8 / 9
8.
しおりを挟む
「バスケットボールは、遊びの範疇だろう。友達に自慢したいというのもあったのかもしれん。専門のシューズで、高価な商品があるだろ? そういう靴を持っていれば、人気者になれるという訳さ」
「ラジコンカーの他に、ラジコンを買ったことは? たとえばスマートヘリの類とか」
「ドローンか。いや、それはなかった。欲しいというようなことは言っていたが、さすがに危険だと思ってね。高校に入ったら買ってやるか、ぐらいに考えていた。これが事件と関係あるとお考えか?」
「いえ、何とも言えません。スマートヘリがあれば、子供達が時間を潰すのに持って来いだと思ったまでです。ラジコンカーだと、夜、遊ぶのには向いてないでしょう」
流はカップに手を伸ばし、お茶を呷った。その間に、新次郎が口を開く。
「電話で、盛川真麻さんの趣味、興味を持っていた物についても聞いたが、朝郎の好みと被る物は見付けられなかった」
「好きな音楽はどうでしょう?」
「ああ、音楽なら人並みに、女性アイドルグループに興味を持っていた。名前は知らないが、結構人気のある四人組か五人組だった」
「そうですか」
流の口調に落胆が混じる。気付いた新次郎は、「どうした?」と目で問うた。
「真麻さんは、男性ベテラン歌手のファンでした。重なるところがないなと」
「そうか……。まあ仮に同じだったとしたって、中学生が好きになる歌手なんて、重なっても全然不思議じゃない。共通の趣味と言えるほど、顕著な特長ではないだろう。何時間も時間をつぶせる話題だとも思えない」
「その辺りは、捉え方の違いになりそうですね。今は、他の可能性を探るとします。さっきから気になっていたんですが、図鑑とはどのような?」
「図鑑? ああ、朝郎に買ってやったやつか。百科事典の電子書籍版だった。気に入ったらしく、何度も見返していたよ」
再び視線を落とす新次郎。今度よみがえった思い出はよいものらしく、彼の口元には笑みが窺えた。
「いきなり百科事典、それも電子書籍版ですが。私が子供の頃なんて、もっと判の小さい、“ナントカ大百科”的な本でした。言うまでもなく、紙の書籍で」
「ああ、それはうちの子もそうだった。百科事典は中学生になった祝いに、買ってやった物だ。最初に買ってやったこの手の本は、何だったかな。そうそう、宇宙と星に関する本だった」
「以前は、天文に興味があったんですか、朝郎君」
「そうだね。天文というよりも、星座だったようだ。星座や星の名前、それに纏わる神話を記憶し、よくそらんじていた」
「話を聞いた限りだと、朝郎君、そこそこのめり込もうとしていたいたいですね。でも小六から中学生になる頃には、興味を失ったんでしょうか」
流のこの質問に、新次郎は何故か思い出し笑いのようなものを顔に浮かべた。いや、実際に「ふふふ」と笑っている。
「どうかしましたか」
「いや、失礼をした。まさか、こんなことを思い出すとは。朝郎が天文を好きでなくなったのには、理由がある。実に子供らしい理由がね」
「聞かせてください」
事件に関係あるのかどうかは分からない。今は、集められる限りの情報を得ておきたい。その一心から、流は身を乗り出した。
「あれは、息子が小学三年の頃だったか。昨日まで熱中していた星や星座に、見向きもしなくなったし、その手の本を乱暴に扱って書架から抜き出して、仕舞い込むようなこともしていたから、理由を聞いたんだ。すると、『名前でからかわれた』という答が返って来た」
「名前……ああ、“保志”さんと“星”ですか」
「左様。保志の星好きとか何とか、くだらないことを同級生に言われたみたいで。単純なからかいだったが、小三の朝郎は傷ついたんでしょうな。以来、星のことは話題にしなくなりましたよ」
「……そうなる前の段階で、天体望遠鏡を買って上げたことは?」
「ない。天体望遠鏡は早すぎると思った。結果的に、買わなくて正解だったようだが、こんなに早く逝ってしまうと分かっていたら、買ってやればよかったとも思うね」
「ラジコンカーの他に、ラジコンを買ったことは? たとえばスマートヘリの類とか」
「ドローンか。いや、それはなかった。欲しいというようなことは言っていたが、さすがに危険だと思ってね。高校に入ったら買ってやるか、ぐらいに考えていた。これが事件と関係あるとお考えか?」
「いえ、何とも言えません。スマートヘリがあれば、子供達が時間を潰すのに持って来いだと思ったまでです。ラジコンカーだと、夜、遊ぶのには向いてないでしょう」
流はカップに手を伸ばし、お茶を呷った。その間に、新次郎が口を開く。
「電話で、盛川真麻さんの趣味、興味を持っていた物についても聞いたが、朝郎の好みと被る物は見付けられなかった」
「好きな音楽はどうでしょう?」
「ああ、音楽なら人並みに、女性アイドルグループに興味を持っていた。名前は知らないが、結構人気のある四人組か五人組だった」
「そうですか」
流の口調に落胆が混じる。気付いた新次郎は、「どうした?」と目で問うた。
「真麻さんは、男性ベテラン歌手のファンでした。重なるところがないなと」
「そうか……。まあ仮に同じだったとしたって、中学生が好きになる歌手なんて、重なっても全然不思議じゃない。共通の趣味と言えるほど、顕著な特長ではないだろう。何時間も時間をつぶせる話題だとも思えない」
「その辺りは、捉え方の違いになりそうですね。今は、他の可能性を探るとします。さっきから気になっていたんですが、図鑑とはどのような?」
「図鑑? ああ、朝郎に買ってやったやつか。百科事典の電子書籍版だった。気に入ったらしく、何度も見返していたよ」
再び視線を落とす新次郎。今度よみがえった思い出はよいものらしく、彼の口元には笑みが窺えた。
「いきなり百科事典、それも電子書籍版ですが。私が子供の頃なんて、もっと判の小さい、“ナントカ大百科”的な本でした。言うまでもなく、紙の書籍で」
「ああ、それはうちの子もそうだった。百科事典は中学生になった祝いに、買ってやった物だ。最初に買ってやったこの手の本は、何だったかな。そうそう、宇宙と星に関する本だった」
「以前は、天文に興味があったんですか、朝郎君」
「そうだね。天文というよりも、星座だったようだ。星座や星の名前、それに纏わる神話を記憶し、よくそらんじていた」
「話を聞いた限りだと、朝郎君、そこそこのめり込もうとしていたいたいですね。でも小六から中学生になる頃には、興味を失ったんでしょうか」
流のこの質問に、新次郎は何故か思い出し笑いのようなものを顔に浮かべた。いや、実際に「ふふふ」と笑っている。
「どうかしましたか」
「いや、失礼をした。まさか、こんなことを思い出すとは。朝郎が天文を好きでなくなったのには、理由がある。実に子供らしい理由がね」
「聞かせてください」
事件に関係あるのかどうかは分からない。今は、集められる限りの情報を得ておきたい。その一心から、流は身を乗り出した。
「あれは、息子が小学三年の頃だったか。昨日まで熱中していた星や星座に、見向きもしなくなったし、その手の本を乱暴に扱って書架から抜き出して、仕舞い込むようなこともしていたから、理由を聞いたんだ。すると、『名前でからかわれた』という答が返って来た」
「名前……ああ、“保志”さんと“星”ですか」
「左様。保志の星好きとか何とか、くだらないことを同級生に言われたみたいで。単純なからかいだったが、小三の朝郎は傷ついたんでしょうな。以来、星のことは話題にしなくなりましたよ」
「……そうなる前の段階で、天体望遠鏡を買って上げたことは?」
「ない。天体望遠鏡は早すぎると思った。結果的に、買わなくて正解だったようだが、こんなに早く逝ってしまうと分かっていたら、買ってやればよかったとも思うね」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
集めましょ、個性の欠片たち
崎田毅駿
ライト文芸
とある中学を中心に、あれやこれやの出来事を綴っていきます。1.「まずいはきまずいはずなのに」:中学では調理部に入りたかったのに、なかったため断念した篠宮理恵。二年生になり、有名なシェフの息子がクラスに転校して来た。彼の力を借りれば一から調理部を起ち上げられるかも? 2.「罪な罰」:人気男性タレントが大病を患ったことを告白。その芸能ニュースの話題でクラスの女子は朝から持ちきり。男子の一人が悪ぶってちょっと口を挟んだところ、普段は大人しくて目立たない女子が、いきなり彼を平手打ち! 一体何が?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
江戸の検屍ばか
崎田毅駿
歴史・時代
江戸時代半ばに、中国から日本に一冊の法医学書が入って来た。『無冤録述』と訳題の付いたその書物の知識・知見に、奉行所同心の堀馬佐鹿は魅了され、瞬く間に身に付けた。今や江戸で一、二を争う検屍の名手として、その名前から検屍馬鹿と言われるほど。そんな堀馬は人の死が絡む事件をいかにして解き明かしていくのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる