江戸の検屍ばか

崎田毅駿

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9.その方法を選んだ理由は?

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「ええ。さっき話に出て来た女中頭に、証言を取りに行ったんですよ。そうしたらなかなか興味深い話が聞けました。店の常連でおよしとつながりが強かったのは二人。ともに若い男で、一人は大工の一松いちまつ、いま一人は川漁師の国安くにやすと分かりました」
「二人とも知っているぞ。一松は昔、乱暴者で聞き分けがなかったが剛力ごうりきの棟梁のとこへ、半ば無理矢理弟子入りさせられてからは見違えるように真面目になったと聞いている。肌に合ったんだな、大工が。国安にしても博打好きなところを除けば腕はよく、ときに大枚を稼いだこともあったはず。あれは川海老だったかな」
「どちらかがおよしをやったんだとしたら、どっちだと思います?」
「分からんよ。そもそも、およしと親しい常連客というだけで、殺すだの何だのにつながる事情ってがあったのか」
「あるようなないような。両名とも、およしに惚れていたが、およしの方にはまだ男と所帯を持つのはおろか、付き合うつもりにもなれなかったようで」
「袖にされたから殺すってのも短絡的で、ぴんと来ないな。今の一松は昔と違って感情を抑えることのできる男になっていたように思う。国安は国安で、博打好きと言ったって熱くなる性格じゃない。冷静な判断ができるやつだ、あれは」
「でも、男と女の仲のこととなると、いつも通りに行かない例はいくらでも世に転がっている。旦那もよくご存知のはずですよ」
「それはまあ認めるが。結局、どっちなんだ。私を試そうとするからには、少なくとも高岩殿は二人のうちの片方を捕らえたんだろう?」
「はい。両者とも、殺しがあったと思われる三日前の夜にどこで何をしていたのか、明瞭な証を立てることはできなかった。なので、高岩さんが根拠としたのは、殺し方です」
「……」
「熱した釘を女の頭に打ち込むのは、漁師よりも大工の方が得手にしているだろう。何より、道具が始めから手近にある――という判断で、一松をしょっ引いていきました」
「ったく、しょうがねえなあ!」
 不意に声を張り上げた堀馬。びくりとした法助だが、当の堀馬はまだ無理が利かぬため、すぐには言葉を続けられない。ごほんと咳払いをして、残りの茶を干すと、ようやく喋れるようになった。
「これだから頭でっかちは。一昨日、外から殺しの件が聞こえて来たときに嫌な予感はしたんだ。俺が出張った方がいいんじゃないかって」
 興奮してきたのか、さっき「私」だった一人称が、「俺」になっている。日頃からごっちゃにして使う口だが、実のところ「俺」と言っているときの方が調子がいい。
「な、何かまずい点でも」
「高岩は、もとい、高岩殿は経験が少ないから致し方ないとしよう。翻って法助、おまえはもうちょっと頭を使うようになってくれ。俺のやり方、考え方はある程度承知していると思ったのだが、見込み違いか」
「そんな、私ごときにそこまでの眼力を期待されても、荷がかち過ぎでさあ。堀馬の旦那が“教科書”に拠らない判断を下したら、目を白黒させるばかりで、理屈を聞いてやっと飲み込めてるだけでして。新しいことを一から思い付くのは、まだ私には無理ってものです」
「ふむ。ならば、問うとしよう。仮に一松がこの件の咎人だったとして、何のためにそんな殺し方をしたんだろうな?」
「そりゃもちろん、死んだほんとの原因を隠すため、でしょ? 空き家に運び込んだところからして、行き倒れか何かで死んだように見せ掛けたかったんじゃないですか」
「実際はどうなった?」
 被せ気味に鋭く問われ、法助は思わず「へ?」と反応した。
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