6 / 21
顔に出る嘘、出ない嘘
しおりを挟む
「ふう。給食を思い出したわ」
フォークと箸を使い分けて、きれいに食べながら小仲さんが言った。
「どんなこと?」
「具体的にどうっていうのじゃなくて、あの頃は口をもっと大きく開けて食べていたのになあって。大人になるのって面倒でしんどいことも多いって、実感する日々よ」
そう話す彼女は、少し子供っぽく映った。再会した最初の瞬間は、凄く大人びたと思えたのに。自分自身もさっき感じたように、昔に戻った感覚でいるし、不思議な気がする。いや、幼馴染みと久しぶりに話すのだから、これが当たり前なのか。
「あのさ、大崎君」
「ん?」
「お金、早く仕舞って」
「あ、ああ」
代金をトレイに置かれたのを忘れていた。というよりも、財布に入れたら、他の硬貨と区別が付かなくなる。できれば取り分けておきたい、なんて意識があったかもしれない。
そんな子供っぽい考え方は、さすがに馬鹿らしくなって、つい言ってみた。
「よかったらおごるよ。再会記念ということで」
掴んだ代金を、彼女の方に差し出す。しかし首を横に振られた。
「いいよ。もしかして、私の家が凄く貧乏して苦労してるとか思ってる?」
「それは」
実を言えば、考えなくはなかった。
母子家庭になったあと、彼女がどこでどんな風に暮らしてきたのかを、僕は何も知らない。悪い方に想像が働くのはしょうがないというものだろう。
「思ってない」
「――嘘があんまり上手じゃないね」
そう言って、小仲さんはにっこり笑った。料理の方は、いつの間にやら平らげている。
「安心した。昔から正直に顔に出る方だったから、大崎君。こんなところも全然変わってない」
「そうか?」
言いながら、思わず顔の表面を手の平で拭った。
「私が安心できたお返しに、安心させてあげるわ。最初にはっきりさせておいた方がいいだろうし。全然触れないのも変だよね、事件のこと」
「え、あ、まあ、小仲さんがそう言うのであれば」
どぎまぎとへどもどが一緒に来た。小学生のときの事件について、話すとしたら彼女の方からになるだろうなと漠然と想像していたけれども、まさかこんなに早く切り出されるとは、全くの予想外。
小仲さんは声量を落として続けた。
「多分誤解されていると思うんだけど、義理の父が亡くなった時点で、両親の離婚はまだ成立していなかったわ。それどころか、やっと話し合いを始めようかっていう頃合い。だから、父の財産が母に渡った。と言っても、借金もたくさんあったみたいで、微々たる額だった。でも他に生命保険金があって、受取人は母と私。こちらは結構な額だった。だからと言っていいのかどうか、義父の事件では、母は警察にだいぶ調べられた。アリバイって言うの? 犯行のあったときに別のところにいたことは割とすぐに証明されたのだけれど、共犯者がいるんじゃないか、男がいるんじゃないかって疑われて。それもないと分かって、ようやくだったけど。とりあえず、今は人並みの暮らしを送ってるつもりよ」
「……何て言うか……ごめん」
僕は頭を下げた。
僕が彼女の義父を刺したせいで、彼女やそのお母さんにまで迷惑を及ぼしていたんだと、初めて実感した。
「大崎君がどうして謝るの」
「それは……小仲さんがお金に苦労しているんだと思い込んでいたことを」
僕の正直な気持ちを打ち明ける訳には行かない。嘘を吐いてごまかした。
小仲さんの表情に勘付いた様子はない。
僕は小学生のときよりは、嘘が上手になったようだ。
フォークと箸を使い分けて、きれいに食べながら小仲さんが言った。
「どんなこと?」
「具体的にどうっていうのじゃなくて、あの頃は口をもっと大きく開けて食べていたのになあって。大人になるのって面倒でしんどいことも多いって、実感する日々よ」
そう話す彼女は、少し子供っぽく映った。再会した最初の瞬間は、凄く大人びたと思えたのに。自分自身もさっき感じたように、昔に戻った感覚でいるし、不思議な気がする。いや、幼馴染みと久しぶりに話すのだから、これが当たり前なのか。
「あのさ、大崎君」
「ん?」
「お金、早く仕舞って」
「あ、ああ」
代金をトレイに置かれたのを忘れていた。というよりも、財布に入れたら、他の硬貨と区別が付かなくなる。できれば取り分けておきたい、なんて意識があったかもしれない。
そんな子供っぽい考え方は、さすがに馬鹿らしくなって、つい言ってみた。
「よかったらおごるよ。再会記念ということで」
掴んだ代金を、彼女の方に差し出す。しかし首を横に振られた。
「いいよ。もしかして、私の家が凄く貧乏して苦労してるとか思ってる?」
「それは」
実を言えば、考えなくはなかった。
母子家庭になったあと、彼女がどこでどんな風に暮らしてきたのかを、僕は何も知らない。悪い方に想像が働くのはしょうがないというものだろう。
「思ってない」
「――嘘があんまり上手じゃないね」
そう言って、小仲さんはにっこり笑った。料理の方は、いつの間にやら平らげている。
「安心した。昔から正直に顔に出る方だったから、大崎君。こんなところも全然変わってない」
「そうか?」
言いながら、思わず顔の表面を手の平で拭った。
「私が安心できたお返しに、安心させてあげるわ。最初にはっきりさせておいた方がいいだろうし。全然触れないのも変だよね、事件のこと」
「え、あ、まあ、小仲さんがそう言うのであれば」
どぎまぎとへどもどが一緒に来た。小学生のときの事件について、話すとしたら彼女の方からになるだろうなと漠然と想像していたけれども、まさかこんなに早く切り出されるとは、全くの予想外。
小仲さんは声量を落として続けた。
「多分誤解されていると思うんだけど、義理の父が亡くなった時点で、両親の離婚はまだ成立していなかったわ。それどころか、やっと話し合いを始めようかっていう頃合い。だから、父の財産が母に渡った。と言っても、借金もたくさんあったみたいで、微々たる額だった。でも他に生命保険金があって、受取人は母と私。こちらは結構な額だった。だからと言っていいのかどうか、義父の事件では、母は警察にだいぶ調べられた。アリバイって言うの? 犯行のあったときに別のところにいたことは割とすぐに証明されたのだけれど、共犯者がいるんじゃないか、男がいるんじゃないかって疑われて。それもないと分かって、ようやくだったけど。とりあえず、今は人並みの暮らしを送ってるつもりよ」
「……何て言うか……ごめん」
僕は頭を下げた。
僕が彼女の義父を刺したせいで、彼女やそのお母さんにまで迷惑を及ぼしていたんだと、初めて実感した。
「大崎君がどうして謝るの」
「それは……小仲さんがお金に苦労しているんだと思い込んでいたことを」
僕の正直な気持ちを打ち明ける訳には行かない。嘘を吐いてごまかした。
小仲さんの表情に勘付いた様子はない。
僕は小学生のときよりは、嘘が上手になったようだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】返してください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。
私が愛されていない事は感じていた。
だけど、信じたくなかった。
いつかは私を見てくれると思っていた。
妹は私から全てを奪って行った。
なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、
母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。
もういい。
もう諦めた。
貴方達は私の家族じゃない。
私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。
だから、、、、
私に全てを、、、
返してください。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】探さないでください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。
貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。
あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。
冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。
複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。
無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。
風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。
だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。
今、私は幸せを感じている。
貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。
だから、、、
もう、、、
私を、、、
探さないでください。
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる