補は奥の扉まで一旦行き、中に一声掛けてから、カウンターから出て来た。
「では行きましょう」
「はあ」
「がんばってね」
 ビッツに軽く背中を押され、私はサウス巡査補のあとについて廊下を進み、応接室とやらに入った。
 中はこじんまりとした、ザ・応接室って感じの空間だった。いとこが大学の助教をやっていて、私は大学の見学がてらその部屋を訪ねたことがあるけれども、そこよりもちょっとだけ広いかな。大学の個室は奥に長い長方形だった印象があるけど、ここは床が正方形だ。真ん中にローテーブルとそれを囲う形でソファ四脚、奥にはライティングデスク、そして大きめの窓。向かって左手には戸棚や流し台らしき設備があって、簡単なお茶ぐらいは出せる雰囲気。
「どうぞ、好きなソファに座って。外部と接触の可能性をなるべく排除しなければいけないので、カーテンを閉めますね」
 彼女がカーテンを閉める間に、出入り口に一番近いソファに腰掛けた。思っていたよりもふかふかだ。背もたれに体重を預けようとすると、身体が沈み込みそうな感覚があった。
「えーっと、それでは」
 巡査補は唄うような節回しで言って、揉み手をした。そして思い出した風に、デスクの抽斗を開けて、中からトランプに似たカードの束を取り出した。
「今からこのカードを使って、テストを行います」
 巡査補はテーブルを挟んで、私の正面に座った。
「さっき聞こえたと思いますけど、予備的なものなので、特に記録を付けるなどはしません。かたくならずに、落ち着いてやってくださいね」
 だから、そんな風に念押しをされると、かえって緊張するんだよな~。少なくとも私はそういうタイプだと自認している。
「このカードにはそれぞれ数字と印が付いています。印は今回、関係ありません。使うのは1から13まで、数の異なる十三枚のカード」
 説明しながら、手早く十三枚を選び取るサウス巡査補。使わない残りのカードは、テーブルの端っこに置いた。
「ご覧の通り、1から13までのカードが一枚ずつあるでしょ。印はばらばらだけど」
「はい、分かります」
「これを裏向きにして、よく混ぜて、横一列に並べます」
 カードをシャッフルするのではなく、テーブルに置いたまま両手でぐしゃぐしゃに回して混ぜる。一旦集めて揃えてから、上から順番に、裏向きのまま並べていった。
「これから行うのは、ごく単純な数当てです」

 つづく
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