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7.新しい景色
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「私の席を部屋の真ん中辺りにしたのは、撮影しやすいためよね」
「そう。固定カメラで隣の部屋から狙ってた。この部屋で、番組用に手持ちのカメラを回す訳に行かないから。スマホならまだ自然だけど、みんながみんなずっと君を撮ってるのは変になるし」
だから席を替わると言い出したとき、柏田は慌てていたのだ。
「――城ノ内さん、本名というか芸名は何とおっしゃるんですか」
柏田の隣で正座をしている城ノ内は、今は長い髪をひとまとめにしている。
「上谷です。割と自信あったんですが、作り込みが甘かったようで、あなたを含めて色々な方面に面目ない」
まるでお侍のようにきちっと頭を垂れる、城ノ内あらため上谷。舞台を中心に活動してきた役者で、まだまだキャリアは浅い。今回だまし役に選ばれたのは、年齢がぴったりだというのが最大の理由のようだ。
「こちらこそ。今になって考えてみると、気付いたあと、演技をすればよかったんだわ」
「そうよ。お笑い芸人だったら、そのくらいの機転は利くでしょうに」
高石が割って入ってきた。
「私はお笑い芸人じゃないもん。タレントとしても活動再開したばかりで、勘が戻ってなかったというか」
「折角のチャンスなのに」
「いやいや、私程度の知名度のタレントをターゲットに、ドッキリを仕掛ける局があるなんて、想像もできない」
昔は名を馳せたが今は活躍を見なくなった有名人に光を当てる、あの人は今的な番組は多々あるが、今回のドッキリはその延長のようなバラエティ番組らしい。
「お蔵入りになったら残念だけど、結構不思議な体験ができたし、面白かったということで」
「お蔵入りにはさせないから」
高石が力説する。
「気付いてないかもしれないけど、これは町おこしともつながってる話なの。あの映画の第二弾を作ろうっていう企画が持ち上がっていてね。氷川光莉、あなたも主役クラスで」
「ええ? 聞いてないよ」
ドッキリを見破ってちょっといい気分になっていた菱川だったが、これには本当にどっきりさせられた。
「ゴーサインを出すか否かの、リサーチになる予定だったのよ、このドッキリはあなたのことをどれだけの人が覚えていて、どのくらい興味を持たれているか、見極めてるためのね。もちろん、それだけで決定するものじゃないでしょうけど、目安の一つにはなる」
「どうしよう……撮り直しできるのならする? 無理?」
「私はそれでもいいと思ってる」
高石に続いて、柏田も同意を示した。いや、彼だけじゃない。同窓会に集まったみんなが、先生が同じ考えでいる。
「別にあなたのためにってだけじゃないんだから。町おこしのためよ」
何だかツンデレな発言をする高石。当人も自覚があるのか、それとも酒が今頃になって回ってきたか、頬が一層赤くなった。
「だけど、やっぱりあなたを応援したい」
「――」
菱川は声を出そうとしたが、出せなかった。ちょっと泣きそうだった。
そのとき、扉が大きな音を立てて開かれ、柏田の叔父という人物が戻ってきた。
「お取り込み中のようですが、決定が出ましたのでお伝えをば」
「だめなら撮り直しでも何でもしますから」
高石が先走るのに対して、テレビマンは首を横に振った。
「VTRを確認したところ、ばれてしまったあと、周りの人達がきょどきょどして、思った以上に面白い画が撮れていました。あれも含めて編集すれば全く問題なしに行けるだろうってことで。当初の予定とは違いますが、電波に乗せます」
歓声が起こった。六年五組のみんなが抱き合って喜んでいる。
城ノ内こと上谷も拳を握りしめて喜んでいたのは、彼にとってもテレビに出ることはチャンスにつながるのだから当たり前だ。
同窓会に出席するため、扉を開けたら不思議な世界が広がっていた。それは短い間のことで、すぐに終わったけれども。
もう一つ、新しい世界が待っていた。みんなが背中を押してくれたことで、これまでとは違う光景がきっと見られる。
おわり
「そう。固定カメラで隣の部屋から狙ってた。この部屋で、番組用に手持ちのカメラを回す訳に行かないから。スマホならまだ自然だけど、みんながみんなずっと君を撮ってるのは変になるし」
だから席を替わると言い出したとき、柏田は慌てていたのだ。
「――城ノ内さん、本名というか芸名は何とおっしゃるんですか」
柏田の隣で正座をしている城ノ内は、今は長い髪をひとまとめにしている。
「上谷です。割と自信あったんですが、作り込みが甘かったようで、あなたを含めて色々な方面に面目ない」
まるでお侍のようにきちっと頭を垂れる、城ノ内あらため上谷。舞台を中心に活動してきた役者で、まだまだキャリアは浅い。今回だまし役に選ばれたのは、年齢がぴったりだというのが最大の理由のようだ。
「こちらこそ。今になって考えてみると、気付いたあと、演技をすればよかったんだわ」
「そうよ。お笑い芸人だったら、そのくらいの機転は利くでしょうに」
高石が割って入ってきた。
「私はお笑い芸人じゃないもん。タレントとしても活動再開したばかりで、勘が戻ってなかったというか」
「折角のチャンスなのに」
「いやいや、私程度の知名度のタレントをターゲットに、ドッキリを仕掛ける局があるなんて、想像もできない」
昔は名を馳せたが今は活躍を見なくなった有名人に光を当てる、あの人は今的な番組は多々あるが、今回のドッキリはその延長のようなバラエティ番組らしい。
「お蔵入りになったら残念だけど、結構不思議な体験ができたし、面白かったということで」
「お蔵入りにはさせないから」
高石が力説する。
「気付いてないかもしれないけど、これは町おこしともつながってる話なの。あの映画の第二弾を作ろうっていう企画が持ち上がっていてね。氷川光莉、あなたも主役クラスで」
「ええ? 聞いてないよ」
ドッキリを見破ってちょっといい気分になっていた菱川だったが、これには本当にどっきりさせられた。
「ゴーサインを出すか否かの、リサーチになる予定だったのよ、このドッキリはあなたのことをどれだけの人が覚えていて、どのくらい興味を持たれているか、見極めてるためのね。もちろん、それだけで決定するものじゃないでしょうけど、目安の一つにはなる」
「どうしよう……撮り直しできるのならする? 無理?」
「私はそれでもいいと思ってる」
高石に続いて、柏田も同意を示した。いや、彼だけじゃない。同窓会に集まったみんなが、先生が同じ考えでいる。
「別にあなたのためにってだけじゃないんだから。町おこしのためよ」
何だかツンデレな発言をする高石。当人も自覚があるのか、それとも酒が今頃になって回ってきたか、頬が一層赤くなった。
「だけど、やっぱりあなたを応援したい」
「――」
菱川は声を出そうとしたが、出せなかった。ちょっと泣きそうだった。
そのとき、扉が大きな音を立てて開かれ、柏田の叔父という人物が戻ってきた。
「お取り込み中のようですが、決定が出ましたのでお伝えをば」
「だめなら撮り直しでも何でもしますから」
高石が先走るのに対して、テレビマンは首を横に振った。
「VTRを確認したところ、ばれてしまったあと、周りの人達がきょどきょどして、思った以上に面白い画が撮れていました。あれも含めて編集すれば全く問題なしに行けるだろうってことで。当初の予定とは違いますが、電波に乗せます」
歓声が起こった。六年五組のみんなが抱き合って喜んでいる。
城ノ内こと上谷も拳を握りしめて喜んでいたのは、彼にとってもテレビに出ることはチャンスにつながるのだから当たり前だ。
同窓会に出席するため、扉を開けたら不思議な世界が広がっていた。それは短い間のことで、すぐに終わったけれども。
もう一つ、新しい世界が待っていた。みんなが背中を押してくれたことで、これまでとは違う光景がきっと見られる。
おわり
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