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14.RD

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「ちょっとした冗談だ」
 分かりにくい冗談はやめてくださいと、浜本がぶつぶつ言うのを後目に、吉田は続きを追った。徐々にしわが深くなり、しかめっ面になる。
「――要するに、RDは室島にやばめなビデオをやったんだな」
 浜本が横合いから画面を覗く。スプラッターとかロリータといった単語があった。吉田は、こういう言葉を口にしたくない質なのだ。
「しかし、室島の自宅から、その手の物は発見されませんでしたよ?」
「接触した痕跡を消すために、RDが回収したな。いや、待てよ。それならD河川敷に四遺体を並べておいた意味が分からない。あんなことすりゃあ、遅かれ早かれ、気付かれるに決まってる」
「ひょっとすると、ビデオテープに自分の指紋が残っていることを恐れたんじゃないですかねえ? 拭き取ってはいたが、不安なので、回収したと」
「うむ、辻褄が合う。本当に冴えてるな、おまえ」
「吉田さんこそ、本調子じゃないんじゃないですか。さて、ここからが問題でして……RDは見返りに何を得たのか、書いてありませんよ」
「恐らくはコンピュータに関係あることなんだろうが、俺には想像もつかん」
「インターネットの掲示板に書き込むために、IDとパスワードをいくつかもらったんですかね? うーん、しかし、それじゃあ斉藤や木村が殺された件、訳が分からなくなりますねえ」
「確かに。ミレニアムキラー2000は斉藤や木村のパスワードを使い、書き込みやがった。室島からパスワードをもらっていたのなら、斉藤達をわざわざ殺してパスワードを盗むことはない」
「他に目的があったんでしょうね……ウィルスかな?」
「コンピュータを破壊するやつか?」
「破壊……まあ、そうです。ウィルスを使って、どこか重要なサーバをダウンさせようという意図を持っているのかもしれない」
「ややこしい話は飛ばしてだな、たとえばどんな事態が起こせるんだ?」
「ダウンさせる先や規模、もしくは症状によっては、鉄道や飛行機のダイアグラムに狂いを生じさせて、大事故につながる危険性がないとは言い切れません」
「かーっ、最悪だ!」
「あくまで、たとえばの話ですよ」
「それでも、起こり得ないことではないんだな?」
「可能性は低いでしょうが、ゼロではありません。で、でも、吉田さん。ミレニアムキラー2000は二千人殺しを画策しているのだから」
「それがどうした」
 手の平を広げ、いくらか表情をやわらかくしながら言う浜本に対して、吉田は眉を寄せた。
「ウィルスを使ってコンピュータを狂わせることで、飛行機や列車事故を起こしたら、どれだけの人数が犠牲になるか分からない。恐らく、二千人以上死んでしまいますよ。この手の犯罪者は、ちょうど二千人を殺した時点で犯行終了宣言を出したがるものではないかと思うんです。つまり、一度に大量の死人を出す手段は、もう選ばないんじゃないかと」
「……これまでの犠牲者は、確か四百七十何名だったよな。あと千五百名あまりを殺すつもりなら、飛行機か列車事故を起こしても不思議じゃないだろう?」
「いえ、ですから、ウィルスでコンピュータを破壊する方法を採るとしたら、特定の飛行機や列車を事故に遭遇させるのは多分、無理なんですよ。この方法だと、その時刻に動いている飛行機ないしは列車全てに影響が出ます。どのくらいの事故が起きるかは、誰にも予測できません」
「――気休めを言ってるんじゃないな?」
「え、ええ。ミレニアムキラー2000が二千ちょうどで殺しをやめるであろう、という前提に頼ってはいますがね。あ、それにほら、例の千人同時刺殺予告もあるじゃないですか。考えたくありませんが、もしもあの予告までもが完遂されたら、犠牲者の数は一挙に千五百名近くに達するから……」
「分かった、分かった。犯人が二千という数に執着してくれることを、せいぜい望むとしよう。無論、実際に殺させる訳にはいかんがな」
「それにしても、結局、コンピュータウィルスで何をする気なのかは、想像もつきません。室島から得た物がウィルスかどうかさえ、不明。いや、そんなこと言い出したら、室島が会っていた相手がミレニアムキラー2000である確証もないんですけど」
「ま、本物のウィルスじゃないだけ、ましだと思うことにするかな。病原菌をばらまかれては、手も足も出ない」
 自分らしくないと思いつつ、消極的な発言をした吉田は、肩をすくめて大いに嘆息した。
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