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スタッフ紹介
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何はともあれ、栄尾口は連続絞殺魔事件の解決に一役買ったことで(最大瞬間風速的に)一目を置かれた。そして、担当刑事の一人、五所川原警部と親しくなった。
事件解決後も、彼から希に「これこれこういう事件について何か情報はないか」と頼られることがあったのだが、警察へ頻繁に情報提供できるほど街の裏事情に通じてはいないし、他の情報屋の伝も乏しい。そんなとき、五所川原刑事から恐らく冗談半分に言われたのが、アダルトビデオ探しの依頼を募ってみてはどうかということ。
話が出たのは事務所を出て、近所の喫茶店で昼食を摂っているとき。栄尾口自身は右から左へ聞き流そうかという程度の関心しか示さなかったのに、同席していたアシスタントの満原上埜介が食い付いた。
「いいですね、AV探し! 俺もAV嫌いじゃないし、面白そう、やりましょう。AV探しなら潜在的需要が」
「満原君。そう広くない店の中で、AV、AVと連呼しない」
近場でなじみにしている店だから、出入り禁止されたくない。
「大丈夫っしょ。オーディオビジュアルの略だと思ってくれるはず」
満原はその時代がかった下の名前とは対照的に、現代風の若者だった。背が一九〇ほどあって腕力仕事は主に彼が担当する。まだ必要になったことはないが、栄尾口のボディガードでもある。移り気なのか女性との付き合いは長続きしないし、ヘアスタイルをしょっちゅう変える。この日は金色に染めてつんつんに立てていたが、翌日にはどうなっているか分からない。
「君は世代的にはDVDじゃないのかい」
五所川原が面白がる口ぶりで聞いた。若いと言っても満原は三十そこそこ、過渡期ではあったかもしれないが、どちらかと言えばビデオよりもDVD、ブルーレイだろう。
「いや、それがこいつ、それなりに詳しいみたいなんですよ。連続絞殺魔事件の顛末を聞かせたら、そこから話が際限なく広がってしまって」
そう言われて栄尾口に指差された満原は、恥じることなく胸を張った。
「ちょうど昔のAVにはまり始めた頃だったので。今では、ジャケットの写真を見れば雰囲気で制作年を当てられます」
「それは何というか……一応、凄いな」
口を丸くして評価する刑事の前で、栄尾口は首を横に振った。
「正解率一〇〇パーならともかく、前後一年のずれを容認した上で八割程度だったからなあ」
「テストしたのか。そりゃ傑作だ。これはもう立ち上げるしかないぞ、探偵事務所AV部門部門を」
そんなこんなを経て、なし崩し的に始められたAV探しの仕事だったのだが。
“貴殿の心の一本を見付けるお手伝いをさせてください。”とのキャッチフレーズが効いたのか、滑り出しからして順調だった。
開始した当初はまず、ネットを使わない、得意としていない老年世代の依頼が多く、故にネット検索しただけで簡単に見付かることもしばしば。ほとんど実労働なしに結果を出せて、儲かった。
一方で、作品名を特定するだけでは満足しない依頼人が多いことにも、早い段階から気付かされた。作品名が分かればそれを入手し、鑑賞したくなると言うのが人情?というもの。これまたネット上にあるリサイクルショップを当たれば大抵は置いてあった。
が、徐々に商売が難しくなる。あらゆる世代がネットに親しむ時代が到来し、簡単な依頼なんて皆無になった。リサイクルショップもビデオソフトからDVDやブルーレイに移行し始め、買い取りをしなくなる。結果、DVD&ブルーレイ化されないままの作品を見付けるのが、非常に困難になってきた。
そんな折、たまたま知り合ったのが、一人の女子高生。元々は、段ボール箱に入った状態で道端に捨てられていた子猫がどうなったのかを突き止めてほしい飼う気はないけど、という他人事極まりない依頼をしてきたのがきっかけ。どうにかこうにか突き止め、幸せに暮らしているとさと伝えてやると、提示額以上の大金をぽんと払ってくれた。目を白黒させた栄尾口らに、彼女はけろっとして答えたものだ。「家がリサイクルショップやっていて、結構儲かってるの。そうそう、ここAV部門あるわよね。AVも扱ってるから協力体制を敷けたらいいかも」と。
以来、その女子高生、大前田あきらは事務所に入り浸り、アルバイトをするようになった。
つづく
事件解決後も、彼から希に「これこれこういう事件について何か情報はないか」と頼られることがあったのだが、警察へ頻繁に情報提供できるほど街の裏事情に通じてはいないし、他の情報屋の伝も乏しい。そんなとき、五所川原刑事から恐らく冗談半分に言われたのが、アダルトビデオ探しの依頼を募ってみてはどうかということ。
話が出たのは事務所を出て、近所の喫茶店で昼食を摂っているとき。栄尾口自身は右から左へ聞き流そうかという程度の関心しか示さなかったのに、同席していたアシスタントの満原上埜介が食い付いた。
「いいですね、AV探し! 俺もAV嫌いじゃないし、面白そう、やりましょう。AV探しなら潜在的需要が」
「満原君。そう広くない店の中で、AV、AVと連呼しない」
近場でなじみにしている店だから、出入り禁止されたくない。
「大丈夫っしょ。オーディオビジュアルの略だと思ってくれるはず」
満原はその時代がかった下の名前とは対照的に、現代風の若者だった。背が一九〇ほどあって腕力仕事は主に彼が担当する。まだ必要になったことはないが、栄尾口のボディガードでもある。移り気なのか女性との付き合いは長続きしないし、ヘアスタイルをしょっちゅう変える。この日は金色に染めてつんつんに立てていたが、翌日にはどうなっているか分からない。
「君は世代的にはDVDじゃないのかい」
五所川原が面白がる口ぶりで聞いた。若いと言っても満原は三十そこそこ、過渡期ではあったかもしれないが、どちらかと言えばビデオよりもDVD、ブルーレイだろう。
「いや、それがこいつ、それなりに詳しいみたいなんですよ。連続絞殺魔事件の顛末を聞かせたら、そこから話が際限なく広がってしまって」
そう言われて栄尾口に指差された満原は、恥じることなく胸を張った。
「ちょうど昔のAVにはまり始めた頃だったので。今では、ジャケットの写真を見れば雰囲気で制作年を当てられます」
「それは何というか……一応、凄いな」
口を丸くして評価する刑事の前で、栄尾口は首を横に振った。
「正解率一〇〇パーならともかく、前後一年のずれを容認した上で八割程度だったからなあ」
「テストしたのか。そりゃ傑作だ。これはもう立ち上げるしかないぞ、探偵事務所AV部門部門を」
そんなこんなを経て、なし崩し的に始められたAV探しの仕事だったのだが。
“貴殿の心の一本を見付けるお手伝いをさせてください。”とのキャッチフレーズが効いたのか、滑り出しからして順調だった。
開始した当初はまず、ネットを使わない、得意としていない老年世代の依頼が多く、故にネット検索しただけで簡単に見付かることもしばしば。ほとんど実労働なしに結果を出せて、儲かった。
一方で、作品名を特定するだけでは満足しない依頼人が多いことにも、早い段階から気付かされた。作品名が分かればそれを入手し、鑑賞したくなると言うのが人情?というもの。これまたネット上にあるリサイクルショップを当たれば大抵は置いてあった。
が、徐々に商売が難しくなる。あらゆる世代がネットに親しむ時代が到来し、簡単な依頼なんて皆無になった。リサイクルショップもビデオソフトからDVDやブルーレイに移行し始め、買い取りをしなくなる。結果、DVD&ブルーレイ化されないままの作品を見付けるのが、非常に困難になってきた。
そんな折、たまたま知り合ったのが、一人の女子高生。元々は、段ボール箱に入った状態で道端に捨てられていた子猫がどうなったのかを突き止めてほしい飼う気はないけど、という他人事極まりない依頼をしてきたのがきっかけ。どうにかこうにか突き止め、幸せに暮らしているとさと伝えてやると、提示額以上の大金をぽんと払ってくれた。目を白黒させた栄尾口らに、彼女はけろっとして答えたものだ。「家がリサイクルショップやっていて、結構儲かってるの。そうそう、ここAV部門あるわよね。AVも扱ってるから協力体制を敷けたらいいかも」と。
以来、その女子高生、大前田あきらは事務所に入り浸り、アルバイトをするようになった。
つづく
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