十二階段

崎田毅駿

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顔に出る嘘、出ない嘘

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「ふう。給食を思い出したわ」
 フォークと箸を使い分けて、きれいに食べながら小仲さんが言った。
「どんなこと?」
「具体的にどうっていうのじゃなくて、あの頃は口をもっと大きく開けて食べていたのになあって。大人になるのって面倒でしんどいことも多いって、実感する日々よ」
 そう話す彼女は、少し子供っぽく映った。再会した最初の瞬間は、凄く大人びたと思えたのに。自分自身もさっき感じたように、昔に戻った感覚でいるし、不思議な気がする。いや、幼馴染みと久しぶりに話すのだから、これが当たり前なのか。
「あのさ、大崎君」
「ん?」
「お金、早く仕舞って」
「あ、ああ」
 代金をトレイに置かれたのを忘れていた。というよりも、財布に入れたら、他の硬貨と区別が付かなくなる。できれば取り分けておきたい、なんて意識があったかもしれない。
 そんな子供っぽい考え方は、さすがに馬鹿らしくなって、つい言ってみた。
「よかったらおごるよ。再会記念ということで」
 掴んだ代金を、彼女の方に差し出す。しかし首を横に振られた。
「いいよ。もしかして、私の家が凄く貧乏して苦労してるとか思ってる?」
「それは」
 実を言えば、考えなくはなかった。
 母子家庭になったあと、彼女がどこでどんな風に暮らしてきたのかを、僕は何も知らない。悪い方に想像が働くのはしょうがないというものだろう。
「思ってない」
「――嘘があんまり上手じゃないね」
 そう言って、小仲さんはにっこり笑った。料理の方は、いつの間にやら平らげている。
「安心した。昔から正直に顔に出る方だったから、大崎君。こんなところも全然変わってない」
「そうか?」
 言いながら、思わず顔の表面を手の平で拭った。
「私が安心できたお返しに、安心させてあげるわ。最初にはっきりさせておいた方がいいだろうし。全然触れないのも変だよね、事件のこと」
「え、あ、まあ、小仲さんがそう言うのであれば」
 どぎまぎとへどもどが一緒に来た。小学生のときの事件について、話すとしたら彼女の方からになるだろうなと漠然と想像していたけれども、まさかこんなに早く切り出されるとは、全くの予想外。
 小仲さんは声量を落として続けた。
「多分誤解されていると思うんだけど、義理の父が亡くなった時点で、両親の離婚はまだ成立していなかったわ。それどころか、やっと話し合いを始めようかっていう頃合い。だから、父の財産が母に渡った。と言っても、借金もたくさんあったみたいで、微々たる額だった。でも他に生命保険金があって、受取人は母と私。こちらは結構な額だった。だからと言っていいのかどうか、義父の事件では、母は警察にだいぶ調べられた。アリバイって言うの? 犯行のあったときに別のところにいたことは割とすぐに証明されたのだけれど、共犯者がいるんじゃないか、男がいるんじゃないかって疑われて。それもないと分かって、ようやくだったけど。とりあえず、今は人並みの暮らしを送ってるつもりよ」
「……何て言うか……ごめん」
 僕は頭を下げた。
 僕が彼女の義父を刺したせいで、彼女やそのお母さんにまで迷惑を及ぼしていたんだと、初めて実感した。
「大崎君がどうして謝るの」
「それは……小仲さんがお金に苦労しているんだと思い込んでいたことを」
 僕の正直な気持ちを打ち明ける訳には行かない。嘘を吐いてごまかした。
 小仲さんの表情に勘付いた様子はない。
 僕は小学生のときよりは、嘘が上手になったようだ。
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