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17.隠しゲーム
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桐生は笑みを絶やさぬように努めつつ、しかし決して冗談ぽくならないように言った。しっかりとした語調を保ち、本気であることを明示する。何しろ、受け流されてしまえばそこで終わりだ。どれほど間接的な証拠を挙げても、主催者側がだんまりを決め込めば、バーチャルな世界にいる間はどうしようもないだろう。
(僕が片薙すみれに関して、世間が知らないようなことを知っているのであれば話は違ってくるんだが。あいにくと遠慮して、彼女にたいした質問をしなかったんだよな)
「面白いことを言ってくれました」
桐生の思惑通り、サイレント真実は話に乗ってくれたようだ。
「何を根拠にして、そのような面白い仮説を出してきたのかを聞かせてくださいな。他の人には一切聞こえないようにしてありますから、ご安心ください。ただし制限時間を設けさせてもらいましょう。三分間でお願いしますね」
桐生は息を思い切り吸って空気を貯め、ちょろっと吐き出してから、一気に早口で喋り始めた。
「どうも。最初に気になったのは入札ゲームに入る頃から、もっといえばこの仮想空間に入るとき、僕ら男性陣に比べると、女性陣の登場が遅かった。服を着替えるのに手間取るなんてあり得ないし、替えの衣装が多すぎて選ぶのに迷って時間を取ったというわけでもなさそうだ。僕ら男の方には衣服選びの時間なんて最初っから設けられていなかったんだから。何をやってたんだろう?と小学四年生ぐらいのときに女子だけが集められてどこかで話を聞くあれを思い出しましたよ。女性陣のみに主催者側から何らかの説明があったのかもしれないと。
次に心に引っ掛かったのは、入札権が男にのみ付与された点。システム上の都合でチーム二名の内のどちらか一人にしか付与できないとしても、何故男に固定したのか。
三つ目。僕の隣に現れた片薙すみれのアバターの話しっぷりが、なーんかそれまでと違っていた。“桐生君”から“桐生さん”になったし、ばかに丁寧な物言いをするなあと思ったら急にぞんざいなしゃべり方になったり。ついでに僕と協力し合おうっていう態度が薄いように見えた。――これで三分経過かな?」
「――だいたい三分経過しましたが、話の続きが気になるので延長を認めましょう。私には彼女は協力しようとしていたように映ったけれども、どこがどうおかしかったか、百秒でどうぞ」
「えー、片薙さんぐらいの能力の持ち主なら、僕が百万ディテクを入札すると言ったときに、こう心配してくれてもいいと思った、『桐生君の百万入札を読み切った人が、百万一ディテクを入札してきたらどうなるの? 最高値を付けても実際の支払いは百万以下になるのだから百万一の入札は認められるはず。そうなったら私達はディテクを全部失った上に、カードも手に入らない』と」
「ほー、それはまた随分とあのアイドルさんを高く評価しているのですねえ」
急ににやにやし出したサイレント真実。名前に反して結構おしゃべりな上に、余計な勘ぐりまして来るのか――桐生は肩をすくめた。
「あいにくと、あなたが期待するような感情を片薙さんに対して持ってはいませんよ」
「つまんないの」
唇を尖らせるサイレント真実。プログラムのせいなんだろうが、その仕種がやけに不細工に見える。
「寄り道していないで、今披露した推測は当たりなのかはずれなのか判定を求める、サイレント真実」
「いきなり怖い言い方をしなくてもちゃんとやりますよーだ。えっとね、真実を射貫いているわ」
真顔で答えた進行役に対し、桐生はクエスチョンマークを脳裏に浮かべた。
「まみ?」
「あ、間違えちゃった。真実を射貫いている。つまりご名答ってこと」
わざとに決まっている言い間違いだったが、ご名答と言われて気分がよかったので許す。桐生は小さくガッツポーズした。これまでの探偵ゲームの通例に照らせば、何らかのボーナスポイントがもらえると期待していい。
「開始前に時間を取って、女性の参加者には隠しゲームの趣旨を説明していたのよね。入札ゲームが終わるまでの間、ライバルチームの女性になりすましてだまし通せたら、特典があるという条件で。ちなみにアバターの片薙さんて、実際のところ誰だったと思ってる?」
誰がなりすましていたかまで当てろと言われずに済んで、密かに安堵する桐生。
「分からない。あのお色気に一瞬走ったのは、馳さんや高田さんのイメージにそぐわない。言葉のチョイスに迷いがあったように感じたから、文学少女の馳さんじゃなく高田さんかなとも言えるし、ちょくちょくミスを重ねていたからカード獲得枚数ゼロで焦りがあった馳さんとも言える」
「面白い分析だね~。まあ、正解はあとで確認してちょうだい。それからこの仕掛けに感付いた桐生君には特典が与えられるけれども、特典が何なのかについてもこのあとの発表を楽しみに待っていて」
サイレント真実はぱちりと音が聞こえてきそうなウインクに加えて、投げキッスまでしてきた。
つづく
(僕が片薙すみれに関して、世間が知らないようなことを知っているのであれば話は違ってくるんだが。あいにくと遠慮して、彼女にたいした質問をしなかったんだよな)
「面白いことを言ってくれました」
桐生の思惑通り、サイレント真実は話に乗ってくれたようだ。
「何を根拠にして、そのような面白い仮説を出してきたのかを聞かせてくださいな。他の人には一切聞こえないようにしてありますから、ご安心ください。ただし制限時間を設けさせてもらいましょう。三分間でお願いしますね」
桐生は息を思い切り吸って空気を貯め、ちょろっと吐き出してから、一気に早口で喋り始めた。
「どうも。最初に気になったのは入札ゲームに入る頃から、もっといえばこの仮想空間に入るとき、僕ら男性陣に比べると、女性陣の登場が遅かった。服を着替えるのに手間取るなんてあり得ないし、替えの衣装が多すぎて選ぶのに迷って時間を取ったというわけでもなさそうだ。僕ら男の方には衣服選びの時間なんて最初っから設けられていなかったんだから。何をやってたんだろう?と小学四年生ぐらいのときに女子だけが集められてどこかで話を聞くあれを思い出しましたよ。女性陣のみに主催者側から何らかの説明があったのかもしれないと。
次に心に引っ掛かったのは、入札権が男にのみ付与された点。システム上の都合でチーム二名の内のどちらか一人にしか付与できないとしても、何故男に固定したのか。
三つ目。僕の隣に現れた片薙すみれのアバターの話しっぷりが、なーんかそれまでと違っていた。“桐生君”から“桐生さん”になったし、ばかに丁寧な物言いをするなあと思ったら急にぞんざいなしゃべり方になったり。ついでに僕と協力し合おうっていう態度が薄いように見えた。――これで三分経過かな?」
「――だいたい三分経過しましたが、話の続きが気になるので延長を認めましょう。私には彼女は協力しようとしていたように映ったけれども、どこがどうおかしかったか、百秒でどうぞ」
「えー、片薙さんぐらいの能力の持ち主なら、僕が百万ディテクを入札すると言ったときに、こう心配してくれてもいいと思った、『桐生君の百万入札を読み切った人が、百万一ディテクを入札してきたらどうなるの? 最高値を付けても実際の支払いは百万以下になるのだから百万一の入札は認められるはず。そうなったら私達はディテクを全部失った上に、カードも手に入らない』と」
「ほー、それはまた随分とあのアイドルさんを高く評価しているのですねえ」
急ににやにやし出したサイレント真実。名前に反して結構おしゃべりな上に、余計な勘ぐりまして来るのか――桐生は肩をすくめた。
「あいにくと、あなたが期待するような感情を片薙さんに対して持ってはいませんよ」
「つまんないの」
唇を尖らせるサイレント真実。プログラムのせいなんだろうが、その仕種がやけに不細工に見える。
「寄り道していないで、今披露した推測は当たりなのかはずれなのか判定を求める、サイレント真実」
「いきなり怖い言い方をしなくてもちゃんとやりますよーだ。えっとね、真実を射貫いているわ」
真顔で答えた進行役に対し、桐生はクエスチョンマークを脳裏に浮かべた。
「まみ?」
「あ、間違えちゃった。真実を射貫いている。つまりご名答ってこと」
わざとに決まっている言い間違いだったが、ご名答と言われて気分がよかったので許す。桐生は小さくガッツポーズした。これまでの探偵ゲームの通例に照らせば、何らかのボーナスポイントがもらえると期待していい。
「開始前に時間を取って、女性の参加者には隠しゲームの趣旨を説明していたのよね。入札ゲームが終わるまでの間、ライバルチームの女性になりすましてだまし通せたら、特典があるという条件で。ちなみにアバターの片薙さんて、実際のところ誰だったと思ってる?」
誰がなりすましていたかまで当てろと言われずに済んで、密かに安堵する桐生。
「分からない。あのお色気に一瞬走ったのは、馳さんや高田さんのイメージにそぐわない。言葉のチョイスに迷いがあったように感じたから、文学少女の馳さんじゃなく高田さんかなとも言えるし、ちょくちょくミスを重ねていたからカード獲得枚数ゼロで焦りがあった馳さんとも言える」
「面白い分析だね~。まあ、正解はあとで確認してちょうだい。それからこの仕掛けに感付いた桐生君には特典が与えられるけれども、特典が何なのかについてもこのあとの発表を楽しみに待っていて」
サイレント真実はぱちりと音が聞こえてきそうなウインクに加えて、投げキッスまでしてきた。
つづく
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