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「あるとしたら、身代金狙いで浚ったが、途中でやめざるを得なくなったってケースですかね」
「想像はほどほどに」
「可能性をあげつらうなら、二人は別々の事件に巻き込まれた場合も想定すべきでは」
「だったら、保志朝郎が盛川真麻を殺め、逃亡中って可能性も」
イレギュラーな発言が俄に増えた。しかし、ベテラン刑事は落ち着いて応答した。
「可能性だけなら否定しきれんでしょうが、現実的にはどうなんでしょう。後者から論じると、体格は朝郎君の方が小さい。中学一年生で、あんなとこまで遺体を運び込めるのか、怪しいもんだと個人的には思いますがね。頭部を切断されていたにせよ、重いことには変わりない」
盛川真麻の遺体は、町外れの道路脇側溝で見つかっていた。蓋の下に押し込まれる形ではあったが、絶対に見付からないことを期した隠し方ではない。盛川家や保志家のある住宅街からの距離は、一山越えて四十五キロほどある。折からの猛暑で、側溝は乾き切っており、血溜まりはおろか血痕すらもほとんど見当たらなかった事実から、殺害場所は別にあると見なされた。
「二人がそれぞれ別個の事件に巻き込まれた可能性になると、もっと低い気がします。何せ、二人は待ち合わせしており、その約束通りに会っていることが確かめられているのだから」
ここで報告者は、三人目の刑事に代わった。
「家族や友人の証言及び当事者のラインでのやり取りから、保志朝郎と盛川真麻が十一日の夜八時に、**駅で待ち合わせをしていたことが分かっています。駅を中心とした商店街の防犯カメラを当たり始めたところ、これまでに駅前のロータリーや商店街にいる二人の姿を確認できています。詳しい行動はまだこれからですが、八時過ぎには一緒に行動している、つまり落ち合ったばかりという訳です」
「駅までの足取りは?」
「駅までは両名とも自転車で来ていますが、その様子が映った映像はまだ押さえられていません。防犯カメラに映った二人は、それぞれ徒歩。自転車をどこかに駐輪したに違いないんですが、その様子も今のところは見付かっていません。あと、保志朝郎の保護者の証言では、家にある簡易テントがなくなっているとのことでした。元々、息子の物で、よく持ち出していたそうですから、今回も持って行ったものと考えられます」
保志朝郎の父親は新次郎といって、弁護士をしている。母親は華耶、小学校教師とのことだった。三人家族で、両親とも仕事に忙しいため、朝郎にかまってやる暇があまりなかった。代わりに、欲しい物はたいてい買い与えてやったといい、簡易テントもその一つだった。
「テントは普通の大人なら、二人はいれば狭苦しいが、子供なら余裕があるサイズと言えます。実際、保志朝郎は男の友達と二人で、このテントに入って一晩明かした経験があったようです」
「今回、待ち合わせしていたのは、朝郎君と真麻さんの二人だけなんだろ? 一年生とは言え、中学の男女が一緒のテントに入るのか?」
「二人がこれまでに簡易テントで一晩過ごしたことがあるかどうかは未確認ですが、聞き込みできた範囲では、互いに異性としての意識は乏しかったと、周りは見ていたようです」
「その言い方だと、親御さんも気にしてなかったのか。分からんなあ」
「まあ、事情は些か違えど、両家とも同じ放任主義みたいなもんですから」
報告する刑事の口ぶりが少し砕けたものになったとき、会議室のドアが無遠慮なまでに勢いよく開けられた。中にいた者のほとんどが視線をやると、現れたのはこの捜査本部が置かれた署の事務職員だった。
「か、会議中、失礼します。たった今、相談窓口の電話に、この事件の犯人だと称する、恐らく男からの電話が入っています」
「何?」
「想像はほどほどに」
「可能性をあげつらうなら、二人は別々の事件に巻き込まれた場合も想定すべきでは」
「だったら、保志朝郎が盛川真麻を殺め、逃亡中って可能性も」
イレギュラーな発言が俄に増えた。しかし、ベテラン刑事は落ち着いて応答した。
「可能性だけなら否定しきれんでしょうが、現実的にはどうなんでしょう。後者から論じると、体格は朝郎君の方が小さい。中学一年生で、あんなとこまで遺体を運び込めるのか、怪しいもんだと個人的には思いますがね。頭部を切断されていたにせよ、重いことには変わりない」
盛川真麻の遺体は、町外れの道路脇側溝で見つかっていた。蓋の下に押し込まれる形ではあったが、絶対に見付からないことを期した隠し方ではない。盛川家や保志家のある住宅街からの距離は、一山越えて四十五キロほどある。折からの猛暑で、側溝は乾き切っており、血溜まりはおろか血痕すらもほとんど見当たらなかった事実から、殺害場所は別にあると見なされた。
「二人がそれぞれ別個の事件に巻き込まれた可能性になると、もっと低い気がします。何せ、二人は待ち合わせしており、その約束通りに会っていることが確かめられているのだから」
ここで報告者は、三人目の刑事に代わった。
「家族や友人の証言及び当事者のラインでのやり取りから、保志朝郎と盛川真麻が十一日の夜八時に、**駅で待ち合わせをしていたことが分かっています。駅を中心とした商店街の防犯カメラを当たり始めたところ、これまでに駅前のロータリーや商店街にいる二人の姿を確認できています。詳しい行動はまだこれからですが、八時過ぎには一緒に行動している、つまり落ち合ったばかりという訳です」
「駅までの足取りは?」
「駅までは両名とも自転車で来ていますが、その様子が映った映像はまだ押さえられていません。防犯カメラに映った二人は、それぞれ徒歩。自転車をどこかに駐輪したに違いないんですが、その様子も今のところは見付かっていません。あと、保志朝郎の保護者の証言では、家にある簡易テントがなくなっているとのことでした。元々、息子の物で、よく持ち出していたそうですから、今回も持って行ったものと考えられます」
保志朝郎の父親は新次郎といって、弁護士をしている。母親は華耶、小学校教師とのことだった。三人家族で、両親とも仕事に忙しいため、朝郎にかまってやる暇があまりなかった。代わりに、欲しい物はたいてい買い与えてやったといい、簡易テントもその一つだった。
「テントは普通の大人なら、二人はいれば狭苦しいが、子供なら余裕があるサイズと言えます。実際、保志朝郎は男の友達と二人で、このテントに入って一晩明かした経験があったようです」
「今回、待ち合わせしていたのは、朝郎君と真麻さんの二人だけなんだろ? 一年生とは言え、中学の男女が一緒のテントに入るのか?」
「二人がこれまでに簡易テントで一晩過ごしたことがあるかどうかは未確認ですが、聞き込みできた範囲では、互いに異性としての意識は乏しかったと、周りは見ていたようです」
「その言い方だと、親御さんも気にしてなかったのか。分からんなあ」
「まあ、事情は些か違えど、両家とも同じ放任主義みたいなもんですから」
報告する刑事の口ぶりが少し砕けたものになったとき、会議室のドアが無遠慮なまでに勢いよく開けられた。中にいた者のほとんどが視線をやると、現れたのはこの捜査本部が置かれた署の事務職員だった。
「か、会議中、失礼します。たった今、相談窓口の電話に、この事件の犯人だと称する、恐らく男からの電話が入っています」
「何?」
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