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5.ノックの音がした
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「そういう風に受け取ってくださってもかまいませんが、そうしたら次に似たような質問をすることになるかと思います」
「な、何を言ってるの杉原さん」
僕は石切さんの反応を待たず、このある意味傲慢な友達の名を呼び、左肩を揺さぶった。人差し指をちょんと引っ掛けて、我ながら弱々しい力で。
部長からのいささか妙な質問返しにも引っ掛かりを覚えたものの、それ以上に、杉原さんのさらなる返しが、分かっていますよというニュアンスを含んでいるみたいに感じられて、何だか落ち着かなくなったのだ。“えっ、分かってないの、僕だけ?”みたいな。
「ふむ。島田君にも可能性を感じたんだけれども、彼以上に逸材かもしれないね、杉原さんは」
石切部長、ちょっとまえに持ち上げた僕のことを落とさず、杉原さんを褒める。僕は僕で杉原さんの凄さを知っているので、別に悪い気はしない。ただ、そんな話よりも、急速に発達した僕の不安を取り除いてくれっ。
「いえ、とんでもありません。島田君の方が本来なら優れているはずなんです」
「それはまた興味深い。とにかく、杉原さんが状況を掴んでいるらしいとあらば、対応を切り替えなくちゃいけないね。そう、改めて確認させてもらうよ。君のさっきの質問は、今、この部屋にいる君と島田君以外の人間は五名だけかという意味?」
「はい。あ、厳密には“今”ではなく、私達が部屋のドアをノックした段階で、ですけれども」
答える杉原さんはにこにこし出した。話が通じたのが嬉しい? いや、ちょっと違うか。部長さんとのやり取りから推測するに……何かを看破したのか、杉原さんが? そのことを匂わせた質問をして、対する部長さんからの返事が、杉原さんの能力を認めるものだった。だから彼女は今、喜んでいる……のかな。自信が持てないなあ。何せ、この推測が当たっているとしたって、肝心の、ミステリー研究会からの仕掛けが何なのか、僕にはさっぱり分かっていないのだから。
「素晴らしい。その言い方をすることで、正確さが上がった。と同時に、抜け穴などの可能性を念のために考慮に入れていることも分かる」
「あのー」
ついにたまらなくなって、僕は二人の会話に割って入った。
「つまらないことを聞くようですが、石切さんはこちらの杉原さんと一体何についてやり取りをされているんでしょうか」
「島田君はまだ気付いていないようだ」
「あ、何か仕掛けを用意されていたのかなとは想像しています。入部希望者や見学希望者向けの」
「そこに気が付いているのなら、最初を思い出して考えてごらんなさいな」
唐突に第三の先輩の声がして、ちょっとびっくりした。背筋を伸ばしたその声の方を見ると、部長さんの髪以上に長いソバージュをした、ハスキーボイスの女性が肩の高さで手を振ってきた。
僕がどうしたものかと口ごもると、石切さんではなくその女性部員が言葉を続けた。
「最初っていうのは、そっちの彼女――ガールフレンドだか恋人だか知らないが、とにかく彼女の言った通りよ」
「えっと。ノックした時点、ですか」
「そ」
一文字で肯定して、あとは黙る女性部員。会話のバトンはまた部長さんに移った。
「幸か不幸か、入部もしくは見学希望者が来る気配も感じられないし、時間はある。じっくり考えてくれていい」
「あ、いえ、僕らにも予定がありまして」
「何だ、他のところも回るつもりだったか。それならしょうがない。君の都合で動いてくれていいよ。杉原さんはどうする?」
「私は答を知りたいですし、島田君と行動を共にしているので」
「だったら杉原さんから彼に答を教えてあげるのが一番手っ取り早いんだがな」
石切さんからの提案を受け、杉原さんが僕の目を見る。
「そうしよう。それでいいよ」
僕は白旗を掲げた。考えることは嫌いじゃないけれども、今のこの状況そのものが何とも言えず居心地がよくなくて、気持ち悪い。
「いいのね?」
ちょっぴり、いや、かなりがっかりした口ぶりで、杉原さんが言う。表情も同様だ。こういう反応を突きつけられると、僕の内に躊躇いが起きる。杉原さんの期待には、なるべく応えたい。居心地の悪さは我慢して、多少なりとも考えてみよう。
「な、何を言ってるの杉原さん」
僕は石切さんの反応を待たず、このある意味傲慢な友達の名を呼び、左肩を揺さぶった。人差し指をちょんと引っ掛けて、我ながら弱々しい力で。
部長からのいささか妙な質問返しにも引っ掛かりを覚えたものの、それ以上に、杉原さんのさらなる返しが、分かっていますよというニュアンスを含んでいるみたいに感じられて、何だか落ち着かなくなったのだ。“えっ、分かってないの、僕だけ?”みたいな。
「ふむ。島田君にも可能性を感じたんだけれども、彼以上に逸材かもしれないね、杉原さんは」
石切部長、ちょっとまえに持ち上げた僕のことを落とさず、杉原さんを褒める。僕は僕で杉原さんの凄さを知っているので、別に悪い気はしない。ただ、そんな話よりも、急速に発達した僕の不安を取り除いてくれっ。
「いえ、とんでもありません。島田君の方が本来なら優れているはずなんです」
「それはまた興味深い。とにかく、杉原さんが状況を掴んでいるらしいとあらば、対応を切り替えなくちゃいけないね。そう、改めて確認させてもらうよ。君のさっきの質問は、今、この部屋にいる君と島田君以外の人間は五名だけかという意味?」
「はい。あ、厳密には“今”ではなく、私達が部屋のドアをノックした段階で、ですけれども」
答える杉原さんはにこにこし出した。話が通じたのが嬉しい? いや、ちょっと違うか。部長さんとのやり取りから推測するに……何かを看破したのか、杉原さんが? そのことを匂わせた質問をして、対する部長さんからの返事が、杉原さんの能力を認めるものだった。だから彼女は今、喜んでいる……のかな。自信が持てないなあ。何せ、この推測が当たっているとしたって、肝心の、ミステリー研究会からの仕掛けが何なのか、僕にはさっぱり分かっていないのだから。
「素晴らしい。その言い方をすることで、正確さが上がった。と同時に、抜け穴などの可能性を念のために考慮に入れていることも分かる」
「あのー」
ついにたまらなくなって、僕は二人の会話に割って入った。
「つまらないことを聞くようですが、石切さんはこちらの杉原さんと一体何についてやり取りをされているんでしょうか」
「島田君はまだ気付いていないようだ」
「あ、何か仕掛けを用意されていたのかなとは想像しています。入部希望者や見学希望者向けの」
「そこに気が付いているのなら、最初を思い出して考えてごらんなさいな」
唐突に第三の先輩の声がして、ちょっとびっくりした。背筋を伸ばしたその声の方を見ると、部長さんの髪以上に長いソバージュをした、ハスキーボイスの女性が肩の高さで手を振ってきた。
僕がどうしたものかと口ごもると、石切さんではなくその女性部員が言葉を続けた。
「最初っていうのは、そっちの彼女――ガールフレンドだか恋人だか知らないが、とにかく彼女の言った通りよ」
「えっと。ノックした時点、ですか」
「そ」
一文字で肯定して、あとは黙る女性部員。会話のバトンはまた部長さんに移った。
「幸か不幸か、入部もしくは見学希望者が来る気配も感じられないし、時間はある。じっくり考えてくれていい」
「あ、いえ、僕らにも予定がありまして」
「何だ、他のところも回るつもりだったか。それならしょうがない。君の都合で動いてくれていいよ。杉原さんはどうする?」
「私は答を知りたいですし、島田君と行動を共にしているので」
「だったら杉原さんから彼に答を教えてあげるのが一番手っ取り早いんだがな」
石切さんからの提案を受け、杉原さんが僕の目を見る。
「そうしよう。それでいいよ」
僕は白旗を掲げた。考えることは嫌いじゃないけれども、今のこの状況そのものが何とも言えず居心地がよくなくて、気持ち悪い。
「いいのね?」
ちょっぴり、いや、かなりがっかりした口ぶりで、杉原さんが言う。表情も同様だ。こういう反応を突きつけられると、僕の内に躊躇いが起きる。杉原さんの期待には、なるべく応えたい。居心地の悪さは我慢して、多少なりとも考えてみよう。
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