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14.共生に至る道筋

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 心配はじきに現実となった。
 道を歩いていると建物の上階から鉢植えが落ちてきたり、道路を渡ろうと馬車が途切れるのを待っていると何者かに背中を押されたりと、身の危険を感じる出来事が一気に増えたのである。自分には秘密を口外する気なんて毛の先ほどもないのに……。大人しくしていたカミュオンだったが、自宅に火を放たれるに至って、いよいよ深刻に捉えねばと悟り、身を隠した。そして過去の名を捨て、新たに得た名前とともに様々な仕事を転々としている。それが現在の自分です――とクローリー・カミュオンは語った。
 どこまで本当の話なのか、証拠は一つもない。
(私がその上流社会の一員だと明かしたら、こいつはどんな顔をするかな)
 そんな興味もあって、キースは一層、カミュオンと親しく交わった。そうして、少なくともカミュオンが腕利きの探偵だったらしいことには確信が持てた。と同時にキースは、これは利用できるとも考えたのである。
 まず、貴族や金持ち、政治家らのゴシップをいくつか掴んでいることが挙げられる。もちろん詳しくはまだ聞き出せていないが、ハムンゼン家にとって現に、あるいは将来邪魔になる“競合相手”が含まれているのは確実だった。カミュオンと親密になって、手近に置いておくことはいざというときに切り札になり得る。ついでに付け加えるのであれば、敵に回すと弱味を握られる恐れがある。その煩を回避するには、良好な関係を早い内から築くに限る。
 そして何より、カミュオンは汚れ仕事を意に介さない。法を破ることにも、慎重ではああるが必要とあればやってのける。キースも同じ性質の持ち主だと自認していたけれども、覚悟の点ならいざ知らず、腕前・技術となるとカミュオンには到底及ばない。
 ちなみに、カミュオンの探偵としての能力をどうやって確かめたかについては、長くなるのですべては綴らない。が、大学の出入り業者を装ったキースが「解剖実演用に人間の遺体を男女一体ずつ欲しがっているんだ」と所望したところ、二日で手配を完了したし、「大学勤めの知り合いが出世のために恋人と別れたがっている。できれば相手から別れを持ち出すように仕向けたい」と事実に即したトラブルの解決を持ち掛けると、一週間と経たぬ内にきれいに別れられた。
 今ではキースは自分がハムンゼン家の長男であることを明かすとともに、今後カミュオンが過去を暴かれ、追われる身になったとしても絶対に守ってやると約束することで、信頼関係を結んでいる。
(ここのところ、大仕事を立て続けに二つ、任せたからな。懐具合は豊かになったろう。真っ昼間から、平民貴族を気取って遊び歩いていても不思議じゃあない。あまり目立つ振る舞いはするなと言ってあるし、本人も用心深い性格だから大丈夫だとは思うが。当面の問題は、留守だとしたら、どこにいるか見当が付かないってことだ)
 途中、少年に銭をやり、荷馬車で急がせた。朝市に野菜などを搬入して稼いでいる十二ぐらいの子供で、これまでにも何度か足として利用している。目指したのはカミュオンの自宅がある下町の一角だ。
「帰りはいいのかい? 時間と場所を指定してくれりゃあ、向かいに来るけどな?」
「いや、いらん。またの機会があればそんとき頼むわ」
 相手に合わせて粗野な言葉遣いを心掛けるキーズだが、まだ苦手だ。相手を見下して罵倒するのなら朝飯前だが、同じレベルまで下りていって言葉を交わすのは存外難しいところがあった。
「りょーかい。毎度あり」
 駄賃をポケットに入れて道を引き返していく少年。彼の姿が視界から完全に消え去ってから、キースはきびすを返した。
 そそくさと目的の家――平屋石造りの一軒家だが、そこかしこにがたが来ていて、見栄えはしない――に行き、主の在不在を確かめてみる。案の定、留守だった。
(さて、どうするか。近所の連中に聞いて回っても、多分、大丈夫だろうが……今回の件が万が一にも失敗に終わるようであれば、カミュオンとのつながりはなるべく伏せておくに越したことはないからな。変装の腕前は、カミュオンからの手ほどきもあって向上している。だからといって一〇〇パーセントばれないと保証されるものでもない。後々、キース・ハムンゼンの素の似顔絵を見せられた平民どもに、そういえばあのとき、なんて思い出されるような事態があってはならない)
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