ゼロになるレイナ

崎田毅駿

文字の大きさ
上 下
3 / 6

3.レイナ・ディートンは消える

しおりを挟む
 僕が体調万全なら一緒に出向くんだけどな。
「分かってるわ。カメラ付きのインターフォンがあるし。待っててね」
 レイナが言って、部屋を出て行った。玄関まではちょっと離れており、しかも廊下を二度か三度、曲がらねばならない。故に僕のいる部屋からは、仮にドアを開けて頭を出しても玄関は見えない。もちろん声だって聞こえない。
 代わりに僕は窓際へ寄ってみた。ガラスに顔を押し付けるようにして左を向くと、ぎりぎり見えるのが門から玄関へと続く小径の様子。草花のせいで一部遮られてしまうが、玄関を出入りする人物を目撃できると思った。
 その玄関先の道路には、車が停めてある。青みがかったグレーのステーションワゴンだ。訪問者は、あれに乗って来たのは間違いない。
 息を飲んで見ていると、三分ぐらい経ったろうか、ソフト帽を被った中年男性が、キャスター付きの大きな鞄を大事そうに押して現れ、玄関から道路へと出て行った。どこかで見たことのある顔だと思ったら、だいぶ前に目撃していた。レイナのお母さんに声を掛けていたセールスマンだ。そのまま車のそばまで来ると、バックドアを開け、旅行ケース並に大きな鞄を載せた。バックドアを閉めるとしっかりロックして運転席に向かう。横顔がちらと見えたが、やけに緊張している風だった。
 改めて物を売りにやってきたが肝心の奥さんが留守で、仕方なく引き返した……という情景に感じられた。車は静かに発進し、遠ざかっていった。
 それから二分近くが経過しても、レイナが戻って来ない。
 おかしいな?
 僕は微熱の残る額に手をやってから、頭を振ると、意を決して部屋を出た。
「レイナ?」
 滅多に呼び捨てにはしないのだが、このときはすぐにそう呼んだ。だが、それでもレイナは姿を現さない。いやそれどころか、声や物音一つ聞こえやしない。
「レイナ! どこだ!」
 玄関口まで来た。誰もいなかった。玄関ドアはぴたっと閉じてある。念のため、手でノブをがたがた言わせると、鍵が掛かっているとしれた。靴だってきちんと揃えてそこにある。
「レイナ! レイナ・ディートン! どこにいる? 隠れてるのか?」
 一瞬、あのセールスマン風の男の他にもう一人いて、そいつが強盗として入り込んだ可能性が思い浮かんだ。そいつから逃げるために、レイナは家の中のどこかに身を隠した? だけどそれも変だ。人に押し入られたら、レイナの靴が乱れていると思う。加えて、その強盗の気配を全く感じないのもおかしな話だ。
 インターフォンの使い方が分かれば、ひょっとしたら訪問者の映像が録画されていて、再生できるのかもしれない。だが、残念ながら僕には操作方法が分からなかった。
 これは異常かつ緊急事態ではないか。警察への通報が頭をよぎるが、まだソフト帽の男が去ってから五分も経っていない。通報はいくら何でも早すぎるか? だけどその一方で、男が押していた大型鞄がまぶたの裏に焼き付いてる感じで、嫌な想像をしてしまう。
 そうだ。レイナのお母さんに連絡を取れないだろうか? 僕はレイナのお母さんの携帯端末番号を知らないし、レイナの携帯端末は見当たらない。だが、この家には固定電話があったはず。そこの短縮ボタンにレイナのお母さんの番号が登録されていないだろうか。
 そんな風に考え、固定電話を探していると、急に呼び鈴が聞こえてドキッとした。
 鼓動の高鳴りがある程度落ち着くのを待ってから、玄関に行く。何故だか、忍び足を心掛けた。
 さっきのセールスマン風の男が戻ってきた、なんてことはあり得ないと思いつつ、僕はインターフォンの画像を見た。
「……あれ?」
 副担任のリチャード先生が映っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼女がラッキー過ぎて困ってしまう

崎田毅駿
児童書・童話
“僕”が昔、小学生の頃に付き合い始めた女の子の話。小学生最後の夏休みに、豪華客船による旅に行く幸運に恵まれた柏原水純は、さらなる幸運に恵まれて、芸能の仕事をするようになるんだけれども、ある出来事のせいで僕と彼女の仲が……。

化石の鳴き声

崎田毅駿
児童書・童話
小学四年生の純子は、転校して来てまだ間がない。友達たくさんできる前に夏休みに突入し、少し退屈気味。登校日に久しぶりに会えた友達と遊んだあと、帰る途中、クラスの男子数人が何か夢中になっているのを見掛け、気になった。好奇心に負けて覗いてみると、彼らは化石を探しているという。前から化石に興味のあった純子は、男子達と一緒に探すようになる。長い夏休みの楽しみができた、と思ったら、いつの間にか事件に巻き込まれることに!?

箱庭の少女と永遠の夜

藍沢紗夜
児童書・童話
 夜だけが、その少女の世界の全てだった。  その少女は、日が沈み空が紺碧に染まっていく頃に目を覚ます。孤独な少女はその箱庭で、草花や星月を愛で暮らしていた。歌い、祈りを捧げながら。しかし夜を愛した少女は、夜には愛されていなかった……。  すべての孤独な夜に贈る、一人の少女と夜のおはなし。  ノベルアップ+、カクヨムでも公開しています。

せかいのこどもたち

hosimure
絵本
さくらはにほんのしょうがっこうにかよっているおんなのこ。 あるひ、【せかいのこどもたち】があつまるパーティのしょうたいじょうがとどきます。 さくらはパーティかいじょうにいくと……。 ☆使用しているイラストは「かわいいフリー素材集いらすとや」様のをお借りしています。  無断で転載することはお止めください。

T家のうさみ

あやさわえりこ
児童書・童話
T家の亜美と由美姉妹にはお気に入りのぬいぐるみがあります。 しかし、それにはとんでもない秘密があって……!? 児童文学・童話ですが、いろんなひとに読んでもらいたい。連載だけど完結はしてます。 あ、T家というのは、私の家がモデルなんですよ(笑)

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳
児童書・童話
御手洗夏帆、14才。 桜ヶ丘中学校に転入ほやほや5日目。 早く友達を作ろうと意気込む私の前に、その先輩達は現れたー……。 ★ 恋に悩める子羊たちを救う部活って何? しかも私が3人目の部員!? 私の中学生活、どうなっちゃうの……。 新しい青春群像劇、ここに開幕!!

新訳 不思議の国のアリス

サイコさん太郎
児童書・童話
1944年、ポーランド南部郊外にある収容所で一人の少女が処分された。その少女は僅かに微笑み、眠る様に生き絶えていた。 死の淵で彼女は何を想い、何を感じたのか。雪の中に小さく佇む、白い兎だけが彼女の死に涙を流す。

処理中です...