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17.同盟のための最終確認
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「でも、モガラさんにはしたいことがまだ残っているんではありません? 優秀な探偵助手のあなたが、いつまでもぐずぐずしているとは考えにくいですから」
「それは……確かにそうだが」
「私を信用してくださるのであれば、私の手で直しておきますわ、報告書」
「知っていたのか」
驚きを抑えながら聞き返すモガラ。
「はい。カラバン先生にはまだお知らせしていませんから、ご安心ください」
「ギップスさんはどうして矛盾に気付くほどまで報告書を読み込んでいる? 必要ないだろう?」
「落ち着いて。とりあえず、あなたの提案通り、場所を移しましょうか」
移動すると言っても真夜中のこと故、適切な場所はなかった。探偵事務所への足として、ニイカ・ギップスが乗ってきた蒸気自動車内で会話を続ける。
「秘書のあなたがいくらもらっているのか知らないが、車が買えるとはね」
嫌味ではなく、驚嘆を隠すこともなく率直に述べたモガラ。
「さすが、名探偵タイタス・カラバン、よく稼いでいるって? まさか。そこまではいただいておりません」
「……こんな遅くにこそこそと事務所を訪れるくらいだから、あなたにも何か秘密がありそうだ。カラバン先生を伴っていた訳でなし、異変を報告するつもりもなさそうだし」
「同じ穴のなんとやら――かどうかは分かりませんけれども、私にも事情があるのは認めるわ」
話す口調がやや砕けてきた秘書に、目を丸くしたモガラだったが、すぐによい方向に受け取った。
「あなたがドアを開ける前に侵入者に気付いたのは、ドアの最下部か最上部に、髪の毛でも貼り付けておいたのかな? それが切れていたので察して、鍵を開けるのを躊躇ったと」
「正解。さすが、名探偵の第二助手ですこと」
第二という箇所にアクセントを置いたしゃべりのニイカ。モガラは己の内に複雑な感情が沸き起こるのを意識した。彼女は全てを知っているのか、第一助手のハンソンをどう思っているのか。はたまた私を怒らせようとしているのか、それとも同情の表れなのか。
「モガラさんの報告書にちょっとしたおかしな箇所が稀に散見されるのが、カール・ハンソン君の排除、あるいは失脚を期しているのでしたら、私も協力できると思っています」
「何?」
秘書の爆弾発言に、モガラの戸惑いは強まり、混乱になりつつある。だけれども聞く耳を持ってよい話のようではある。
「どのような協力ができると言うんだい?」
「たとえば、カラバン先生に決して不審に思われぬよう、私が最終的なチェックを入れることができます。いざとなったら、丸々隠蔽することも」
「隠蔽はまずい。ある物がないのは」
「そうでもありませんよ。もちろん事件にもよりますので、ここで言っているのは先生が全体像を把握しておられない依頼案件について。そういう事件に関しては、いくらでも隠蔽可能です」
「……」
それもそうかもしれない。後々見直されると困るが、名探偵は多忙なのでそんないとまはないと言い切れる。
「いかがかしら、私の提案」
「返事をするにはまだ材料が足りない。あなたが私に協力すると言い出した理由は何? どうしてカラバン先生に伝えようと思わない? もっと言うならハンソンに対して某か含むところがあるのかい?」
「あると言えばあります。将来、もしもあの子が探偵事務所のトップに立つと、私の“アルバイト”が現在よりもやりにくくなりそうなので」
「アルバイト……それが今夜、あなたが探偵事務所を密かに訪れたことに関係してくるのかな」
「やっと普段のモガラさんに戻られましたね。お察しの通りです。個人情報の宝庫から、ちょっぴり美味しいネタをいただきに」
「そういうことか……。何となくだが想像が付いた」
想像した通り、ニイカ・ギップスが個人情報を脅しの材料にして、金品を得ているのだとしたら、将来、探偵事務所のトップが代替わりした際、やりにくくなる可能性は充分ありそうだ。若いハンソンはカラバン先生ほどにはギップスを信頼していないだろうし、資料の保管も厳しくなるかもしれない。そして何より、カール・ハンソンが新たな秘書を雇い入れて、代わりにギップスは御役御免となることだってあり得る。
「最終的には、私が探偵事務所の次のトップに付けばいいのかな」
「そうですね……モガラさんはカラバン先生への尊敬が強すぎて、先生の引退自体を望んでおられないかもしれませんがけど」
「そりゃあもちろん、先生には永遠に活躍してもらいたいが、現実にはそうも言ってられない。いずれ退かれるのであれば、その空いた大きな席を次に占めるのは私でありたいと願っているよ」
「でしたら、利害は完全に一致するはありませんか」
「……いや、もう一つだけ。今夜、忍び込んでいる私を目の当たりにして、こういう風には考えなかったのかな。『このことをハンソンに知らせて、彼の口からカラバン先生に伝えさせる。こうすればカラバン先生への忠誠心を改めて示せるだけでなく、次の探偵事務所トップと目されるハンソンからも、信頼を得られる』とね」
「それは……確かにそうだが」
「私を信用してくださるのであれば、私の手で直しておきますわ、報告書」
「知っていたのか」
驚きを抑えながら聞き返すモガラ。
「はい。カラバン先生にはまだお知らせしていませんから、ご安心ください」
「ギップスさんはどうして矛盾に気付くほどまで報告書を読み込んでいる? 必要ないだろう?」
「落ち着いて。とりあえず、あなたの提案通り、場所を移しましょうか」
移動すると言っても真夜中のこと故、適切な場所はなかった。探偵事務所への足として、ニイカ・ギップスが乗ってきた蒸気自動車内で会話を続ける。
「秘書のあなたがいくらもらっているのか知らないが、車が買えるとはね」
嫌味ではなく、驚嘆を隠すこともなく率直に述べたモガラ。
「さすが、名探偵タイタス・カラバン、よく稼いでいるって? まさか。そこまではいただいておりません」
「……こんな遅くにこそこそと事務所を訪れるくらいだから、あなたにも何か秘密がありそうだ。カラバン先生を伴っていた訳でなし、異変を報告するつもりもなさそうだし」
「同じ穴のなんとやら――かどうかは分かりませんけれども、私にも事情があるのは認めるわ」
話す口調がやや砕けてきた秘書に、目を丸くしたモガラだったが、すぐによい方向に受け取った。
「あなたがドアを開ける前に侵入者に気付いたのは、ドアの最下部か最上部に、髪の毛でも貼り付けておいたのかな? それが切れていたので察して、鍵を開けるのを躊躇ったと」
「正解。さすが、名探偵の第二助手ですこと」
第二という箇所にアクセントを置いたしゃべりのニイカ。モガラは己の内に複雑な感情が沸き起こるのを意識した。彼女は全てを知っているのか、第一助手のハンソンをどう思っているのか。はたまた私を怒らせようとしているのか、それとも同情の表れなのか。
「モガラさんの報告書にちょっとしたおかしな箇所が稀に散見されるのが、カール・ハンソン君の排除、あるいは失脚を期しているのでしたら、私も協力できると思っています」
「何?」
秘書の爆弾発言に、モガラの戸惑いは強まり、混乱になりつつある。だけれども聞く耳を持ってよい話のようではある。
「どのような協力ができると言うんだい?」
「たとえば、カラバン先生に決して不審に思われぬよう、私が最終的なチェックを入れることができます。いざとなったら、丸々隠蔽することも」
「隠蔽はまずい。ある物がないのは」
「そうでもありませんよ。もちろん事件にもよりますので、ここで言っているのは先生が全体像を把握しておられない依頼案件について。そういう事件に関しては、いくらでも隠蔽可能です」
「……」
それもそうかもしれない。後々見直されると困るが、名探偵は多忙なのでそんないとまはないと言い切れる。
「いかがかしら、私の提案」
「返事をするにはまだ材料が足りない。あなたが私に協力すると言い出した理由は何? どうしてカラバン先生に伝えようと思わない? もっと言うならハンソンに対して某か含むところがあるのかい?」
「あると言えばあります。将来、もしもあの子が探偵事務所のトップに立つと、私の“アルバイト”が現在よりもやりにくくなりそうなので」
「アルバイト……それが今夜、あなたが探偵事務所を密かに訪れたことに関係してくるのかな」
「やっと普段のモガラさんに戻られましたね。お察しの通りです。個人情報の宝庫から、ちょっぴり美味しいネタをいただきに」
「そういうことか……。何となくだが想像が付いた」
想像した通り、ニイカ・ギップスが個人情報を脅しの材料にして、金品を得ているのだとしたら、将来、探偵事務所のトップが代替わりした際、やりにくくなる可能性は充分ありそうだ。若いハンソンはカラバン先生ほどにはギップスを信頼していないだろうし、資料の保管も厳しくなるかもしれない。そして何より、カール・ハンソンが新たな秘書を雇い入れて、代わりにギップスは御役御免となることだってあり得る。
「最終的には、私が探偵事務所の次のトップに付けばいいのかな」
「そうですね……モガラさんはカラバン先生への尊敬が強すぎて、先生の引退自体を望んでおられないかもしれませんがけど」
「そりゃあもちろん、先生には永遠に活躍してもらいたいが、現実にはそうも言ってられない。いずれ退かれるのであれば、その空いた大きな席を次に占めるのは私でありたいと願っているよ」
「でしたら、利害は完全に一致するはありませんか」
「……いや、もう一つだけ。今夜、忍び込んでいる私を目の当たりにして、こういう風には考えなかったのかな。『このことをハンソンに知らせて、彼の口からカラバン先生に伝えさせる。こうすればカラバン先生への忠誠心を改めて示せるだけでなく、次の探偵事務所トップと目されるハンソンからも、信頼を得られる』とね」
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