観察者たち

崎田毅駿

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 台風が思いのほか駆け足で通過したせいで、ここ数日は好天と悪天候がめまぐるしく入れ替わった。お盆を迎えた夏休みを満喫するには、ちょっと計画を立てにくい天気だった。
(この子は夏休みも何も、吹っ飛んじまったな)
 遺体の身元がやっと判明したというのに、刑事の吉野よしのは嘆息した。子供が被害者というだけでも気が滅入るところへ、ここまで身元判明に時間を要したのは、親の無関心が大きな理由だとなれば、ため息をつきたくもなる。
「名前は、盛川真麻もりかわまあさ。**中学の一年生で、母親の公恵きみえの話によると、四日前の昼過ぎに自宅アパートで顔を合わせたのが最後だと」
「四日前というと、八月十一日か」
 若い同僚からの報告に頷きながら、頭の中で計算する。死亡推定時刻が十三日の朝方と出ているので、母親と最後に会ってからほぼ二日後となる。
「公恵はシングルマザーで、真麻と二人暮らし。職業は輸入雑貨店“ラアルカン”店員。毎週火曜が定休日なので、十一日は朝から自宅にいたようなんですが、昼食のあと、子供を置いて出掛けています。まず銀行に行き、元旦那からの養育費が振り込まれていることを確認。ついでにいくらか下ろして、街のショッピングセンターへ」
「その辺はとりあえずいい、後回しだ。何で子供を置いていったんだ? 夏休みなんだから、遊びに連れて行ってやってもいいだろうに」
「一応、気になって聞いたんですが、十三日からお盆休みに入るので、そのとき遊んでやるつもりだったとか。どこまで当てになるか分かりませんけどね。印象だけで言えば、正直言って、あの母親は感じよくないです。十一日は帰宅せず、今付き合っている男とホテル泊まり。翌日はそのまま店に出て、やっと家に帰ったのが午後八時頃。娘の姿が見えないのに、この時点では特に探そうともせず、心当たりに電話すら入れていない。十四日の夜遅くになって、ようやく探し始め、見付からないので届けを出したというていたらくなんですから」
「放任主義だったのか?」
「本人はそんな表現は使わず、子供の自主性を尊重していたと言ってましたよ。普段から真麻は夜出歩くことが多く、家にいなくても特別ではないから、届けが遅くなったとも」
「いや、それはおかしな理屈だ。親なら、娘が普段、夜出歩くのをまず咎めるべきじゃないか」
「その辺も突っ込んで聞いてみたところ、夜外出するとき真麻はいつも同じ友達と連んでいたようだから、今回もそうだと思い、安心しきっていたと」
「友達ったって、同じ年頃だろ? あ、いや、まさか、ネットで知り合った大人か?」
「いえ、普通に、クラスメートです。十四日夜、その子の家に電話を掛けたが、真麻が来ていないと知って、慌てて警察に駆け込んだというのが経緯です」
「すでにお聞き及びの通り、新たな問題が浮上しておりまして」
 若いのと入れ替わりに、古株の刑事が新たな報告に立ち上がる。
「盛川公恵が電話した先は保志ほしという家なんですが、ここの長男の保志朝郎ともおも行方不明であることが、同時に分かった次第で。何でも、朝郎君と真麻さんは幼馴染みで、普段からよく一緒に遊び、行き来もする仲だった。保志家では朝郎君が盛川家に、泊まり掛けで遊びに行っているものと思い込んでいたため、探さずにいた訳です」
「営利目的の誘拐の可能性は?」
「営利誘拐なら、四日経って音沙汰なしでいるとは考えにくいですが、可能性ゼロとは、まだ言い切れないでしょうな。ま、女の子の方が遺体で見付かった現状で、男の子の方の身代金を要求してくるようなら、そいつの神経の図太さはギャング並みですよ」
 ベテラン刑事自身は冗談のつもりだったかもしれないが、夜遅くの会議の場では誰一人としてくすりともしない。
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