栄尾口工はAV探偵

崎田毅駿

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ビクトリーはHな推理に始まる

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「言ってる意味が分からん」
 片方の刑事が切って捨てるかのように述べ、もう片方が大きく頷いた。
 栄尾口は苦笑いを堪えながら、より詳しい説明に努める。
「私も確信はないんです。だからお亡くなりになった他の方達の遺体発見時の写真を拝見したいと考えた。この被害者達の格好は一人の監督が撮った特定のシリーズのパッケージ写真を模しているんじゃないかという仮説を確かめるため」
「ええ? うーん」
 比較的真正面から受け止めてくれたベテラン刑事。若い刑事の方は、「そんなことが言えるなんて、どんだけAV見てるんだ」と小声で侮蔑的に吐き捨てた。
 聞きとがめた栄尾口は内心、力いっぱい否定していた。が、ここで声を荒げても建設的じゃない。より一層の努力をして真顔を作り、応じたものだった。
「あと一点、気に掛かってしょうがない事実があります。私が今思い描いているアダルトビデオ作品はシリーズ物で、一作につき一度、必ず首を絞めるプレイが描かれている」
「首を絞める……絞殺魔か」
 若い刑事もこれには興味を引かれたようだった。とはいえ、短く言ったきり沈黙した彼に代わり、ベテランが口を開いた。
「まだ微妙なところだとしか今は言えんが、分かった、我々の方で調べるとしよう。その監督シリーズ名を教えてくれたら、あんたの推測がビンゴかどうか判断できる。ただ、仮に当たっているとして、こんなことが事件解決の手掛かりにつながると思うのかね?」
 ベテラン刑事が眉間にしわを刻んで尋ねてくるのに対し、栄尾口は相手のプライドを考慮し、「素人考えですが」と前置きした上で始めた。
「衣装を揃えるぐらいだから、犯人は強い拘りを持っている。モチーフにしたシリーズ作品もコンプリートして所持してると思います。しかも作品はDVDやブルーレイのソフトにはなっていない。最近買い揃えたとしたら、多分ネットのリサイクルショップ。辿れるんじゃないですか? また、シリーズは全部で十作ありました。報道で見聞きする限り、連続絞殺事件の犯行は四件だから、五件目の犯行準備を犯人が今まさにしているのであれば、警察側が先手を打つことは充分に可能なはずです」
「ほー、なるほどな」
 結論から言えば、この出来事から三週間弱、栄尾口の仮説をきっかけに、連続女性絞殺犯は捕まった。犯人は何と男女のペアで、男の方の性的欲求及び殺人衝動を満たすために、女が手伝っていた。衣服の購入も二人が手分けして行っていたため、尻尾を掴むことがなかなかできないでいたという。

 つづく
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