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6.からくり

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 また一つ、新たな可能性を思い付いた。全く別の角度からの発想だ。
(一か八か、やってみよう)
 菱川は城ノ内が別の男子との会話を終えるのを待って、話し掛けた。
「ねえ、城ノ内君。実はなかなか思い出せなくて焦っていたんだけれども、やっと思い出せたことがあったわ」
「え、何?」
「五年生のとき、城ノ内君達と裏の山に、理科の自然学習で出掛けたこと、あったわよね」
「あったと思うけど、誰と行ったかまでは覚えてないなあ」
 これまで抜群の記憶力を見せ、ほぼ淀みなく答えてきた城ノ内が、初めて曖昧な返事をした。あるならある、ないならないときっぱり言いそうなものだ。手応えを感じた菱川は、口角が上がるのを抑えて次の矢を放つ。
「おっかしいな。強く印象に残るはずなんだけどなぁ」
「いや……あの頃は内向的で、理科は好きでも外は苦手だったから、忘れようとしてたのかも」
 城ノ内はいくらかへどもどしつつ、菱川とは反対側に座る男子に声を掛けた。助けを求めているかのように見える。
「忘れようたって、忘れられないはずよ。古い時代のお金が地面の下から出て来て、班のみんなだけの秘密にしておこうって、隠したんだから」
「ええ? そうだったっけ」
 上擦った声で応える城ノ内。さっきまでの余裕たっぷりのクールな態度は見る影もない。菱川は確信を得て、一つ頷いた。
「柏田君!」
「はいはい」
 飛んで来た幹事が、何事かと心配そうな目を向けてきた。
「席、変わってもいいでしょ?」
「え、それは……立って移動して、また戻って来るのじゃだめ?
「だめ。じっくり話したい人がいるの」
「だったら、隣を交代してもらうよ」
「何で?」
「そ、それは、やっぱり華のある菱川さんには真ん中に座っていてほしいなと」
「華なら、高石さん一人で充分でしょ。――そうだよね?」
 菱川が当の高石に同意を求めて声を掛ける。高石は急なことに慌てた表情を見せつつも、「え、ええ」とまんざらでもない様子で肯定した。
「そういうことだから」
「えーっと。どこに移りたいのかな」
「出口に一番近いとこ。ここから見れば右側の、ちょっと影になってる席ね。木船きふね君が座ってる。彼だった快く交代してくれるでしょ」
「分かった。聞いてくる。ただ、ちょっと待ってて。その、手洗いに行きたくなったので」
「いいわよ」
 笑顔で柏田を送り出し、その笑みを城ノ内に向けた。そんな菱川の肩を、高石がちょんちょんと触れて、振り向かせる。
「あのね、菱川さん」
「ちょうどよかった。高石さんは城ノ内君のことで、何か覚えてる? 今までに出た以外の、私も知っていそうな話」
「理科と算数の点がよかった、とか」
「そういうんじゃなくって、学校生活でのエピソードみたいなやつ。――もうネタ切れかしら?」
 問い掛ける菱川から視線を外した高石は、そのまま出入り口の戸の方を見やった。菱川もそちらへ向き直る。
 ちょうど柏田が、扉の隙間から上半身だけ覗かせ、左右の人差し指で×を作るのが見て取れた。
「――菱川さん、あなたってそんなに底意地が悪かったっけ?」
「ん? 何のこと? 芸能界で多少は鍛えられて、そうなったかもしれないけれども」
「とぼけなくていいわ。途中で気付いたんでしょう?」
「ということは、今の×が合図なのね。ドッキリ番組の仕掛けだと私に勘付かれたとき、続行か中止かを決める」
 菱川がずばり聞くと、高石はかすかに首を縦に振り、あとは彼に聞いてとばかりに、城ノ内の方へ顎を振った。
「最初は真剣に、記憶がきれいに消されたか、ちょっとずれた世界に迷い込んだのかと思った。一瞬だけど」
「それが狙いですから」
 柏田が丁寧な口ぶりで言って、頭を下げた。
 この企画、そもそもは彼の年の離れた叔父――テレビ番組製作会社勤務――が担当したという。さっきその叔父も姿を見せ、平身低頭して、しかし軽い調子で菱川に謝罪した。今姿が見えないのは、折角撮った素材をどうするか、上と協議するためだとか。
「同窓会に一人、全然知らない人物がいる。でも他のみんなはそいつが誰だか覚えているらしい――そんな状況に置かれたら、どんな反応をするかなっていう」
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